世界金融の実体、および株価と通貨レートの推移 ファンド金融を軸に吉田繁治氏が解説

ご本人の了解のもと、以下にご紹介いたします。

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     <Vol.1467号:正刊:断章:波瀾の盛夏>

 2024年8月21日:米国の不況化と利下げ期待から、
         コロナ後の資産バブルの崩れが始まる

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セブン&アイに対し、カナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタールが買収を仕掛けました。

当方もよく知りませんが、「クシュタール」や「サークルK」などのブランドでカナダやアメリカ、ヨーロッパなど30の国で事業を展開し、従業員の数15万人、店舗数1万7000店という。売上は692億ドル(10兆円)ですから、11兆円のセブン&アイとほぼ同じです。

セブン&アイの主要な業態は、GMSのヨーカ堂とコンビニのセブン・イレブンです。セブン&アイは世界に8万5000店をもっています。アリマンタシォンの店舗数の5倍であってコンビニとして世界1です。

現在のドル円での売上規模はほぼ同じでも、アリマンタシォン・クシュタールの株価時価総額は、779億ドル(11.3兆円)と高い。セブン&アイは4.6兆円の株価時価総額ですから、株主が評価する会社価値は、セブン&アイの2.5倍です。完全買収には5兆円が必要ですが、バブル経済のカナダ・米国の資本市場は5兆円を出すでしょう。セブン&アイが断った場合、5兆円でTOB(敵対的買収)を行うという。セブン・アイの株価は、1600円から2200円へと、1日で38%急騰しました。株価時価総額は5兆円規模です。

昨日このニュースを知り、まず思ったことは、1ドル150円台のレートは、物価で換算した「購買力平価」では94円付近ということです。円は、購買力平価では0.63倍に過小評価されていて、逆にドルは1.6倍過大評価されていることです。

2倍のドル高・円安が理由で、ドル建てのアリマンタシォンの株価時価総額が円建てのセブン&アイに対して2.5倍の大きさになり、買収を仕掛けたのです。

日本の物価は、円安から米国とドル圏に比べて63%です。約4割低い。同じことですが、ドル圏の物価は、円に対して1.6倍高い。
海外旅行が2倍くらいに高くなった理由でもあります。

インバウンド消費でも、日本の物価は0.63倍です。海外からの観光客が2500万人、消費額は5兆円超で過去最高になっています。

円が過小評価(=ドルが過大評価)されているため、セブン&アイの円売上も、ドル圏からは0.63倍になっていて11兆円です。
一方で、カナダのアリマンタシォン・クシュタールの売上10兆円は、円では1.6倍大きくなっています。

事業の差ではなく、通貨の差です。1ドル160円台だった円安が、セブン&アイの買収を受ける原因です。オリンピックで言えば、縮尺が違うレースであって公平ではない。

買収の原因となる株価時価総額の過大な評価も、ドル円での歪みである1ドル160円台まで行った超円安から来ています。商品販売の事業の、実質的な内容ではセブン&アイが1.6倍上です。

セブン&アイは、自分より4割小さい事業から買収を受けるという「円安の被害」を受けたのです。

【日米の、株価時価総額】
25年前のことでした。1989年12月には日本の株価時価総額(600兆円)は米国を上回っていました。これは、3倍の過大評価でした。実力の200兆円がバブルの600兆円とされていたのです。
株価では3倍、地価でも、合理的価格からは3倍のバブルでした。

現在米国株は、ウォール街のNYSE(ニューヨーク証券取引所)と、タイムズスクエアにあるナスダックの合計で、51兆ドルです(7650兆円)。日本の株価時価総額が1000兆円付近ですから7.6倍も高い。

ドル圏の米国株は、2倍から3倍に過大評価されていると判断します。1989年に日本企業の株価が3倍に過大評価されていたことと同じです。それからは25年経っていますが、資産価格の歴史は繰り返しています。

