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#どうする家康【岸本真澄 名場面コラム】

真っ白だった着物が、自身から吹き出た血の色で染まっても、信長は友を待っていた。

幼いころから「誰も信じるな」と教え込んできた父が、死期に近づいてから、こう付け加えた。「どうしても耐え難ければ、心を許すのは一人だけにしておけ。こいつになら殺されても悔いはないと思う友を一人だけ」

唯一、友だと思い続けていた男がいた。
彼は、自分が遠い昔に失くしたものを、今も持ち続けていた。
身内や家臣を寄せつけず、父の教えに従って、誰よりも強く賢くあらねばと思ってきた自分に対し、友のほうはか弱そうに見えたが、皆から好かれ、いつもまわりの者たちに支えられていた。

自分が数え切れない者たちを犠牲にして築き上げた、いくさがなくなったあとの世は、彼に託したかった。
「お前は間違っていた」と自分をののしって殺し、新たな時代を切り拓けるのはあいつしかいない。

友はいつ、自分の前に現れるのか。
息が絶えそうになる中、彼を探し、その名を何度も呼びながら、信長は燃え盛る火の中に消えていった。

#どうする家康
#本能寺の変

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