いつかどこかの研究所 朝の定時報告
「せーんぱーい!おっはよーございまーす!」
間延びした脳天気な声で挨拶をしながら、糸目の後輩、Aは部屋に入ってくる。
「朝の定時報告に来ましたよー!って、うわ」
俺が手に持っていた資料を机に置いてAの方を見ると、Aは露骨に引いたような顔をする。
「部屋に入るときはノック」
「あー、はいはい、すみません。で、先輩、寝ました?昨日」
Aは自分の目の下を指差しながら多少心配そうな声を出す。
「寝てない。それより、報告書」
こいつにはまともに受け答えしない。適当にいなしながら手を差し出す。
「ちゃんと寝ないとそのうち倒れますよー」
そう言いながらAは手に持っていた紙の束を俺に渡す。それをパラパラとめくる。……概ねにおいて異常なし。一〇三番の容態は依然悪化しつつあるという部分だけ気にかかるが……やはり、初期の頃の被検体はデータ不足が災いしたな。
「一〇三番くんはあと数日ももたないかもしれないって、C先生が言ってましたよ」
「そうか」
付け加えるようにAが言った。もう少しでCがフリーか。じゃあ新しい担当を考えないとか。……七二五番くらいがちょうどいいな。
「他に報告は?」
「特にな……あ、一つ。三一〇番ちゃんが四九五番ちゃんと会いたがってました」
「四九五番と?」
怪訝に思って聞き返すが、返ってきた答えは肯定。ここで嘘をつくとも考えられない。
「……そうか。後で申請しておく」
「よろしくお願いしますね!」
いつもの胡散臭い笑みを浮かべたAはそう言い残して仕事に戻って行った。
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