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休まない

 ある日、困ったことに、僕を突き破って鬼が出てきてしまった。
 真っ白な体に、真っ白な髪、唯一の色彩は口内と瞳の赤色だけ。顔の造形は僕とそっくりで、でも確実に何かが違う。いつも無表情で、むしろ不機嫌そうで、でも、不思議と怖くない。
 そいつは何をするでもなく、僕の後ろをついてまわった。どこにでも、ついてきた。起こす行動といえば、僕が人と話している時に舌を長く垂らすだけ。他の人は、鬼に気づいていないみたいだから、僕もだんだん気にしなくなった。
 そしたらある日、鬼の顔に罅が入っていることに気づいた。いつのまに入ってたんだろう。ここ最近、鬼を気にする余裕なんてなかったから、気づかなかった。いつから、こんな風になってたっけ。思い出そうとしたけれど、無理だった。あ、罅、増えた。
 鬼の罅は日に日に増えていった。でも、僕は忙しかったから、気にはなったけれど、放っておいた。
 そうして過ごしていたある日、鬼がいなくなっていた。綺麗さっぱり、そこには最初から、何も無かったみたいに。
 体が重くて、動けなかった。会社、行かなきゃ。

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