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#どうする家康 【数正出奔】
秀吉の欲が果てることはない。
石川数正は、大阪へ行くたびに確信を深めていった。
安土を超える巨大な城を築き、この世のすべての富を集めたがごとくの町をつくり、天皇に次ぐ権力も手に入れた。
「みっともないなまりをわざと使い、ぶざまな猿を演じ、人の懐に飛び込んで人心を操る。欲しいものを手に入れるためには手段を選ばぬ。あれは化け物じゃ」
秀吉の姿をこう表現した時、家康は「秀吉が怪物ならば退治せねばならん」と怒った。
そう来ると思っていたが、それでは家康が、めざす方向を間違えてしまう。
覇道を極めようとする秀吉と同じ土俵に立って再び争い合ったら、たとえ勝っても、家康が本来望んでいた王道には近づけない。数正にはそう思えたが、言葉にして家臣たちにわかってもらうことはできないと思った。
裏切り者と言われようが、こちらから秀吉の懐に飛び込み、王道が求められる世が来るまで時間を稼ぐしかない。
化け物であっても、欲にまみれ続ければ、破滅する日が必ず来る。
数正には秀吉の未来が見えていた。
仲間たちから恨まれることを見越した書き置きを残し、家族らを連れて出奔する前日、数正は家康にこう告げた。
「殿、決してお忘れあるな。私はどこまでも殿と一緒でござる」
この言葉の真意を、家康はずいぶんあとになってから理解することになる。