
「#第9回書くを楽しむ140字小説コンテスト」結果発表+講評!
こんにちは。カクタノコン主催のmimi(@mimi_00_coco)です。
第9回大会は、132作の力作が集まりました。
今大会は季節が秋から徐々に冬へと移り変わる中、集まる作品の傾向、そして物語から受ける印象も、大きく様変わりしたように思います。
特にずっしりとくる読後感の作品が多く寄せられた印象でしたが、今回はその中でも読み手の想像力や感情を大いに刺激する「問題作」を、大賞に選ばせていただきました。
【大賞】アホ屋のアホマン さん(Amazonギフト券3000円分贈呈!)
朝、目が覚めてリビングに向かうと朝食が用意されている。
— アホ屋のアホマン (@ahomaja) October 26, 2021
美味しい。
行ってきますと言えば、気を付けて行くのよと母が優しく声を掛けてくれる。
学校に行けば友達が沢山。
いつも笑顔一杯で一日が過ぎていくんだ。
そんな夢を独房で毎晩見る。
きっと殺してきた人間達の過去。
死刑より辛い刑。
大賞は、アホ屋のアホマン さんの作品です。
温かな日常の風景が淡々と描かれていることに違和感を感じ読み進めると、《独房》の一言で一気に場面転換し、前半部が殺人鬼の見ていた《夢》であったことが分かります。
そして《きっと殺してきた人間たちの過去》と断言している姿から、この「日常」とはかけ離れたところに主人公の「日常」が存在していたことを窺わせます。
一見シンプルなのですが、かなり計算され尽くした作品で、先に挙げた構成のうまさもそうですし、一つ一つの言葉選びが緻密でリアルに書き上げられています。
この題材や主人公・物語運びに関しては、人によって大きく感じ方・考えの分かれる(いい意味での)過激な「問題作」だと思いますが、あえてこの作品を今回の大賞に選ばせていただきます。
・・・
【優秀賞】 黒瀬時雨 さん
寒さが厳しくなって、冬物のコートをクローゼットから出した。
— 黒瀬時雨@140字小説 (@shigu_re0208) October 27, 2021
ポケットに手を突っ込むと、なくしたリップクリームや捨て忘れたレシートが出てくる。毎年のことだと反対側も確認すると、入っていたのはチケットの半券。
心の奥が疼く。君ともう会えない現実を受け止めるには、まだ時間がかかりそうだ。
優秀賞は、黒瀬時雨 さんの作品です。
四季が半ば不変的に巡っていく中で、自分を取り巻く環境は日々刻々と変わっていく。その中で忘れようとしていた思い出は、季節が巡っても「過去の事実」として確かに胸に刻みつけられていることを実感させられる。
そんな虚しさと恋の切なさがいっぱいに詰まった、ほろ苦い物語でした。
変わるものと変わらないものの対比のしかたも絶妙で、それを衣替えのあるあるネタに忍び込ませて書かれているところがユニークでもあり、黒瀬さんの着眼点のよさ・感性の豊かさが光る作品でした。
・・・
【審査員特別賞】 たる亡 さん
「せーの!」
— たる亡 (@kitalbou4th) October 31, 2021
9人が掴んで投げたボールは、ゆるやかに飛んで行った。
快音が響く。易々と打ち返されたボールは大きな放物線を描きセンターフェンスに当たった。
「行くぞ!」
「おう!」
9人は一斉にセンターへ向かって走った。
監督は頭を抱える。
「そうじゃないんだよ……全員野球って……」
審査員特別賞は、たる亡 さんの作品です。
「全員野球」という言葉を題材に展開された、ユーモラスな物語でした。
あまりに爽やかに言葉の意味を履き違えるドジな部員たちの姿は、清々しく、どこか憎めません。
また、頭を抱える監督の姿と最後のセリフでしっかりとオチもつけてあり、構成もうまいです。
作品いっぱいから伝わる陽気な空気感がとても心地よく、思わずふふっと笑みがこぼれてしまうような、素敵な作品でした。
・・・
【Pick Up①】 花鳥めいび さん
空から落ちた星を拾い、瓶に入れた。キラキラした光は俺を慰めてくれる。
— 花鳥めいび (@kacho_meibi1220) October 23, 2021
生きる希望を掴んだ気がした。
「どうしたの?」
「ここから出して……」
