躍動感に脱帽!横山幸雄弾き振り「ベートーヴェンピアノ協奏曲コンサート」レビュー
ここのところ当代一のベートーヴェン弾きとして称揚される横山幸雄が、東京芸術劇場コンサートホールで、ベートーヴェン・ピアノ協奏曲1、2、4番を弾き振りするコンサートを行なった。オーケストラは今回初共演となるというパシフィックフィルハーモニア東京。同オケは1990年に『東京で9番目のプロオーケストラ」(当時)として発足した東京ニューシティ管弦楽団を前進とする飯森範親が音楽監督を務める自主運営色の濃い楽団で、近年は東京芸術劇場を拠点に、ベートーヴェン、ブルックナーで実績を積んでいる。
開演前に、来年会場はオペラシティに移すも同じ共演で3番、5番のコンサートが開催されることを予告するチラシが配布され、横山幸雄が新境地を目指す意欲が示されて同日の演奏への期待がいや増しとなった。
コンサート前半の1番ハ長調、2番変ロ長調はウィーンに転居して早々に作曲した二曲で、そもそもの作曲年次は1と2とが逆であること名高い、ベートーヴェンの若々しい佳品である。室内楽の伸長拡幅を思わせる曲調で、2曲続けての演奏となると、さすがに1時間を超えるが、軽やかな構成で重圧感なく鑑賞できた。オケに向かい、背中しか見えないが横山幸雄のいかにも楽しげに躍動する弾き振りが聴いていて楽しく、ペダルの上で舞うような両脚の様子も嬉々として、一気呵成の演奏があっという間だった。
後半は名曲でファンの多い(評者も同好同様である)4番協奏曲。冒頭の鍵盤ソロから、柔らかな音色の導入ながら、緊張感漲り、あたかも会話するごとく参入するオーケストラの響きを見事に牽引して、開演前から予感された横山幸雄の新境地への意欲、気合い十分、迸っていた。
第二楽章のオーケストラ低音にとどまり弦のユニゾンだけで、しずかにピアノの甘く芳しい響きを支える短調の緩やかな調べのなんと美しいこと。ショパン弾きとして音楽ファンを熱狂させた横山幸雄の若かりし頃のノクターンやワルツを彷彿とさせる夢のような色合いだった。そして、あらためて長調に戻っての息をもつかせぬ二拍子のロンド。カデンツァは、ベートーヴェン演奏の大先達バックハウスを顕彰するかごとくの力強さ。スピード感に満ち、オーケストラとの応酬も圧巻で、終末に到達した際の大向こうからのブラヴォー、前席のスタンディングオベーション、誰もが納得の熱演だった。
アンコールに、本人自らのMCつきでコンサートミストレスと主席チェロと合わせての三重奏第4番2楽章と、さらにさらにソナタテンペストの3楽章と至れり尽せり。来年の公演はもちろん来月のベートーヴェンソナタ1日で12曲演奏会にも行きたくなる大サービスだった。
会場を出ての長いエスカレーターで、同行した中3の愛孫が、クラシックはいいよね、とポツリ。台風一過の暑い最中を連れ出した爺は、欣喜雀躍(これは蛇足)。
50歳を過ぎて、やや恰幅よろしくなった横山幸雄の円熟に興味津々、今後の活動から目が離せない。