技術と流通の規模で、日本の小売業のトップのポジションのセブン&アイが買収されるのはなんだか寂しい。経営技術ではなく、円安が原因だからです。

この円安の原因は、471兆円のドルの累積買いです(円売り・ドル買い)。売りが多い通貨は下がり、買いが多い通貨は上がる。

これだけのことです。銀行で円をドルに換えることは、「円の売り、ドルの買い」です。海外進出企業では、30兆円(2000億ドル)くらいの所得収支超過(経常収支の黒字要素)がありますが、円の金利が0%から0.1%と低いため、5%の金利がつくドルのままにしています。

ドル経済圏の企業(ドル建て)は、同業の日本企業(円建て)に対して、歪み(偏向)があるドル高・円安ため、現在は2倍の価値として評価されています。日本が衰退しているのでない。ドルが高すぎ、円が安すぎる歪みがあるのです。

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    <Vol.1467号:正刊:断章:波瀾の盛夏>
       2024年8月21日:有料版

【目次】
■1.ずっと昔に行った提案
■1.コンサルタントとしてずっと昔に行った提案
■2.社員とは何か?
■3.株の価値について
■4.期待は心理(経済額の用語ではセンティメント:感情)
■5.通貨レートと相関性の高い実質金利
■6.ヘッジファンドの低い利益が意味すること
■7.次回の世界金融危機は、ファンド発になる
■8.日本発ブラックマンデーのときの、リアルマネーの金価格の動き
【後記】

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■1.コンサルタントとしてずっと昔に行った提案

日本のバブル期の1980年代後期に、日本のNECがトップだったIT企業は、当時の世界ITのトップだったIMBを買収できる。
IMBと代表的企業を買収すれば、日本の高い成長は続くと提案したことがあります。

周囲は「途方もない」という反応でした。当時の株価時価総額と金融力では、日本は米国の主要企業の全部を買収できるパワーをもっていたのです。

「マネー価値は社会の集合観念がつくった幻想のもの」なので、幻想のパワーですが、通貨ではそれが現実のパワー(資産と商品の購買力)になります。

しかし1980年代後期の日本には、企業買収という事業戦略な概念がなかったのです。

上場企業から集まった流通講演会の、講演後パーティーでのことでした。幹部社員が多かったので、「公開されている自社の株を、ボーナスで買い続けたら、いいでしょう。経営の立場に立てるからです」と申し上げましたが、反応は「???」であって、皆無でした。

むしろ否定する意見が多く、ひどく不思議に思ったのです。
たぶん株の意味を知らなかったのでしょう。

「意識が社畜」になっていたのです。あたかも牧場の忠実な羊の群れ。今なら、どんな反応になるでしょうか。

官僚は、いまも社畜です。大臣ではなく、組織の権益と天下りに忠実であって、これがキャリア官僚の行動様式です。その典型はいつも増税を言う財務省。現在、租税と社会保険料の国民所得での負担率は50%です。これで経済が成長するわけがない。

所得が1200万円のエリートも、所得税より大きくなった消費税+所得税と社会保険料が、600万円も取られる。可処分所得は、600万円しかない。米国で同じポジションなら3倍の所得があります。消費税はゼロにして、修正していかねばならないのです。

1980年代までは低賃金で有名だったウォルマートの店長やマネジャーの平均年収は、現在、12万ドル(1800万円)です。利益分配のボーナスを含むと40万ドル(6000万円)です。現場ワーカーの最低時給は14ドル(2100円)、日本の2倍です。
https://www.cnn.co.jp/business/35214097.html

加えて、所得累進の日本の最高税率は45%と高い。米国では最高税率が37%であり、10万ドル(1500万円)以下の所得のひとは、日本の約半分の22%です。こんな国に誰がした? 財務省です。

■2.社員とは何か?

