”折り紙を見る眼” 第5回折り紙品評会『騎士』
折り紙作品を見るときにあなたはどこを見ているだろうか?
「折り紙作品をどう見るか」を作品の品評を通して紹介し、折り紙の魅力を発信する企画、”折り紙を見る眼”。第5回となる今回は、ゆーき(折り)氏の作品『騎士』を題材に、2名の折り紙創作家、Ooouch!氏、taiga氏のレビューのもと、折り紙作品の魅力を多角的に紹介していく。
前回の”折り紙を見る眼”はこちら
このnoteは、品評会で出た議論の内容を筆者が総合的にまとめたものである。レビュアー2名の評価資料はレビュアー紹介欄に添付してあるので、それぞれの作家の評価についてより深く知りたいという方は、そちらをご確認いただきたい。
創作者紹介
キャラクターものの折り紙作品を得意とする折り紙創作家。インサイドアウトや折り目の影を駆使し、モチーフの特徴をとらえながらも”折り紙的に”デフォルメされた作品を創作する。キャラクター以外にも犬やドラゴンなど、多くの作品を創作しており、よく使うもみ紙の柔らかい印象から、全体的に可愛らしい作風が特徴。
一般書籍『折り紙ドラゴンズプレミアム』(2021年、ソシム(株))に『カレイジアスドラゴン』が掲載。
SNSリンク:X(旧ツイッター) Instagram
今回の作品『騎士』
騎士
創作:結城伸吾
創作日:2023 年8 月(リメイク:2024 年8 月)
用紙:35cm×35cm ビオトープ
作品品評
シンプルな面構成、端正な折り線
まず一番に目に止まるのは頭部の表現だろう。鎧の目の部分の影が特徴的で、一目で騎士のかっこよさが伝わってくる。頭頂部の大きなひし形や顔を横から巻き込むカドは、エッジ感のあるシンプルで大きな面となっており、鎧らしさ、無機質な金属らしさを大胆に表現している。上手い。
全体を見ると、襟首部分の鋭角の襞を除いて、ほぼ全ての線が22.5°の角度(直角の四分の一の角度)で構成されており、デザインの統一感が高いのも特徴だ。その襟首の鋭角の襞も、汚くなりがちな放射状の折筋の起点が内部に隠して折られており、統一感を逃さない。適度に装飾性を持ちながらも、余計な線を排した端正な作品である。
旧作からの改善点
次に旧作と比較していこう。旧作から、主に腰回りの表現が変更されている。大きく装飾性が増したほか、旧作の表現ではモチーフとして疑問が生じていた部分(この大きな前垂れは一体何なのか?)が鎧の一部として受け入れられるデザインに変更されている。現実的に破綻の無いデザインを折り紙の制約の中で表現するのは想像以上に難しく、紙の扱いの巧さが見える。
腰回りのカドを散らしたような表現は、折り紙らしさを保ったまま造形に変化をもたらすのに効果を発揮している。中心軸から外れた位置を起点にカドが折り出されており、単調な、言わば”棒人間感”が払拭され、表現の幅が出ている。同時に重心のバランスも整えられており、旧作からの大幅な改善点と言えるだろう。
展開図から見る人型折り紙の特徴
本作の展開図ではないが、構造流用元の『レム』の展開図から人物作品の特徴について掘り下げてみよう。本作の構造は、創作者いわく、アヤメの基本形から折り込んで作られているそうだ。展開図を見てもどこがアヤメなのかは私にはわからないが、アヤメの基本形から折り込んでいくと本作が出来上がるらしい(本当か?)。
本作にも採用されている、角度系の人物作品によく見られる構造として、脚部の折り出しのため『鶴の基本形』を下部に配置するものがあげられる。例として、森末圭氏の作品や、Chen Xiao氏のデフォルメ作品にも類似構成が見られる。鶴の基本形の両端の長いカド(両翼のカド)を脚に持ってくる構造で、汎用性が高い。本作では、この鶴の基本形にYパターン分子を接続した構造を基礎としており、腕と脚が自然と折り出されている。コンプレックスな作品にも、割合シンプルな作品にも構造的に類似点が見られるのは、折り紙の興味深い点だろう。
終わりに
今回の作品『騎士』は非常に”折り紙らしい”、角度の統一された端正な作品である。創作者のゆーき(折り)氏の作品は総じて、基礎的な構造をベースに細かな技が散りばめられ、全体のバランス感がとても良い。氏が次はどんなキャラを折ってくれるのか、毎回楽しみである。
品評会の中では、本作のさらなる改善についての議論があり、領域付加による大幅な改善も見えてきていた。この端正な『騎士』という作品の、さらなる成長を私はとても楽しみにしている。
このnoteを読んだ方が、折り紙作品を鑑賞するとき、もしくは創作をするときに、何か指標となるような、”折り紙を見る眼”が得られていることを、私は願っている。
レビュアー紹介
レビュアー① Ooouch!氏
動物の折り紙をメインで創作する折り紙創作家で、本職はエンジニア。インサイドアウトを用いた動物作品を多く創作し、折り図発表、折り紙講習などの活動も幅広く行う。折り紙創作をやっている人なら一度は触ったことのある展開図作成専門のソフト『ORIPA』の主要開発者の一人。
SNSリンク:X(旧Twitter) flickr
レビュアー② taiga氏
端正な作風が特徴な実力派折り紙創作家。直線的なデザインからハイディテールな立体作品まで幅広く手がけ、その作品群には折り紙に向き合う真摯な姿勢と”美”を感じる。「折り紙文化の保護と発展」を目標にLampo社を立ち上げ、折り紙×カレンダーのアイデア商品を手がける他、Youtube、Instagramでの動画発信も精力的に行っている。
元所属サークル:慶応大学折り紙サークル折禅
SNSリンク:X(旧Twitter) Youtube Instagram
雑記
以下、品評会にて議論した内容を少し書き記しておきます。実際の議論では以下の点含め、良い点・要改善点双方を意見交換していますので、興味があればぜひ次回の品評会にご参加ください。
襟首の表現はピエロっぽくも見える
剣の表現がちょっと弱い?落としどころな気もするが…
剣や盾の角度に違和感がある
腰~脚のラインを見るとフェミニンな印象を受ける
かかとの部分が欠け、接地面が小さく見える
展開図下部にV字型に領域を付加すると、剣・盾及び脚に領域を追加でき、今よりもっと表現の幅が加わるかも?
筆者自己紹介
kal_ori
非常に写実的な作風を特徴とする折り紙創作家。主に蛇腹を用いながらも、緻密な設計をせず「アドリブで」造形するという独特の創作法を用いる。他にも、正方形以外の用紙を使用したり、複合・着彩等の手法も取り入れ、既存の複雑系折り紙の枠にとらわれない造形を追究している。
元所属サークル:早稲田大学折り紙サークルW.O.L.F.
SNSリンク X(旧Twitter) Instagram note
ご案内
今回の折り紙作品品評会など、活発な議論を通して折り紙に向き合い、企画・発信を行うコミュニティ、『Folder's Lab』を発足しました。折り紙について議論する専用のディスコードサーバーを立ち上げ、サーバー内でテキストチャット、ボイスチャットを使って議論・交流をしています。
今回の品評会でも、ボイスチャットを使って創作者⇆レビュアー間の直接的なやり取りをしています。
議論に参加したい人、議論してみたいテーマを持っている人、議論には参加しないかもしれないけど聞くだけ聞いてみたい人、私のX(旧Twitter)にDMをいただければご招待いたします。ぜひ、皆さまご参加ください。