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飛距離と的中精度と「F.O.C.」

今もアルミアローでは使われている「N.I.B.B.」と呼ばれる、砲弾型の
ポイントがあります。このポイントには、各サイズそれぞれに「N.I.B.B.7%=Regular Point」「N.I.B.B.9%=Heavy Point」と記載されているのですが、その説明に「F.O.C.」という記号が出てきます。
「F.O.C.」は「Front of Center」の略で、ATA(AMO)の統一規格のひとつです。

難しそうに書かれていますが、簡単に言えばポイントやハネの付いた完成矢の「重心位置」がどこにあるかということで、その位置が矢の長さの真ん中より「どれだけ(何%)」ポイント寄りにあるかを表すものです。

「N.I.B.B.7%」は矢の中心より7%ポイント寄りに重心があり、「N.I.B.B.9%」はそれよりも2%前に重心があるというのです。ところが、F.O.C.の統一規格として考えた時に、実際の使用では様々なシャフトがあり、それぞれ長さが異なり、ハネやノックの重さが違うにもかかわらず、N.I.B.B.7%のポイントを取り付ければどんな矢でも7%前方に、N.I.B.B.9%のポイントを取り付ければ9%前方に重心があるというのは、おかしな話です。
この%は、アルミシャフト時代にレギュラーポイントとヘビーポイントを区別するための商品名だったと理解すべきです。

では、カーボンアローになってからはどうでしょうか。カーボンシャフトがアルミシャフト以上に、寸法や重さに多様性があるとは言えませんが、なぜかポイントについては多様な重さが設定されています。そしてレギュラー、ヘビーといった分類はされず、選択はアーチャーに任せられています。
例えば、アウトドアで120グレインといったポイントを使うこともありますが、一般的には100グレイン前後のポイントを使用するアーチャーがほとんどでしょう。その場合、アルミアローに比べれば、少し先端が重くなっていますが、結果的にはF.O.C.が10数%になるということです。

そこでEASTONはこんな「目安」を示しています。ところが、こんな基準で自分の矢を作ったアーチャーはいないのではないでしょうか。ほとんどのアーチャーは、自分の経験則を踏まえ、矢飛びや的中でポイントの重さを決めているのが現実です。「チャート表」で決めるといっても、そこにはハネやノックの重さは含まれません。ポイントを重くしても、ハネが重ければ同じことです。
結果的にこの範囲に重心が収まることはあっても、F.O.C.自体はさほど重要な指針ではないのです。

発射された矢には、必ず「重力」と「空気抵抗」という力が働きます。そこで重要なことは、シャフトの種類や太さ、重さに関係なく、重心位置は矢の真ん中より前方にあるということです。必ずトップヘビーで、「前が重く、前をどれだけ重くするのか」が、個々のアーチャーにとって重要なのです。
そこで、矢をより遠くに飛ばすことを考えてみてください。やり投げも同じですが、スキージャンプでイメージしてみてください。

F.O.C.を小さくすれば、下からの空気抵抗によって風に乗り飛距離は伸びます。そして、頂点を過ぎて矢が落下しだすと、その空気抵抗は矢を後ろに転倒させる力となり、ゴールドを見失います。逆に前を重くし過ぎると、矢は失速し、ここでもゴールドを見失います。「飛距離」と「的中精度」は相反するのです。飛距離が長すぎても、短すぎても、的中精度は低下するのです。
矢が良く飛び、サイト位置が低いと自慢しても、逆に重く安定すると思っても、それらが的中精度を犠牲にした結果かもしれません。アーチャーはF.O.C.ありきではなく、自分の技術に見合った矢の飛び方とグルーピングを見ながら、矢の選択、重心位置の調整を行い、自分に合った矢を選択するのです。

F.O.C.は個々のアーチャー、個々の射ち方によって異なります。チャート表で決まるのではありません。そこで、ひとつ言えることがあります。同じアーチャーが、アウトドア(70m)とインドア(18m)で同じF.O.C.の矢を使ったからといって、同じ的中精度を与えてくれるとは限りません。それは風の中を放物線を描いて飛ぶ矢と、無風で一直線に瞬時に的に刺さる矢の違いです。
インドアでは、矢の総重量を含めF.O.C.が大きくても、ダウンして外れる矢は少なく、アウトドアより重いポイントがアドバンテージとなることを、試してみる価値はあるはずです。

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