文体の舵をとっている14
〈練習問題⑨〉直接言わない語り
問三:ほのめかし
この問題のどちらも、描写文が400〜1200文字が必要である。双方とも、声は潜入型作者か遠隔型作者のいずれかを用いること。視点人物はなし。
①直接触れずに人物描写――ある人物の描写を、その人物が住んだりよく訪れたりしている場所の描写を用いて行うこと。部屋、家、庭や畑、職場、アトリエ、ベッド、何でもいい。(その登場人物はそのとき不在であること)
②語らず出来事描写――何かの出来事・行為の雰囲気と性質のほのめかしを、それが起こった(またはこれから起こる)場所の描写を用いて行うこと。部屋、屋上、道ばた、公園、風景、何でもいい。(その出来事・行為は作品内では起こらないこと)
作品の本当の主題となる人物や出来事については、直接触れてはいけない。これは役者のいない舞台であり、アクションが始まる前にパンしてしまったカメラだ。この種のほのめかしは、ほかのメディア以上に言葉が得意とするものだ。映画でさえ言葉にはかなわない。
好きな小道具を使ってもいい。家具、衣類、財産、天気、気候、歴史上の時代、植物、岩場、におい、音、何でもだ。いわゆる感傷の誤謬も最大限に発揮しよう。人物の理解や過去・未来の出来事のほのめかしにつながる小物や細部は、何にでも注目を向けよう。
今回は直接語らない”ほのめかし”でもってキャラクター性と物語を描写するものである。
①に関しては、部屋という書きやすい題材が提示されていたので、想定していた『ズボラで背の小さい女の子の魔女の部屋』という”答え”に行きつく形でガジェットとディテールを”式”に落とし込むことで比較的簡単に出力することができた。しかしどこか課題のための文章感が否めず、散りばめたディテールがストーリーに紐づいているかといえばそうではない。これは合評会でも指摘を受けており反省点のひとつ。
反対に②はちょっと苦労しており、吸血鬼という言葉を使わずとも吸血鬼モノ御用達のガジェットを描写することで”何が”起きているかをほのめかせるということを逆手に吸血鬼ゴシックホラーと仕上げた。
吸血鬼モノである、ということをオチにするために①とは違い、徐々に物語が進行していく構成にしてある。
講評覚書
・それぞれ「魔術」や「不吉」といった雰囲気や物語のジャンルを宣言する語をシグナルとして置くことで、読者にほのめかしの補完を促しており物語の立ち上がりの早さとなっている。→読み易さ
・ガジェット類が単なる羅列だけでなく、生活感やキャラクター性を乗せているのに一工夫を感じる。
・課題としては最適解に書けているけれど、実作を意識するのであれば①のお話がどういうお話になるのかがわからない。
・②は徐々に物語が立ち上がっていく構成で、①との対比としても良い試み。雰囲気が良い。
・外の様子から始まり丘の上や高台そして屋敷の様子を経て室内へ、と目線の意識が感じられる、視線誘導。物語を前進させようとする意志、動きのある描写→雰囲気ある予兆やタメになっている。
・①とは違い、大きな物語の冒頭にしても違和感のない文章である。
単語の間で勝手に読者がオカルト的想像力を発揮するため、ファンタジーやSFはタームの先出しが有効。
出来事にディテールを持たせろ。