【予防医療】9月中にHPVワクチン接種を!/子宮頸がん予防の必要性

声を形に、新しい日南!

子宮頸がんを予防する啓発イベントが全国各地で盛んに開かれています。
宮崎市でも、子宮頸がんを経験したタレントの原千晶さんを招いたイベントが開かれたようで、2日付の宮崎日日新聞で掲載されていました。

9月2日 宮崎日日新聞


イベントでは、県産婦人科医会の川越靖之会長が登壇しており、宮崎県の子宮頸がん罹患率(2019年)が全国ワーストである点を指摘しています。

現在、国はワクチンの積極的勧奨(自治体などが個人に対して予防接種などを勧める個別通知)がない期間に打つ機会を逃した女性が無料で受けられる「キャッチアップ接種」を実施しています。
本年度は接種の最終年度で、ワクチンは3回打つ必要があるため、初回は9月中に打つ必要があるためです。

キャッチアップ接種の対象は1997年4月2日~2009年4月1日生まれで、過去にワクチンの接種を合計3回受けていない人が対象です。

接種ができる医療機関など詳しくは日南市のホームページを確認ください。

子宮頸がんには毎年約1万人が罹患し、3000人が亡くなっています。
亡くなる方の多くは20代前半から40代です。
亡くなっていないまでも手術の影響で子宮を摘出する女性もいます。
一方で、子宮頸がんは若いうちに、しかるべきタイミングでワクチンを打てば予防できます。

子宮頸がんワクチンについては、過去に接種後の不調を訴える声があったことがあり、不安に感じている人もいると思います。
ただ、私自身は記者時代に産婦人科医に取材した経験から、やはり9月中に打つべきだと感じています。

以下にその理由を述べます。少々長くなりますが、少しでも接種を検討する上での判断の材料にしていただけたらうれしいです。


私がHPVワクチン接種の必要性を感じた理由


私がHPVワクチンについて調べ始めたのは医療担当の記者をしていた2018年ごろです。
当時はまだ、HPVワクチンではなく、単に子宮頸がんワクチンと呼ばれていました。
元々、予防医療にとても興味を持っていた私は、当時の取材対象だった産婦人科医の先生とお話するうちに、ワクチン接種の必要性を強く感じるようになりました。
なぜなら、子宮頸がんの原因の95%はHPVと呼ばれるヒトパピローマウイルスで、このウイルスさえ予防すれば、子宮頸がんで亡くなる人を劇的に減らすことができるからです

どういうケースで、子宮頸がんが発覚するのか。
当時、産婦人科医の先生はこうおっしゃっていました。

「生理だと思っていたら出血が止まらない、みたいなケースで来る人がいますね。だけど不正出血が起きているときはもうだいたいがん化しているので。手術ができれば摘出。そうじゃなければ、放射線治療になります。子宮頸がんは初期症状が出ないので、ひどくなって発覚するケースが多いんです。だから、ワクチンや定期的な検査が大事なんです

ワクチンは2009年に承認され、13年に定期接種の対象となっています。
対象は小学6年〜高校1年です。
HPVのほとんどは性交渉によって感染するため、性交渉を経験する前の段階での接種が推奨されています。

積極的勧奨はなぜ、中止になったのか。


しかし、

13年4月に始まった定期接種は、たった2ケ月後の6月に積極的勧奨が中止になりました。

接種後に体の痛みが出るなどの報告があり、それをメディアが盛んに取り上げたのが原因です。
具体的には2013年3月に、朝日新聞が副反応疑いのケースを報道したのをきっかけに各社が取り上げるようになりました。

ここから、ネガティブな側面の報道ばかりに一変します。
テレビでは“副反応疑いの症状”が現れた人の映像が流され、SNS上では「HPVワクチンを打つと不妊になる」「HPVワクチンは国の陰謀」などのデマ情報も流れました。

こうした流れを受け、ネガティブな声が盛んに報道されたワクチンを打つ人はもちろん激減しました。

積極的勧奨のない期間は2022年3月まで約9年弱にわたり継続されました。

この10年で、日本は世界中で最もHPVワクチン接種率の低い国の1つとなりました。
多くの国でワクチンにより、子宮頸がんの罹患率が減少しているのに対し、日本の罹患率は依然として増加傾向なのは悲しい現状だと思っています。

厚生労働省「HPVワクチンについて知ってください  子宮頸がん予防の最前線 」

「体の痛み」とワクチンの関連性は何なのか

名古屋スタディと呼ばれる名古屋市が実施したHPVワクチンに関する大規模調査があります。

名古屋市に住民票のある小学校6年生から高校3年生までの女子約7万人に対してアンケートを実施。約3万人のデータを解析した結果、24項目にわたる症状は、ワクチンを接種した人と接種していない人で差はみられなかったという結論が得られました。

子宮頸がんと副反応、埋もれた調査

名古屋市が実際に調査してみたところ、ワクチンを接種した人としていない人で症状の差はみられなかったのです。

では、接種後の不調、体の痛みを訴える声はいったいなんだったのか。

WHOは、こうした「不調」について、20年1月に「予防接種ストレス関連反応」という考え方を示しました。

接種に対するストレスや不安から起きる反応で、特に10代の女性に起きやすいといいます。

つまり、ワクチンそのものの副反応ではなく、ワクチンに対するストレスや不安から「痛み」などの症状が表れたのでは、という見解です。

ワクチン接種で、明らかに下がるがんリスク

一方、予防の効果は20年に発表されたスウェーデンでの研究で明らかになっています。
167万人の10−30歳の女性を調べたところ、16歳以下で接種した人はしていない人に比べて、がんリスクが88%減少。17〜30歳で接種した人も53%減少したのです。

