「スロウハイツの神様」

「世界と繋がりたいなら、自分の力でそれを実現させなさい」   辻村深月「スロウハイツの神様(下)」p.340 , l.16

果たして、私は自分の力で世界と繋がることができているだろうか?
先日、頭の中をぐるぐるした問いである。

誰かの「権力」を借りて、世界と繋がろうとしていないだろうか。
物事を大きく語り、自分をよく見せ、褒められようとはしていないだろうか。
そう自分に問いかけると、少し頭が、胸がずきっとする。
思い当たる節はないことは、ない。

そういえば高校3年生の自分も同じことを考え、同じ痛みをもった。
成長しないものだな、と思いながらも、自分にとって忘れられない言葉である。
つい、ごまかして、うそをついて、体裁をとりつくろうとしてしまう自分にとって。

なぜ今の自分がこの言葉を反芻しているかというと、先日、キャラメルボックス さんが公演している、「 スロウハイツの神様」を観劇したからである。

正直、今まで観劇した経験は、学校行事であった演劇教室くらい。
よくライブハウスも行く、美術館も行く、図書館も行く、映画館も行く。しかし、なかなか自分の意志で、劇場に足を運んだことはなかった。

今思うとなぜだろう?と思うが、今回観劇をして少しわかった気がする。
観劇するということは、自分と役者さんたちとの対話なのだ。
(いただいたパンフレットには、舞台との対話と書いてあった)
役者さんたちが心をオープンにする分、自分も心をオープンにして見なくてはいけない。それが無意識に怖かったのではないか、と思う。

でも、高校3年生の時に読み、好きになった「スロウハイツの神様」の登場人物たちが自分の目の前で動くのを見てみたい、と思い、少し勇気をだして劇場に向かった。

私が観たのは、東京の池袋にあるサンシャイン劇場で行われた3月26日(火)の19:30~からのものだ。
席に着くと思ったより舞台が近く、セットもよく見えた。どんなドラマが見られるのだろうか、と思うと、ほんの少しの勇気はもうなく、高揚した気持ちしかなかった。

始まると、想像以上だった。
本当に、私と舞台との対話だった。周りの人の存在が本当に感じられないほど、私対舞台であった。
大好きな、環もコーちゃんも、みんな生きていた、そこにいた。
生身の人間が架空の人物に息を吹き込むと、こんなにも生き生きと現前するのだ、と思った。舞台上の役者の方々と私はあの瞬間繋がっていた。

そして先ほども書いたが、やはり私と舞台との対話、というだけあり、必然と私の心は開かれていた。自分が思う前に、涙は先にこぼれた。
色んなシーンが頭の中で今も再現できるが、やはり冒頭で書いた「世界と繋がりたいなら、自分の力でそれを実現させなさい」が頭から離れない。
実際に見ているときも、ずきっときた。

私のノートをよく見て下さっている方はわかると思うが、私は自分を変えたいと一か月ほど前から思い、記録を残している。
誠実に生きたいと思いながら、なかなかそうできないもどかしさの中で日々生きている。
その中でよくわかってきたことは、自分は自分をごまかして世界と繋がろうとしがちであるということだ。そして、力のある人にすり寄り、なんとかしてもらおうとしがちだということだ。

そんなわけで、まっすぐな環が、莉々亜に言ったこのセリフは、本当に自分に言われたようだった。今、変わろうと思っている私にとって、「そうだ、やっぱりそうだ、忘れちゃいけない、自分が誠実に生きなくてはいけない」そう感じさせる言葉だった。高校3年生だったときの自分が部活動と勉強とでうまくいかないときにこの言葉にぐさっとやられ、自分のやるべきことを思い出したように、またはっと、現実を見させられた。

私も明日から自分の仕事を全うして、世界と繋がろう、嘘にまみれた日々は捨て、実直に仕事に向き合おう、と感じた。

そして少し話はずれるが、個人的にあまり得意ではない「執着」も良い意味でできるようにしたいな、とふと思った。
愛とは執着である、という言葉が途中ででてくるが、私は執着が苦手だ。
多分、嘘にまみれた自分がつながった世界に裏切られるのが怖い。
まっすぐな自分で繋がった世界を信じて、逃げないようにしたいと思った。

今日をもって「スロウハイツの神様」の公演が終わると聞き、衝動的に書いてしまった。きっと人それぞれはまる部分は違うと思うけれど、どこかはまる部分があるのがスロウハイツの神様の素敵なところだと思う。
また、負けそうになったときに本を読み返したいと思う。

そして、劇中歌を聴いて、気持ちが絶えないようにしたい。
でてきた音楽は全て、本当によかった。
特に、スロウハイツと太陽の「autumn」とmol-74の「エイプリル」は毎日聴いている。 
「autumn」は「視えない言葉が心を繋いでいたんだ」という部分が好きだ。環とコーキのための言葉のようで好きだ。
そして、「だいじなものはなんだっけな」という歌詞を聴いて、自分にとってなくなってはいけないものを考えるのが好きだ。ぱっと思い浮かぶものは、絶対なくなってはいけない。なくしてはいけない。昨日に忘れないように、していきたい。
「エイプリル」は「エイプリル 僕は変わった?」というところを聴くたび、変わりゆく自分を思う。
何事も「いつもいつまでも続いていくような気がしていた」と思ってしまう自分に、少しサヨナラできたらな。
音楽はその時の自分が置かれた場所によって感じ方が違うから、今の気持ちを大事にして、変わりゆく自分に期待したい。

最後に。
キャラメルボックスの皆さん、本当にありがとう。
私にとって、必要な、なくてはいけない時間でした。 


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