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「授業料」と「経験則」

「スパインは何がいいですか?」

こんな質問や相談をよく受けます。いつも返すメイルは、「身長、体重、年齢、キャリア、点数、目標、目的」を教えていただければ、「雑談」はできますが、と書きます。
誰に相談されても、「絶対」はないことを理解してもらいたいのです。あなたに合う矢はあなただけのものです。アドバイスはできても、後で「飛ばない!」「当たらない!」と言われても、一切責任は持てません。
例えば、あなたと同じ身長で同じ矢の長さ、同じ強さの弓を使うアーチャーがいたとします。そのアーチャーの矢がきれいに飛んで、すごく当たるからといって、あなたがその人の弓と矢を射たせてもらって、同じ結果が出るかというと、そういうものではありません。
ドローレングスが同じでも、技術もフォームもキャリアも体格も、すべてが違うのです。あなたが使うのに、プランジャーの硬さを変えたり、ストリングハイトやスタビライザーのセッティングを変更するなら、それにともなうチューニングも必要です。ハネの種類やポイントの重さも、違うかもしれません。
 
これと同じことが、「スパインチャート表」にも言えます。この表は、それぞれのメーカーが、それぞれの矢のモデルごとに、この長さ強さならこのスパインのシャフトとが合います、といった適合を表したものです。その表を基に、「チャート表の矢の長さは、ポイントの長さを含みますか?」などの質問も受けます。

しかし正直、その程度はすべて誤差の範囲なのです。失礼な言い方ですが、あなたのリリースのバラツキに比べれば、何ら問題にならない範囲です。と言うと、怒られるので、もう少し説明を加えます。では逆に、今あなたが使っている矢が完璧に合っているとして、それより2センチシャフトを長くしたり、短くしたからといって、その完璧さが失われるでしょうか。もし気分的に納得いかなければ、プランジャーを1/4回転でもすれば、満足するのではありませんか。
それでも納得しないなら、「スパイン」は机上の測定値としてのシャフトを支える2点間のたわみ量です。しかし実際のシューティングにおける2点は、フルドロー時のクッションプランジャーチップとノッキングポイントの間の長さです。あなたが仮に矢を2センチ長くしたり、短くしたからといっても、その長さは支える2点間より外の部分です。その長さが影響するのは、矢の飛翔中です。発射時の最初に受ける、最も大きなエネルギーは、2点間で受けます。いくら矢の長さを変えても、2点間の長さは同じです。
もし影響させたいなら、シャフトの長さを変えるより、クッションプランジャーを、もう一つ前にある穴に入れれば、矢は確実に柔らかくなります。この穴はそのための穴です。

チャート表はあくまで参考であって、まったく同じシャフトの長さ、弓の強さであったとしても、そこには実際にシュートするアーチャーの技術やフォーム、スタビライザーやストリングをはじめとする付属品の仕様やセッティングが、一切加味されていないのです。
 
もしあなたがすでに自分の使う矢を持っているなら、お聞きします。「矢の長さは何インチですか?」。センチでも構いません。
あなたが初心者なら、チャート表に書かれている長さのように答えるでしょう。しかし上級者なら、こんな簡単な質問に正確に即答できるアーチャーは稀でしょう。ほとんどのアーチャーは、クイーバーから矢を取り出して、この長さです、と見せるしかないはずです。自分の矢の長さが、何センチ何ミリであるかは、普通は知らないし、知らなくても十分なのです。
なぜなら、矢の長さはチャート表で作ったのではなく、長年の練習と経験からクリッカーの位置に対して、試行錯誤の結果として決められたはずです。だから次に矢を作る時は、何センチ何ミリとは言わずに、手持ちの矢を元にシャフトをカットします。

チャート表に合わせて、矢を作るアーチャーはいても、チャート表に合わせてフォームを作るアーチャーはいません。射ち方に合わせて、矢は出来上がるものです。必要なのは「授業料」と「経験則」です。
絶対のスパインはありません。それを分かったうえでなら、いつでも雑談はさせてもらいます。

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