当時は、正社員と終身雇用の空気の時代でした。1980年代は小売業にも、パートは少なかったのです。

政府には、「正社員とパートの時間当たり報酬にある、2.5倍から3倍の違いが正当化されているのは、何が根拠か」と問ったのですが、答えは、「長期雇用で転勤、転属がある」ことくらいの理由しかなかった。世界の労働法(ILO)では、「同一作業、同一賃金」でした。

会社法では、社員は株主のことです。「会社法では、社員は出資者を意味し、株式会社の社員は株主と呼ばれます」。

ところが日本語の「社員」を英語にするとEmployee。会社から雇用された人です。日本語の「社員」という概念は、英語圏とアジア圏にもない。極東の日本文化は、この意味で特殊です。

米国への、初めての入国でのとき(25歳だったか)。職業(Job)は?と聞かれて、零細な個人の独立事業主でしたが適当な英語が浮かばなかった。仕方なく、I'm working at a Company.査察官は、一瞬、妙な顔をしていましたが入国許諾のハンコは押しました。どう言ったらいいのでしょうか。彼らの警戒は、ワーキングビザをもたず米国で不法に働く人を防ぐことです。

米国のファンドマネジャーも、会社からマネー運用の業務の委託を受けた、独立事業主です。入国の査察官は政府官僚です。

買収を受けたことを知っているはずのセブン&アイの「社員」は、今日、どんな気持ちで働いているのか? 企業買収は、成層圏のことであり、自分には関係のないこととしているのか。

■3.株の価値について

「株(英語ではStock、経済学では資本)」という言葉も、奇妙なものです。株は会社を作るとき必要な出資金を、証券化したものです。この証券(株券)が会社の所有権と経営権を示します。

不動産でいえば、所有権の権利証を分割したREIT(リート)です。上場が認可されれば、株式市場で不特定の買い手が現れます。

株の価格は、その事業の、将来の純益の累計(未来のマネー)を、長期国債金利と利益実現のリスク率で割り引いた現在価値(Net Present Value)です。資本主義では、会社の利益は、労働ではなく株(資本)に帰属します。

〔原理〕株価は、会社の不確定な未来利益を、金利と不確かさの確率であるリスク率で割り引いて、現在価値にしたものです。事業利益が上がると期待される会社の株価は、高くなります。

投資家の集合が寄せる事業利益への期待が過剰なときは、株価は合理的な割引率で現在価値に還元した価格より高くなります。

これが、PER15倍を超える株価でしょう。PER16倍では、未来利益の割引率が1÷16倍≒6.3%ですが、PER60倍では、1÷60=1.7%に下がるのです。

割引率である「長期国債金利+利益実現のリスク率」は株式益回りと言っています。PER(株価÷期待純益)の、逆数です。PERが15倍なら、株式益回りは、1÷PER16=6.3%です。
株式益回り=次期期待純益÷現在の株価です。

半導体のNVIDIAのように、株価のPERが次期期待利益の60倍と高い株は株式益回りは1÷60=1.7%ととても低い。1.7%は、米国の金利より低い。金利は、1年後の現金の価値(購買力)の、割引率です。

なぜこうなるのか。理由は、投資家の集合が、「NVIDIAに対して、将来純益の大きな増加」を期待しているからです。

S&P500社の、150年平均でのPERは、16倍付近です。株式益回りは「1÷16≒6.3%」です。これが米国株の基準です。100年では株価変動の、500社平均の、150個のサンプルがあることになり、統計的に確かさが増します。

PER60倍付近のNVIDEAの株価には、1株当たり純益(EPS)において、500社平均のPER36倍の、約2倍の期待があるのです。
これが合理的かどうか、数年後の会社利益を見ないと分からない。
(シラーP/Eレシオ:1870-2024)
https://www.multpl.com/shiller-pe

AIへの期待の中心にあるNVIDEAへの、NVIDEA株を買った投資家の将来期待純益は、S&P500社の1株あたりの期待純益の平均額より、2倍高い。この株価が妥当かどうかは不明なので、日々のAIとデータセンター関連の、需要情報で変動しているのです。

国債金利はほぼ一定であっても、株式益回りの将来の純益と実現リスク率は、投資家の心理で変動しますから価格は日々変動します。年間に延長した株価の変動幅が、ボラティリティ(VIX)です。

■4.期待は心理(経済額の用語ではセンティメント:感情)

期待は確定した数字ではない。将来への、心理的なものです。
「上がった株は上がる」、「下がった株は下がる」という米国には多い順張り投資家の集団心理から、影響を受けます。

