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日本人少年がバイエルン州U14代表としてピッチに足を踏み入れた日。
夏のキャンプを経て
束の間の日本での休息を楽しんだと思ったらドイツに到着したその日にチーム練習に参加する次男。
『さすがに体が重かった』
と足を引きずって帰ってきました。
さすが13歳男子、サッカーバカっぷりに勢いがあります。
前置きはさておき、7月に行われたバイエルン州代表選抜キャンプを無事終えた次男でしたが、なんとか8月末の2回目のキャンプにも召集されました。
今回召集されたのは前回と同様34名ですが、休暇や怪我など前回のメンバーには入らなかった選手を試す目的もあると事前に伝えられていました。次男を含む大多数は前回からの引き続き召集組ですが、三分の一ほどのメンバーは新しい顔ぶれです。
次男のチームからは今回も7名が召集され、そのうち一人は初参加でした。
アクシデント
私はまた近くの宿を借りて仕事をしながら見に行っていたのですが、初日にいきなり起きてしまいました。
次男のチームメイトであり親友であるD君は次男同様バイエルン州代表候補として召集されていました。
でも彼は以前から足を痛めており、夏休み前にはチーム練習や試合にも出られない状況でした。それが夏休みを経て久しぶりにピッチで一緒にプレーできることになり、次男もとても嬉しそうに二人でボールを蹴ったりしていました。
ところが。
初日一発目の練習は四対四でゴールキーパーありのミニゲームでした。ゲームの途中、D君が
『あっ!』
と小さく叫んで足を押さえると一瞬停まったのがわかりました。
そのままゲームを続けようとしましたが、しばらく様子を見ていたコーチがすぐに止め、D君はピッチの外に出ました。
可哀想なことにD君はその後ずっとピッチ脇を歩いたりジョグしたりして痛みを確認していましたが、完全に無理だということがわかったようでした。
その日からD君は自ら率先してボール拾いをしたり練習をしている仲間に声がけを続けていました。
その後次男に聞いたところでは、腿裏の肉離れを起こしてしまったらしく、
どうやら長引く怪我になってしまったということでした。
父の失敗
一度経験していると随分と心の持ちようも違うようです。
次男はこちらでは常に色物枠ですから必然的に目立ちますし、一度サッカーをすれば友達になれる性格上、選抜ではすぐに友達ができました。たくさんの友人に迎えられ、比較的リラックスして入れたと思います。
幸いなことに、以前から痛めていた膝の具合も日本で休めたのが良かったのか痛みが軽減したようで、患部を押さえると痛みはあるものの歩いたり走ったりする中での痛みはほぼ無くなったということでした。
ただプレーに関しては、初日に調子が上がらず凡ミスを多発しコーチに注意される場面もありました。うまくやろう、と思いすぎてプレーが固くなり、いつもならしないミスをして自信をなくす。自信をなくすからボールに関わるのが怖くなる。悪循環のお手本です。
二日目の朝からは練習の中でもようやくいつものプレーができるシーンが増え、練習中にふざけてちょっかいをだす余裕も見えて来ました。
そして午後、前回と同じであればそろそろ試合形式をフルコートでやり始めるタイミングです。
念入りに予定を確認して、14時半からの午後練に間に合うよう一旦ホテルに帰り、仕事を片付けてから落ち着いてピッチに戻ります。
まさに試合形式の真っ最中、さて我が息子は、と。。。
ピッチでプレーしている選手の中に次男がいません。あれ?と思って辺りを見回すと、次男含め数名の選手がピッチの周りをジョギングしています。
ははぁん、さてはこの後に試合に入るメンバーだなと思いピッチ脇に立ってその時を待ちます。
まだ待ちます。
試合が終わりました。
いよいよか、と期待します。
コーチが全員をピッチ中央に集めました。
もう一回気合を入れているんだな、と思います。
選手たちがゴールやマーカーを片づけ始めました。
・・・・って、え?解散?
