銀行強盗【ショートショート】
息を切らしながら、目指す銀行へと一目散に駆け込んだ。はー!はー!っと息を荒げる俺。それをみて見るからに不審の目を送る案内役の女性銀行員。
「お客様、大丈夫ですか?」
息も整わないままに俺は言う。
「だ、大丈夫れす…」口が回っていない。
「今日はどのような御用件で?」
「じ、実はキャッシュカードが…」
「ご紛失されたのでしょうか?」
「いや、破損してしまって…」と、ICカードを無理やりセロテープで止めたキャッシュカードを見せる。
「あ、そうでしたか。お客様、閉店間際なので手続きできるか奥で確認してまいります。お掛けになってお待ちください」
そう、もう16時58分。当然ながら多くの銀行は17時で閉まるのだ。イスに腰掛けて待つ…
そうして17時を迎える。けたたましい音を響かせシャッターが閉じる。手に持つスマホを片手に担当の銀行員を待つ。硬貨のジャラジャラという音、他の銀行員は閉店後の作業に没頭している。
「お待たせしました」と呼ばれたので、立ち上がろうとしたところで…
「キャー!!!!!!」
と悲鳴。同時に女性銀行員を前に立たせ、男が闖入してきた。手には黒い物体が…、あれは銃か?カウンター内の各銀行員にそれを振り回して威嚇すると、
「ぶっ放されたくなかったら、大人しく金を出せ!責任者は誰だ!!」と、威圧感たっぷり風に男は叫んだ…
銀行員達は務めて冷静に対処しようとしているが、対する男は興奮して周りがみえていないようにも…。あれ?俺は蚊帳の外か風景のようにどちらにも忘れられている…。手にしていたスマホで文字を打つ
〔強盗なう〕、送信と…
すぐに返答、〔マジか?こんな時に冗談いうな〕
〔冗談ちゃうし、マジだし〕
銀行強盗に遭遇しているのに緊張感のないメッセージだな…と思い、みんなが忘れているうちに外に出ようかと歩み出した。閉店後、当然出口は強盗が入ってきた裏口しかない。
はぁ…とため息をつきつつそこへ向かう。途中男に目をやると持っているのは銃か。ただ、黒光りが安っぽい。おそらくモデルガンだな…と思いつつも、誰にも声もかけず、誰にも見つからず…
入り口にはもうひとり男がいた。それらしい警備員服を来ているが、コスプレ感が半端ない。裏口とはいえ明らかに目立ちすぎやろ…、と肩を叩いてみる。振り返った男は一瞬間があったあとに、
「お前、なんだよ!どこから入ってきた!?」
と言うので、
「いや、中にいましたよ。帰るんで通してもらえます?」
「はぁ?中にいたならそんなわけにいかないだろ!!」
と、銃口を向けてきた。こいつも持っていたんだなと思うと同時に身を翻し足払いをする。
「痛っ!」と地面に倒れ込む男に、足を打ち込み、さらには覆い被さるようにして首元に肘を押し付ける。
「あのさ…、2人で銀行強盗ってなめてる?お前ら初犯だろ?」
声にならない声で「あ、あんたにゃんなんだりょ?」というので、
「こっちは数ヶ月がかりで調べてきたのに、素人に邪魔されちゃ困るんだよ…。さっき通報しといたからきっちり2人で罪償えよ?ちなみに、そんなちゃっちい銃、すぐにイミテーションて分かるから。犯行はご計画的に」
トドメに鳩尾に拳を撃ち込み男を気絶させた。同時に全面黒のミニバンが路側帯につけた。俺はそれに乗り込む。
「とりあえず出してくれ、すぐ警察来るだろ?」
「また計画練り直しだな…」
「まぁな…」
猛スピードで銀行を後にした。
【了】
※トップ画像は「みんなのフォトギャラリー」から稲垣純也さんの写真を拝借しました。