日本の個人投資家は、順張りの米国人と逆に、株価が下がったとき買いを増やす逆張りの傾向が強い。

将来を期待するのは、人間だけです。犬や猫は、自分の過去の経験からしか予想しません。犬は、昨日の人と同じかどうか、その都度、匂いで確かめます。本能の遺伝はあるでしょうが、言葉でコミュニケーションして作る社会はない。

人間の言葉とともに誕生した、「社会の幻想の価値」の通貨は、使いません。言葉は、社会的なものです。ロビンソンのように、動物だけの孤島にいれば、金と通貨は、海で獲る魚より無意味です。

信用の価値を示す通貨は、言葉による信用社会と王権の形成とともに、誕生しました。封建諸侯の出自である、武装した山賊や野武士の集団は貴族の王権に従わないマフィアでした。クロサワの名画「7人の侍」を見ると分かります。

西部劇に見るように、新興国の米国では銃が秩序を作ってきたのです。このため、米国では銃の規制が進まない。連邦軍ではない州兵の制度もあります。王権の国境を超える価値をもつ金が通貨になる素地は、米国にはあったのです。

信用通貨は人工的な法域という国境をもちますが、金の価値には法域と国境はなく、普遍性があります。信用通貨論のエコノミストは、ここを見ていない。

世界の通貨は、WTO(世界貿易機構)に加盟することと、中央銀行がBISに加盟することによって、外貨との交換性を確保しています。

人民元が、外貨との交換性をもったのは、中国経済を開放し、貿易を自由にした1994年以降です(ドルペッグの人民元)。中国が上海機構を作ってBRICS通貨に向かっているのは、ドルペッグ通貨からのがれるためです。

【通貨の、社会的な価値】
1万円の価値は、「1年後にも1万円(マイナスインフレ率)の購買力がある」という社会・集団的な予想に立ったものです。自分だけが価値があるとしても、他の人と社会が認めないと、通貨の価値はない。

日本で預金する人が多いのは、日本のインフレ率が、過去30年、0%付近と低く、円の価値が維持されたからです。トルコでは、金利が50%であっても、75%のインフレ(24年5月)なので、リラの預金人気はない。代わりにドル買い、ユーロ買いの人気が高い。

現在、
・米国の長期インフレ予想は、3%付近(長期金利は3.8%)、
・ユーロは2.5%(長期金利は2.5%)、
・日本は2%あたり(長期金利は0.8%)です。

【行動経済学が立証したこと】
なお購買頻度の高い商品では、米国世帯のインフレ感は10%、日本でも10%です(日銀:生活意識調査)。これが、世帯の主婦が商店で必要なものを買うときの物価への意識です。店頭で価格を判断するとき、主婦が無意識に想定している行動経済学の物価インフレは3%ではなく10%です。

政府の物価統計のインフレ率より、いつも2倍から3倍、高い。
経済においては、1)物価インフレ、2)金利、3)失業率が、重きを成す3大指標です。このため歴史上最高の経済学者ケインズは、『雇用・利子および貨幣の一般理論』を書いています。
https://www.boj.or.jp/research/o_survey/data/ishiki2407.pdf

スイスのインフレは1.4%と、米国、ユーロ、日本より低い。
これが、スイスフランの高い価値を支えています。

■5.通貨レートと相関性の高い実質金利

経済原理的には「期待インフレ率=金利」です。
石油危機の1970年代から、政府財政の赤字が増えたため、中央銀行が金利に強く介入することなって、「期待インフレ率>金利」になっています。0%であるべき実質金利は、常に、期待インフレ率より低かったのです。

「名目金利(政策金利)-期待インフレ率」を実質金利と言っています。

日本は、現在、名目長期金利が0.8%、期待インフレ率が2%付近ですから、円の実質金利は、マイナス1.2%です。円建ての長期国債をもっていれば、1年後には1.2%損をすることを示しています。

(注)食品とエネルギーを除くコア物価のインフレにつれて利回り(クーポンという)が上がるインフレ連動債(BEI:10年もの)の金利は、現在1.5%です。2020年は0%でした。日本の2021年からの2%から3%のインフレで1.5%に上がったのです。金利が2016年からほぼ0%だったので、発行量が3.5兆円と少ないインフレ連動債は、銀行や証券会社で買うことができます。
 10年債の金利0.8台%よりは高いのですが2%の期待インフレ率には及んでいません。
https://www.mof.go.jp/jgbs/topics/bond/10year_inflation-indexed/bei.pdf

