薬を過剰摂取してしまったおばあちゃんの本当の気持ち。不安で受診したがる高齢者たち

「最近、腰が痛くなってきてね」
「この前、火を消し忘れてあわや火事になるところだったの」
「薬飲んだかな?って不安になるのよね」

介護が必要になった親の動向、心配は尽きませんよね。

危なっかしく見える日々の様子を心配して、親が怪我をしないようにあれはダメ、これはダメ、ヘルパーさんに来てもらいましょうと、転ばぬ先の杖をたくさん用意する。そうやって、まわりの気持ちが先行して介護がすすむことがあります。

でも、親の、高齢者自身の本当の思いに気づかずに、自由を奪う介護をしてしまっていないでしょうか。

1日ですべての内服薬を飲んでしまう、あるおばあちゃん

地方在住。80代の1人暮らしのおばあちゃん。
夫は5年前に他界していて、子どもは2人。それぞれ海外、県外で生活しています。

心配性で繊細な性格。他人に気を使いすぎて疲れてしまうことがあるので、1人暮らしの現在は気楽な一方で、1人の不安や寂しさが押し寄せてくることがあるそうです。

物忘れや日時の感覚が曖昧になり、今は軽度の認知症だと診断されています。

「今日、薬を飲んだかしら?」

いつ、何の薬を飲むか。内服管理をすることができず、お薬カレンダーを使っているものの、日時関係なく取り出して服用してしまうこともあります。

加えて、風邪だとか、季節的な体調不良に関係なく、「なんだか不安」という理由で突発的に病院を受診することもしばしば。

以前、受診予定でない日に不安に駆られ病院を受診し、医師に処方してもらうことがありました。

が、その日のうちに、処方された薬をすべて服用。

一錠服用し、しばらくすると、飲んだか飲んでいないかが不安になり、また一錠、そしてもう一錠...と気づくと処方された内服薬をすべてその日のうちに服用してしまったそう。

幸い、薬効の軽いものだったため過剰投与による体調の異変こそ起こらなかったのですが、医師の指示通りに服用できないことによる病状の悪化や副作用リスクが高いことを、ご家族やケアマネやヘルパーなどの介護チームは心配していました。

そこで、知らないうちに内服したり出歩いたりしないように、近所の薬局もチームに入れ、処方箋が出たらケアマネージャーに連絡が入ることになりました。

おばあちゃんの本当の気持ち

このおばあちゃんは介護保険外サービスとして「わたしの看護師さん」をご利用だったので、「ご自分の体調についてどう感じますか?」「一人暮らしはどうですか?」とお話を伺うことができました。

(通常、介護保険適用のヘルパーですと、高齢者宅で話を聞くだけのために、ゆっくり過ごすことは「やりたくてもなかなか難しい」です。それは、例えば軽度の身体介護であれば20分以上30分未満...といった具合に制度や介護報酬上の決まりがあるからです。歯がゆいですよね。)

体調について

記憶力が下がってきていることを自覚していて、一日中モノを探していることも。自分の行動が不確かで、自信が持てず、常にそればかりを考えている自分が嫌になる...と心境を明かしてくれました。

体調を崩したら誰にも頼れない。
親戚を呼んだりすると迷惑をかけてしまう。
遠くに暮らしている子どもたちに心配をかけてはいけない。

そんなたくさんの気遣いが渦巻き、特に病院がお休みの週末や年末年始前に不安になり、なんとなく風邪っぽく感じると早め早めに受診しておいた方が良いと思い受診をするそうです。

1人暮らしの継続について

自分が若くて元気だったころは、子どもの人生を親の都合で決めてはいけないと、県外の進学も就職も結婚も反対しなかったそうです。

ですが、自分一人の生活に自信がなくなると、子どもを県外に出したことを悔やんでしまう。いまさら子どもには言えず、周囲からは「親孝行してもらわなきゃならないのに、なんで県外に出したの?遠くにいたら大変よ」と言われるたびに辛くなるーー。

一人暮らしが不安なら施設に入る選択肢もあるけど、いつも他人に気を使って生活するのは耐えられないかもしれない。きっとガマンできない。

1人暮らしの寂しさと、他人への気づかいを考えたら、先のことは分からないけど、今は自宅での生活を選ぶかな...と、いつも同じことばかりを考えてるそうです。

自由を奪ってしまう介護

認知症がある高齢者に対して、ケアマネージャーをはじめとする介護事業者やご家族は、事故を防止するため、勝手に内服しないように、勝手に出歩かないように、勝手に火を使わせないように...と、行動を制限して高齢者から自由を奪いがちになることがあります。

高齢者自身が怪我をしたり、事故に遭わぬようにしたいという思いが大前提にはあるのですが、自分たちが危ない目にあわせたと責任を追及されないようにとつい守りに入ってしまいます。

その結果どうなるか。行動を制限し自由を奪えば人は成長しないし、転ばぬ先の杖ばかり用意された日常では、昨日できたことは次第にできなくなっていってしまいます。

子育てと介護は正反対と言われますが、人の成長を考えると似たような一面もあるんですね。

今回のおばあちゃんとの会話から分かったのは、家族や親戚に対して迷惑をかけてはいけないという気づかいがあったということ。その結果、早めに病気を予防しようと受診をして、内服の仕方が分からなくなってしまったということです。

自分の行動に自信が持てず戸惑い、まわりに迷惑をかけたと嘆くおばあちゃんに対して、まず私たちはその周囲への気遣いに感謝をする必要があるんじゃないかーー心配で目が離せないから「迷惑」ではなく、まわりを思う気持ちで行動していることへの「感謝」の気持ちを。

思う気持ちが「迷惑」にすり替わる前にSOSを

ご家族も、お母さんを労わりたいという気持ちがあって、元気で長生きしてほしいという思いがあります。近くにいないからと言って親不孝なのではなく、遠く離れていても体を気遣い、会えない申し訳無さを抱えながら仕事や子育てに向き合っているはずです。

ですがその親を思う「愛情」が、過剰内服や深夜徘徊などの度重なるハプニングで自分の日常が犠牲になっていくと、次第に「迷惑」という思いにすり替わってしまいます。

服薬ができているか度々電話で確認をして、重い受診の際には病院へ付き添い、1人で生活が難しくなったら仕事を辞めて実家に戻り、入浴や食事を手伝ってーー全てをなげうって介護に向き合う日々は、はじめは気力でなんとかなっても、次第にやるせなさや疲労が募り、親を思う気持ちが迷惑や犠牲という思いに変わってしまう。

そうなる前にどうか、介護のプロにSOSをしてほしいと思います。

近くにいても、遠くにいても。家族は親御さんに対する感謝の気持ち、労りの気持ちを持ち続け、介護事業者は家族が未経験で対応しづらい身体介護(オムツ交換、入浴介助、内服や食事介助)をしたり、遠方である家族に代わって生活支援(買物代行、調理、洗濯、掃除)をする。

それぞれに最適な役割で関わることで、みんなが目の前の介護に集中でき、幸せになれる。これまで介護と向き合うたくさんの家族と接してきたからこそ、間違いなくそうだといい切れます。介護は家族だけで抱えるべきではないと。

「わたしの看護師さん」は、ご家族が親御さんに思う「感謝」の気持ちを大切にし、ご家族も親御さんも支えるサービスを続けて行きたい。一人のおばあちゃんの本当の気持ちから、そんな決意を新たにしました。


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