誰がどう見ても練習が終わりました。頭の中を❓マークだらけにしながら他の父兄と共にピッチを後にし、携帯で次男にメッセージを送ります。
「2時半スタートじゃなかった?」
「いや、もっと前からやってた」
そうなんです。なぜか事前に発表されていた予定ではなく、二日目から午後練は13時半からに変更されていたようなのでした。痛恨。
次男は最初のグループで2試合を既にプレーし、クールダウンをしていたというわけでした。
本人にどうだったか聞いても、
「まあまあ」
としか返って来ませんし、参考になりゃしねえです。
仕方なく明日の朝練でコーチに聞こうと思っていたら次男が友達に午後練の開始時間を聞いてくれました。
「13時半だって」
とのこと。
いや、次男、お前も聞くんかい。
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キャンプの終わり、その先へ
三日目の試合形式も無難にこなし、いよいよ最終日は前回のキャンプで痛い目を見た朝からバチバチの試合形式です。
前回最終日に気が抜けて失敗してしまったことをあれだけ悔しがっていたのですから、本人も意識はしていたと思います。
全員体はくたくただったと思いますが、次男も最後まで気持ちを切らさずよく走りました。試合に敗れはしましたが、要所要所で献身的な守備やパス回しで貢献できたと思います。
D君も最後の試合形式には参加し、少しですが一緒にプレーできたことは次男も嬉しかったと思います。
最後の練習が終わって出て来た時の表情を見ても、不満気ではあるものの前回ほどの後悔はないことが見て取れました。
練習後コーチから伝えられたのは、
9月の後半に今回と前回のメンバーの中から16人を選んで、ブンデスリーガ下部組織Rの同じ年のチームと練習試合をする。
16人のメンバーに関しては試合の前になったら発表する。
ということでした。
Rには去年まで東バイエルン代表で共に戦っていた友達が3−4名移籍したチーム、次男はやはりその試合には出たい様子。
メンバー発表を待ちます。
メンバー発表
メンバーはいつもの通りメールで届きました。
9月19日、下部組織RのU14との練習試合兼セレクションの参加メンバーリストに次男の名前はありました。
静かに喜びを噛み締める次男。
「これで心置きなく友達をぶっ飛ばせる」
感情表現がおかしいです。
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我が家から車で1時間半、行って来ました。
選抜での対外試合は相手のホームで行われることは滅多になく、いつも第三者のグラウンドを借りて行われるのが通常です。
会場に到着すると早速相手チームの選手から声をかけられる次男。以前地区選抜で一緒になったことがある子だそうで。
アップの段階で、次男はスタメンではないことがわかりました。別グループが大人数で激しいアップをしている横で、次男を含め少数グループは別のコーチについて緩やかにボールを使ったアップを始めていました。
試合時間が近づくと親たちが三々五々集まってきて、脇にある小高い丘の上から観戦です。私もカメラと一脚を出してスタンバイ。
試合は30分を三本という次男の所属しているリーグのルールで行われました。
一本目のボランチは次男のチームメイトでボランチのコンビを組むB君と、地区別選抜で戦った南バイエルンで不動のボランチを努めていたDe君のコンビです。B君は恵まれた体格とそれに似合わぬ細かいボールの扱いが上手なタイプ、De君も同じく上背のあるボランチですが、常に冷静にボールをコントロールしてどちらかと言えば攻撃が好きなタイプです。
キャンプ中の様子ではB君をセンターバックに使うオプションも試していましたので、どちらかと言えば攻撃;De君、守備;B君というバランスで選んだと予想しました。
試合は序盤からサイドのスピードを活かした攻撃でバイエルン選抜が優位に展開し、2点を先制して幸先の良い形で一本目を折り返します。
二本目はメンバーを7人交代し、ボランチのコンビも次男と東バイエルン選抜時からコンビを組むV君に交代されました。この場合、今までの形ですとV君の攻撃意識が強いので、次男が守備的な位置から展開することを期待されての配置だと思います。
始まってみると、やはりバイエルン選抜がボールを多く保持する展開で進みました。
次男も集中できている様子で、V君と慣れたコンビネーションを見せつつこのところの課題であるボールに多く関わり、その中でロストを減らすという点が上手く達成できていました。
試合はボランチのサイド展開から瞬足ハーフが抜け出し、シュートのこぼれ球を次男のチームメイトL君が押し込んで3−0。ところが直後選抜の二人目のキーパーがビルドアップ時に相手FWのプレスにボールをこぼしてしまい、それを押し込まれて失点、3−1で三本目に入ります。
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三本目、今度はボランチのコンビはDe君と次男の組み合わせになりました。
7月のキャンプで一度試した組み合わせですが、前回のキャンプではその機会が全くなかったので次男も組んでみたかった、と言っていた組み合わせです。少なくとも私の目には一番バランスの取れた組み合わせに見えました。
この試合はあくまで審査を目的としたものですから、三本目は通常また大きくメンバーを入れ替える必要がありますから大体15分くらいでまた7人くらいを交代させます。
交代メンバーは選手には伝えてありますので、その時が来るとパッと交代するのですが、もちろん選手の自己判断で交代を申し出ることも可能です。
次男はその日若干風邪気味だったこともあり、15分経って交代の場面になった時、自分も手を挙げて交代しようかなと少し考えたそうです。
しかし、今までの選抜の試合では最後の場面に立つ機会がほとんどなかったこともあり、ピッチで勝利を味わいたい、という思いが強くあり、そのままコーチの指示通りプレーを続けたということでした。
Rの攻撃陣もコーチの修正を受けカウンターを主軸に戦い、残り7分で一点を取り返しスコアを3−2の展開に戻します。
どちらも体力を削る戦いの中でバイエルン選抜チームはチーム全体でよく戦い、攻撃では相手のゴールポストを何度も叩き、守備では組織的に守り切り、最終スコア3−2でバイエルン選抜の勝利になりました。
Rの選手たちが素晴らしかったのは、試合が終わったら爽やかに握手を交わし、いい雰囲気の中で試合を終えられたことでした。次男にも何人かの選手が賞賛の声をかけてくれたということです。
この日のパフォーマンスには本人としても初めて満足のいったプレーが多くできたらしく、帰りの車では終始テンションが上がりっぱなしでした。
おかげで夜寝るのが遅くなり、次の日がグッダグダになったことはいうまでもありません…。
次の選抜へ
この試合の後、今度はまた州選抜キャンプが近々行われると伝えられました。
ただし今度は今回の審査を経て招集されるのは18人だけということでした。
ここから先はさらに広がった地域の中で州の代表としての活動が増えていくということで、もしも選ばれることがあれば次男にとってまた大きく成長できる経験になることは間違いありません。
果たして新たな局面を迎えることになるのか、それとも挫折から学ぶのか。
また記録していきたいと思います。
読んでいただいてありがとうございました。