一方、米国は名目長期金利が4%付近、期待インフレ率は3%あたりですから、実質金利は+1%です。これは、インフレを抑え、ドルを引き締める金利です。

円は実質金利がマイナス1.2%、ドルは1%ですから、インフレで損をする円が売られて、実質金利がプラスでマネー投資が得をするドルが買われる。通貨の売買の結果が、今日のレートの、1ドル147円台の円安です。

7月初めの160円台の超円安からは、
・日銀の0.15ポイントの利上げからキャリートレードの巻き戻し(=推計30兆円のドル売り・円買い)が起こり、
・147円になっています。

実質金利は、円がマイナス1.2%、ドルはプラス1.7%のままです。

円とドルの実質金利が、仮に同じになると、ドル円のレートは購買力平価の、90円台になるでしょう。

ドルが40%暴落し、円が40%暴騰します。いろんな理由付けがされますが、各国の実質金利の差が、購買平価とは違いがある通貨レートを決めると考えておいていいでしょう。

■6.ヘッジファンドの低い利益が意味すること

【(1)ファンドの利益率】
機関投資家や金融機関が利用しているヘッジファンドとインデックスファンドの利益率は、実は、とても低い。プライベート・エクイティファンドも同じです。ファンドは、私的な投資組合の概念であって、シャドーバンクです。

銀行には、預金の安全のため政府の、様々な規制があります。国民の預金保護のために、銀行の危機のときは政府または中央銀行が不足するマネーを補填します。

ヘッジファンドとインデックスファンドはシャドーバンクの範疇であり、調査と規制がない。運用の赤字から解約が増加し、ファンドが消滅の危機になっても、中央銀行は何もできないのです。

ファンドへの助力としては、株価を上げる目的でFRBが金利を下げることくらいです。しかし、ドル金利の下げは、「円買い・ドル売り」を増やすので米国株の上げにはならない。ドルが構造的に、海外からのドル買いに頼る赤字通貨だからです。

(注)ドルの利下げが米国株の上昇につながらないことの一般的理解は、進んでいません。ドルが、海外からのドル買いの超過(年間1兆ドル:150兆円相当)に頼る赤字通貨であるという認識をもっていれば、これが理解できます。

【(2)ファンドの資金量は銀行より大きい】
2000年代には、銀行よりシャドーバンクが、資金量では大きくなっています。(数少ない、シャドーバンクの研究論文)
https://www.jsri.or.jp/publish/research/pdf/124/124_06.pdf

2022年の、機関別の資金量は以下です(米国:FRBの統計)。
1)年金基金   25兆ドル(3750兆円)→ファンドを利用
2)貯蓄銀行   25兆ドル(3750兆円)→ファンドを利用
3)保険会社   12兆ドル(1800兆円)→ファンドを利用
4)投資銀行    5兆ドル( 750兆円)→ファンドを利用
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 総資金量   67兆ドル(1京50兆円)

米国のマネー量は、銀行が27兆ドル(4050兆円)、ファンドが37兆ドル(5550兆円)と見ていい。

二重計算になりますが、集計のあるファンドの投資信託は、以下です
1)Market Fund  20兆ドル(3000兆円)
2) MMF       5兆ドル( 750兆円)
3)ETF       5兆ドル( 750兆円)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 総資金量    30兆ドル(4500兆円)

【(3)ファンドの利益率は、株価指数より低い】
24年8月の米国ヘッジファンド500本の利益はマイナス0.5%~0%でした。最近の1年間でも、2%~5%程度と低い(HFRの集計データ)。

