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チャトウィン『パタゴニア』(芹沢真理子訳)池澤夏樹個人編集 世界文学全集 Ⅱ-08レビュー

岩波ホールの閉館上映作品、ヴェルナー・ヘルツォーク監督・脚本『歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡』鑑賞後、急ぎ購入して通読。同巻には、カルロス・フェンテスの『老いぼれリンゴ』(安藤哲行訳)も併載されているが、まずはチャトウィンの代表作についてのレビュー。
書名や、同書を著したチャトウィンが愛用していたことである種のステイタスを帯びていた「モレスキン」というブランド名はあまりに名高く、関連情報だけは、ずいぶん昔、若い頃から知っていた。岩波ホールでの胸痛める作品鑑賞がなければ、そのまま縁なくスルーしていたかも知れない世界水準の旅行文学代表作読書体験は、インタレストに溢れたものとなった。明快な翻訳によるところも大きい。チャトウィンの幼い頃の思い出を起点に始まる南アフリカのずっと南の地方、パタゴニアへの旅の記録は、チャトウィン自身の内面史であり、様々な逸話の集積だった。そのひとつには、中学生になって本格的に洋画を観始めた最初期に出会ったジョージ・ロイヒル、ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードというゴールデントリオによる名作『明日に向かって撃て』と繋がるブッチ・キャシディとサンダンス・キッドの後日談があり、そのエピソードを読み始めた途端バカラックの「雨に濡れても」が脳内メロディで流れ始め、チャトウィンも同じだったろうか、と胸震えたことだった。そして軽快に読み進めながら、旅行記は開高健や沢木耕太郎さえあれば十分と思い込んでいた不明を恥じた。映画で、チャトウィンの肉声を聴いていたことも大きく影響していたのかも知れない。この先,自分自身の残り少ない時間のうちに、おそらくパタゴニア行きは実現することはないだろうけれど、映画とこの作品とによって、世界の大きさと文化の多彩さ、重層性を改めて体感することができた。

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