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綺麗でした

 人の顔を見るのが嫌いです。
 他人の顔の、なんと美しいことか。私の顔なんて比べ物にならなくて、人の顔を見ているとき、人も私の顔を見ているのだと思うと、怖くて。だから、人の顔を見るのが嫌いです。
 こんな私ですから、友人なんていません。むしろ、私に近付いてくる人皆、私の顔を面白がりたいだけなのではないかと疑って、拒絶してしまいます。
 あぁ、私、なんと愚かなのでしょう。
 私は、私が嫌いです。
 それなのに、私のことを、好きだなんて、信じられないじゃないですか。
 私は顔を俯かせたまま、目だけを動かしてその子を見ました。
 傷一つ無い白い肌に真珠のように輝く瞳。
 美しい、妬ましい。
「冗談はやめてもらえますか」
 私は顔を動かさず、小さな声で言いました。
「冗談じゃないのに」
 その子は不満そうに唇を尖らせました。
「わた」
「だって君、いつも綺麗だもの」
 私は、怖くなりました。
「私を揶揄っておられるのでしょう」
「君はいつも上品で、優雅で、優しいでしょう?君みたいな人のことを綺麗って言うんだ、きっと」
 私、ずっと君のこと見てたのに、君、気づかないんだもん。だから話しかけちゃった。
 そう言って笑ったその子は、やはり美しくて、私は惨めで仕方ありませんでした。
 私が何も言えないでいると、その子がいきなりわあっ、と大きな声をあげました。
 私が驚いて思わず顔を上げてしまうと、その子は両手で私の頬を挟み、顔が上を向いた状態で固定されてしまいました。
「ほら、やっぱり、綺麗じゃん!」
 心底嬉しそうにその子は顔を輝かせました。
「離して、ください」
 声を震わせながら言うと、その子は残念そうに両手を頬から離しました。私はすぐまた、顔を下に向けました。
「ね、知ってる?虹も、星も、足元にはないんだよ」
 その子は窓際に移動して空を指差しながら私を手招きました。
 仕方なくその子の横へ移動して様子を伺うと、私の方を見ていたその子と目が合いました。その子は、私より背が低かったのです。
 顔を見られるのが嫌で、その子から顔を逸らすと、目に映ったのは、虹。
 その美しさに、私は息を飲みました。
「綺麗でしょ?」
 その子は得意そうに笑っていましたが、私の顔を見るとすこし、驚いた顔になりました。
 それを見て、私は心臓が痛むのを感じました。やはり、私の顔は醜いのでしょう。
「君、いつもの顔も綺麗だけど、そうやって笑ってる方が、ずっと綺麗だね」
 そう言ったその子の目に映る私は────。

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