指数株のS&P500は、最近の1年では4500ドルから5600ドルに上がっていて、1年間持ち続けたときの含みの利益率は、24%です。

ファンドの運用利益率は、S&P500や日経平均の株価指数に比べて、ほぼいつも低い。「株価の自然に、人知のポートフォリオ(債券の組み合わせ)」は及んでいません。

【(4)ヘッジの意味】
その理由は、ヘッジファンドは反対売買をして、下がったときも損が大きくならないようにヘッジしているからです。

・株価が大きく下がるときはヘッジのため指数株の下落幅より損は少ない。
・逆もまた真なり・・・株価が上がるときは逆ヘッジのため、利益率は低くなります。

ヘッジファンドとインデックスファンドは、4半期決算(3月、6月、9月、12月)のたびに、利益を出さねばならない。インデックスファンドもヘッジした利益を出しています。

◎四半期の運用利益がマイナスになると、マネーを預託した投資家と金融機関からの引き揚げが起こって、ファンドが消滅するからです。

【(4)株式市場の脆弱性の高まり】
リーマン危機のあと、世界の株式市場はファンドの巨大化(=預託金融資産の増加)のため、下げには弱いものになっています。

ファンドは、一般に、解約の申し入れがあった45日後には現金を返還しなければならない。返済のためには、投資株や債券を売って現金に換えなければならない。

◎ファンドが8月、9月に利益を出せず、必然的に解約が増えると、24年7月末から8月5日に起こった円キャリートレードの巻き戻し(株の売り)と同じことが起こるのです。

ヘッジファンドの、8月の利益率マイナス0.5%~0%は危険です。解約を増やすリスクが高くなっているのです。

ヘッジファンドとインデックスファンド(両方がファンド)の合計資金量は、上記の30兆ドル(4500兆円)と推計されます。

【(5)大手のファンド】
ファンドの大手は、
1)ブラックロック(資金量10兆ドル:1500兆円)、
2)バンガード(同8.5兆ドル:1220兆円)、
3)フィデリティ・インベストメント(同4.2兆ドル:630兆円)、
4)ステイトストリート・グローバル(同4.1兆ドル:615兆円)・・・いずれも、米銀最大手のJPモルガン(総資産3.7兆ドル:555兆円)より大きい。

日本の最大手の銀行である三菱UFJは、総資産が403兆円です。
ブラックロックの1/3.7です。フナと鯉の差です。

1位のブラックロックの資金量は、FRBより大きい(総資産7兆ドル:1050兆円)。FRBより大きく米国株、国債、債券の価格を左右します。

【(6)赤字のファンドは解散される】
ファンドの30%が解散されると4500兆円×0.3=1350兆円もの売り圧力が、9月、10月、11月の米国市場、日本市場、ユーロ市場にかかるでしょう。(注)年間では、ファンド数の約20%の解散があり、別の誕生があります。

個人と金融機関の投資家がファンドを解約して、4%の金利がつく米国債に乗り換えるからです。既発国債(米国で35兆ドル:5250兆円)は、FRBが金利を下げると価格が上がります。

◎9月以降は、FRBの利下げによって、国債の価格が上がり、株を売ったマネーが回って来る時期を迎えるでしょう。これが、株価の危機を生む可能性が高いのです。

解約を増やさないため、日本発ブラックマンデーあとの8月・9月の株価(S&P500、日経平均)を上げることは、ファンドにとって生命線になり、世界の株価の命綱になるでしょう。

【(7)株価の反騰】
事態は、切迫しているようです。4500兆円の米国ファンドは必死に株を買って、日本発ブラックマンデーで4万2000円からは26%下がった日経平均と9%下がったS&P500を反騰させているでしょう。

日経平均は、暴落後はガイジンファンドの買い越しによって、8月5日の3万2000円から3万8062円(8月20日)へと19%上がっています(4万2000円まであと4000円)。

5186ドルに下がったS&P500は5600ドルまで、8%上がっています(8月20日)。7月16日の高値5600ドルを回復しました。それでもまだ、まだ、含み益が出る株価回復はしていません。

【(8)ファンドに必要な四半期の利益】
ファンドは、含み益のある株を売らないと、四半期利益(9月決算)としては確定しない。何を、どうやって、売っていくのか?

