〈練習問題⑧〉声の切り替え
問二:薄氷
六〇〇〜二〇〇〇文字で、あえて読者に対する明確な目印なく、視点人物のPOVを数回切り替えながら、さきほどと同じ物語か同種の新しい物語を書くこと。
もちろん、問一で書いたものから〈目印〉を取り除くだけでも問二に取り組めるわけだが、それではあまり勉強にならない。今回の「薄氷」では、別の語りの技術と、おそらく別の語りそのものが必要になってくる。今回はどうやら一見、三人称限定視点だけを使っているようでいて、実は潜入型の作者で書かれている、という結果になりがちのようだ。まさに薄氷の課題で、しかも下の海にはまってしまうと深い。
※語り方は三人称限定視点縛りとします。
※〈目印〉を取り除いた問一の実作を問二の実作として提出するのは禁止とします。
※「視点人物のPOVを数回切り替え」は3回以上とします。
前回より既定の文字数が増えたため、前作に追加の場面と描写を入れて語り直した。追加の縛りで視点の切り替えは三回とされたので、登場人物三名それぞれの視点を描き、彼らの背景や感情に触れられるようにした。前回では起きている出来事や行動に主を置いたので、そこに行きつくまでの感情や思考を描く書き方になり、やや課題のための文章を書いてしまった感が否めない。語り直しではなく、ゼロから別の物語を書いていればまた別のアプローチになったかも……?
講評覚書
・前回は各登場人物らの異なる視点が際立っており、状況をハッキリと把握することができたが、感情の流れをシーンの情景より優先させることで感情的なオチを付けようとする雰囲気が生まれる。ラストシーンに近いイメージ。
・視点の切り替えや背景が増えたことで、各登場人物が公平に見られるようになった。全体を俯瞰して見られるようになり、対立構造が前回より薄まる代わりに、最後のオチと緊張感がよりショッキングに映るようになった。
・エリック側の視点が追加されたのが良い。特に冒頭に配置されているので感情移入を誘う。
・映像再生の再現性が高い。視点の切り替えがヴィヴィッドで想像しやすい。無線通話での切り替えなどにも工夫が見られる→場面転換のヴァリエイションは自信あります!
・『エリックの前に躍り込んできたのは若い女の巡査だった。~』はエリックの視点なのだが、エリックがツバキのことを『巡査』と識別できているのは不自然である。『警官』が適切か。エリック側に警察の階級を識別できる前提がなければならない。
・間接話法、内言で誰の視点なのかがわかりやすい→内言描写が好きなのでわりと手癖。特に終盤のエリック視点での内言は状況も合わせて良い描写。
俺は警官のオタクなので出会う制服警察官の階級は常にチェックしている。