4. 石橋の評価のまとめ
掛橋の石橋の技術的な特徴は、従来の石橋形式である直方体の溶結凝灰岩等の石材を積み上げたブロック型石橋でなく、花崗岩を用いたリブアーチ型石橋が江戸時代末期に架設されていたことである。リブアーチ型石橋は、他からの伝搬でなく、基本的なブロック型の石橋構造の特徴や弱点を学び、花崗岩の特性を生かした石橋構造を模索する中で、新しい石切場の開拓と加工技術が向上し、加工できる地元の石工集団がリブアーチ型石橋を着想した可能性が大きい。また、民費で架設された掛橋の石橋は、主には櫨蝋を主体とする生産活動に大きく寄与したと考えられる。また、遠賀川右岸は豊前国との国境であり、桑野村の遠賀川右岸に位置する集落には国境警備等にあたる郷足軽が配置されていた。つまり、有事等の際には遠賀川を渡り、日田往還を利用して速やかに情報伝達を行う必要があり、軍事上の目的からも耐久性の高い石橋はその有用性が期待された可能性もある。
以上のように、花崗岩分布地帯の遠賀川上流域には、その特性を巧みに利用した独自の石橋文化が、小規模ながらも形成されていたことが判明し、県内の石橋文化に新たな評価を与える可能性をリブアーチ型の掛橋の石橋は有している。遠賀川上流域のリブアーチ型橋群の中で、唯一現存する掛橋の石橋は、桑野地区の有する地理的、地質的条件が生み出した文化遺産であり、その独自性において県内でも稀有で非常に価値ある土木遺産であると言える。
嘉麻市教育委員会:嘉麻市大字桑野字掛橋に所在する石橋調査、2021.4
福岡県地理全誌』(1876年)
『秋月封内図』(1832年)
熊本大学名誉教授 山尾 敏孝氏レポートより
※現在この橋は見学できません。