「8月暴落は一過性のものだった。8月末から9月の株価は7月10日の価格を超えて上がる」と言いながら、陰では売った主体名を出さず、売らねばならない。

【(9)ジャクソンホール会議:8月27日。】
8月27日の、世界の中央銀行と学者が集まる「ジャクソンホール会議」でのパウエル発言は市場を動かします。いよいよ、重要になってきました。どんな「フォワードガイダンス」をするのか。言葉の端々が大切です。

(注)フォワード・ガイダンスとは、1年以内の将来の金融政策に、あらかじめコミットすることです。リーマン危機のあと、フォワードガイダンスこそが、中央銀行の政策発表になっています。

バーナンキが「自分の唇を読め」と言ったことがこれです。
植田さんにはこの意識はあるのか?

【(10)小さなことでも動揺する、高層圏の世界の株価】
金融資産が増えマネー量が大きくなっているので、小さいことで現在の株価は動きます。7月30日の記者会見に臨んだ植田総裁は、0.15ポイントの利上げで、世界の株価が、日本発のブラックマンデーになるとは、夢にも思っていなかった。

フォワードガイダンスの意識はなかった。5月のドル売り介入後も襲った1ドル160円台の円安(7月)に慌てていたのです。

■7.次回の世界金融危機は、ファンド発になる

リーマン危機は、不良債券による、米銀の危機でした。次回の金融危機はファンド(シャドーバンク)の資産凍結と解約から、金融機関に波及していくでしょう。

投資信託一般は、以下の契約です。
「投資信託は預貯金ではなく、預金保険機構、貯金保険機構、保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。信託財産に生じた利益及び損失はすべて受益者に帰属します。お申し込みに際しては当該投資信託のリスクを認識・検討し慎重に投資のご判断を行っていただきますようお願いいたします。
◎ファンドの運用残高が少ない状態にあると、効率的な運用の継続が困難になり、目的が達成できないと運用会社が判断した場合には繰り上げ償還が行われる場合があります。(引用終わり)」

繰り上げ償還とは、ファンドからの預託金の返済、つまり解約とファンドの解消です。この繰り上げ償還(現金で行います)のためには、ファンドは価格が下がった運用資産(株式と債券)を売却し、現金を得なければならない。銀行より大きくなったファンドへの、銀行からの貸し付けはないのです。

【ファンドの9月決算の利益と損】
8月2日から5日の20%下落で、血だるまになったままのファンドは多いでしょう。ファンドのポートフォリオ合計の、リアルタイムの利益数字は世界の誰ももっていません。9月決算のファンドの利益はどうなるか。推測によるしかない。

◎2008年のリーマン危機のときは、投資銀行が大きく関与していたデリバティブの損の波及を、誰も予想できませんでした。

今回は、ファンドの赤字を予想できていない。金融危機は、負債が増える期間のピークで来る10年から16年のサイクル的なものですが、その都度、表の原因は異なります。

現在、世界の負債はGDPの300%を超えて歴史上最高です(300兆ドル:4京5000兆円)。

このなかで日本は国としては、
・1488兆円の貸し手であり(=対外資産)、
・1017兆円の借り手(=対外負債)です。

コロナ後に急増した負債の利払いができなくなることが、根底での原因ですが、それが、負債証券(国債、諸々の債券、株式)の市場価格に波及するには、時間差があります。

ドル金利の2022年3月からの5.25%への利上げは、既発の米国債(政府負債35兆ドル)の利払いを、3%から4%程度に(525兆円)増やしています。FRBの利上げとは国債金利の上げ誘導だからです。

■8.日本発ブラックマンデーのときの、リアルマネーの金価格の動き

株価は、3日で20%くらい急落しました(8月5日)。しかし8月4日からの国際金価格(ドル建て)は、1オンス2400ドル付近から、2500へと4.2%上がっています。円建ての金価格も、ドル安・円高にかかわらず、8月8日の、1グラム1万2400円から1万3100円へと5.6%上がっています。
(金価格:ドル建てと円建て:三菱金属)
https://gold.mmc.co.jp/market/gold-price/

8月5日のブラックマンデーとその後に、金では何が起こっていたのか。
(1)NYのCOMEX(先物取引所)では、株価が下がったファンドの先物売りによって、価格が下がった。