しかし、名古屋スタディや各種の研究結果などの科学的な検証結果をメディアが積極的に取り上げることはありませんでした。
副反応について取り上げる一方で、その反証となるような研究結果について取り上げない。
こうしたメディアの動きについて、ノーベル賞受賞者でもある科学者の本庶佑さんが批判を展開しました。

ノーベル賞科学者、本庶さんの指摘/「マスコミはきちんとした報道をしていただきたい」


本庶佑さんは、2018年ノーベル医学生理学賞を受賞しました。
その受賞会見を、ストックホルム市内のホテルで開いた際に、HPVワクチンについて言及したのです。

子宮頸がんワクチンの副作用というのは一切証明されていない。日本でもいろいろな調査をやっているが、因果関係があるという結果は全く得られていない。厚労省からの(積極的接種)勧奨から外されて以来、接種率は70%から1%以下になった。世界で日本だけ若い女性の子宮頸がんの罹患率が増えている。一人の女性の人生を考えた場合、これは大変大きな問題だ。マスコミはワクチンによる被害を強く信じる一部の人たちの科学的根拠のない主張ばかりを報じてきた

m3オピニオン 2018年12月11日 (火)配信 村中璃子(医師、ジャーナリスト)

 また、医学や科学の問題について論じる際にマスコミ関係者に注意してほしい点として、「科学では『ない』ということは証明できない。これは文系の人でも覚えておいてほしいが、科学では『ある』ものが証明できないことはない。『証明できない』ということは、科学的に見れば、子宮頸がんワクチンが危険だとは言えないという意味だ

「先日学会でも講演したが、ルワンダなど(リソースの少ない国)でもワクチンを導入して子宮頸がんが減っている」「はっきり言ってマスコミの責任は大きいと思う」「今からでも遅くないから、きちんと報道してほしい。実害が生じている」と述べ、警鐘を鳴らしました。

冷静な報道を心がけようとする人もいました。2016年当時、読売新聞の記者で、現在は医療ジャーナリストとして活躍する岩永直子さんは、ワクチンの安全性や有効性を伝える特集を発信しましたが、ワクチンに反対する人たちから会社にクレームが殺到しました。それを重く見た会社から処分を受け、地方への異動を命じられ、岩永さんは読売新聞を退社しました。

医師でジャーナリストの村中璃子さんは、ワクチンに反対する国内の研究者やメディアの問題点を鋭く指摘し、早期再開を訴えてきました。
世界有数の科学誌「ネイチャー」誌から賞を授与され、この受賞は世界中のメディアが大きく報道し、村中氏に賛辞が寄せられましたが、ワクチンに否定的な報道を続けてきた国内の大手メディアはほとんど取り上げませんでした。

積極的勧奨の再開に至るまで

日本産科婦人科学会は、2015年8月から、接種の勧奨再開を求める声明を出していました。こうした関係団体や有識者の地道な訴えが実を結び、22年4月に積極的勧奨が再開されました。
厚労省はこの間、これまでの副反応がでたとされる症状を調査、審議。症状が出た場合の相談、支援体制を整えました。

一方、22年度の初回接種率は全国でも6.6%にとどまります。1994~99年生まれは5~8割接種していますが、2001年度生まれ以降はほぼ1%以下です。

今後は男性もワクチン接種をすべき?


HPVは性交渉で感染するため、男性も打てばさらに感染する人を少なくできるとされています。
私が医療担当だった2018年頃、「男性が子宮頸がんワクチンを打ってみた!」というルポ記事を書こうとしていたのですが、断念しました。そもそも女性へのワクチン接種自体が懐疑的だった状況で、病院側から「さすがに厳しいです」とやんわり断られました。

昨年11月、自民党の「HPVワクチン推進議員連盟」(会長=田村憲久・元厚生労働相)は男性への定期接種化を早期に実現するよう求める要望書を武見敬三厚労相に提出しています。
こうした状況からも、HPVワクチンに対する印象は近年でだいぶ変わってきたように思います。

最後に

長くなりましたが、HPVワクチンは科学的な知見から多くの人が接種したほうがいいです。

とはいえ、「予防接種ストレス関連反応」のように、何らかの症状が出ることは考えられます。これは新型コロナウイルスワクチンなどでも同様です。
ワクチンには予防効果がありますが、副反応などの症状が出ることはあります。その点を十分に考えながら、自分の命や健康、未来について向き合う必要があると思います。

予防できる医療に関してはしっかりと予防してきましょう。
国民皆保険という制度があるために、病気になってから病院に行く、という流れが当たり前だと思っている人がいます。
大病になってから多額の医療費を払うのではなく、病気になる前に予防することのほうが、本人にとっても医療費の抑制という視点においても大事です。
予防できるがんについては、胃がんや大腸がんも同様ですが、これらについては、また機会があれば書こうと思います。

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