(2)ロンドンとスイスの、金現物の取引所では、中国の買いのため、価格が上がった。現物買いが先物売りに買って、金価格は上がった。

ファンドは、ポートフォリオのなかに、資源と金をもっています。株価が下がると含み益のある金先物を売る。ファンドは、現物の金はもっていません。

一方で、ドルから離れるためのBIRCS通貨(ドル準備制から金準備制)を指向している中国、産油国、グローバルサウスは、金の現物を買う。

◎現在、金の現物は、ロンドンとスイスから東方(アジアの方角)に輸送されています。欧州のロンドンとスイスでは、現物金の不足が起こっているのです。これは長期的な動きです。このため、金現物の価格は長期で強い。

すでに、世界貿易市場での、米国のドル決済のシェアは、最近1年で10%低下しています。

トランプが、世界関税を10%に中国関税を60%に上げると、貿易の米国のドル決済は更に減っていくでしょう。
(GOLD Money:金買いの勝ち、金売りの負け:8月16日号)
https://www.goldmoney.com/research/bulls-winning-shorts-losing

金が、一本調子に上がると言っているのではない。現物の買い手は、買いが大きく増えて価格が急騰しないように、少しずつ相場を見ながら買い足していきます。

一度に大量に買うと、現物の不足から急騰する価格が乱高下して、高く買って損をする可能性も高いからです。

◎年間の上昇率では20%が価格の目処になっている感じがします。中央銀行にとっても、金の買い方は、「一定額を買うドル平均法」がいいのです。

◎金現物の特徴は、いったん買ったゴールドバー(10Kgや1Kg)が市場に出ることは、ほとんどない。(注)価格が上がると金を含む装飾品やコインの売りは多少ありますが、金全体ではごく少ない(TVでは取り上げますが・・・)。

価格を下げる要素である市場で売りは、
・NYのCOMEX市場での先物売りと、
・先物ではないペーパーゴールドの証券である金ETFの売りです(残高は3112トン:発行シェアでの最大はSPDRの829トン)。

現物の金の買いを、1081トン(2022年)、1037トン(2023年)と、中央銀行が倍増するなかで、売られてきたのが金ETFです。

金ETFは、2021年188トン、2022年は109トン、2023年は244トンの売り越しでした。2024年の第一四半期(1月~3月)も金ETFは113トン売り越しです。

金価格を下げる要素である金ETFが売られるなかで、BRICSと参加希望国の中央銀行による現物需要は強く、2022年からの金価格は、1700ドルから2500ドル付近にまで、2年で800ドル(47%)も上がっています。

ドル基軸体制支持の西側のメディアでは書かれることがありませんが、BRICSと参加希望国は、明然と「ドル離れ」の動きをしています。

国際通貨の部分は、貿易の受け渡しで使われるIMFの国際通貨であるSDR(特別引き出し権)のようになっていくでしょう。

参加国の国内通貨と、金・コモディティ準備制の、BRICS版SDRの間は、変動為替レートが採用されるはずです。コモディティとは原油と金属資源です。

IMFが発行するSDRと円、ドル、ユーロ、人民元、英国ポンドの間は、変動相場制です。SDRのレートは、円では現在195.5円付近です。米ドルでは1.35ドルです。この換算レートは日々変動します。XDRとして、個人で通貨投機に使っているひともいます。
https://www.xe.com/ja/currencyconverter/convert/?Amount=1&From=JPY&To=XDR

世界は、ドル、ユーロ、BRICS通貨の多極的な基軸通貨に向かっています。

【後記】
本稿の主要トピックである、銀行より大きくなったファンド金融は理解されたでしょうか。数字が見えないシャドーバンクであるためファンド金融について書く人は、ほとんどいません。

しかし・・・これを理解していないと、世界金融の実体、および株価と通貨レートの推移は見えず、予想もできない。東証の株の売買(1日平均5兆円)の60%から70%は、ファンドによるものです。個人投資家の売買は、20%程度にすぎません。東証は、1/2への円安も加担して米国ファンドのバザール、つまり植民地市場になっています。

所得・物価も含んで日米間のあらゆることは、過剰な円安(=過剰なドル高)が原因です。購買力平価では、1ドルは90円です。本稿は、金融・経済の「深いところ」を書きました。

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