瓶の中の少女が涙を溢す。キラキラした光が揺れた。こんな美しいもの手放すわけないだろ。心の疼きが抑えられず硝子を撫でる。悪いようにはしないさ。
そして、ここからはピックアップとして、気になった作品をいくつか挙げさせていただきます。
1作目は、花鳥めいび さんの作品です。
美しいもの・好きなものを、自分だけのものにしてしまいたい。
そんな人間の独占欲とエゴイズムを、ファンタジー調の物語に落とし込むことでセンシティブすぎず、しかし主題は決して霞まない、絶妙な塩梅の作品でした。
特にコントラストの付け方・読ませ方が秀逸で、前に幻想的に美しいもの(少女の姿)・そのあとに自己中心的な醜い感情(主人公の姿)を描くことで、主人公の「気味の悪さ」を増幅させる構成になっていました。
社会派でもあり、ホラーでもあり、純文学的でもあり、読み手によって色を変える稀有な作品だと思います。
・・・
【Pick Up②】 鈴 さん
「君が食べなよ」
— 鈴 (@suzu_nasuzusiro) October 23, 2021
僕の言葉にほっぺを膨らませた彼女。
「一緒に食べようよ」
首を横に振ると、さらにほっぺを膨らませた。
やがて夜になり、聞こえてきたのは安らかな寝息。体を寄せると、冬眠して体温が下がった君の方が温かくて。そろそろと独りで出た巣穴。降り積もる雪が、リスの背を白く染めた。
2作目は、鈴 さんの作品です。
初々しいカップルのやりとりかと思いきや、《冬眠》《巣穴》などの違和感ある言葉を次々と積み重ね、最後のオチでこの物語が人間ではなく、リスのカップルのやりとりを書いたものだと分かります。
寒い冬の景色の中で繰り広げられる、温かな物語の対比のよさもそうですし、最後リスの背中に「色」をつけたことで、よりオチを印象深く演出しているところにも鈴さんのセンスが光ります。
読むと心がほっこりする、素敵な作品でした。
・・・
【Pick Up③】 明日香 さん
僕らの町が平和なのはカカシのおかげです。
— 明日香@140字小説 (@asukahuka) October 23, 2021
カカシは電柱に繋がれています。イライラすることがあったら、大切な人を傷つける前にカカシの所へ駆けていって思い切り殴ります。
カカシがいるから、僕らは穏やかに暮らしていけるのです。
ちなみにカカシは声帯を除去されているので、とても静かです。
3作目は、明日香 さんの作品です。
その衝撃的な物語展開で、高い人気を集めた作品でもあります。
田んぼのお守りをするためのものが、いつしか平和な世の中を作るための用途で使用されるようになった《カカシ》。
しかし最後の一文で、この《カカシ》が人形を指したものではなく、生身の人間を《カカシ》と呼称して人々の心の安寧を守っていることが分かり、一気に肝が冷えていきます。
言葉から受ける無意識のイメージを逆手に取った物語で、明日香さんの発想力のよさと演出力の高さが窺える「意味が分かると怖いホラー」作品でした。
・・・
【Pick Up④】 暇十朗 さん
『俺に会いたくば勝ち続けろ』家族を捨てた父に復讐する為、俺は地下格闘技場で戦い続けてきた。今日の相手は300戦無敗、経歴正体一切不明の絶対王者。この日をどれだけ待ったことか。
— 暇十朗#140字小説 (@himazyuro) October 24, 2021
「よう。クソ親父」
怒りのままに俺は王者を睨み付ける。
「よくぞ来た。我が息子よ」
真横でレフェリーが答えた。
4作目は、暇十朗 さんの作品です。
主人公の成長物語でありながらも、最後に強いギャグ要素で落とす、ミニコントのような作品でした。
「そっち!?」と、思わず読者が突っ込んでしまいたくなるような物語に仕立て上げられているのも魅力的です。
このあと息子がどう父親に復讐するのか全く想像がつきませんが、純粋にそのネタの面白さに惹かれました。
・・・
【Pick Up⑤】 うさぎのしっぽ さん
ずっと好きだった彼女に裏切られた。あんなに毎日、互いの想いを伝え合っていたはずなのに。彼女は僕以外にも、数人の男に同じ言葉を返していたのだ。
— うさぎのしっぽ (@sippo_usagino) October 25, 2021
「好きだよ」
ああ、ほら。また別の男が彼女に近づいている。
彼女は天使のような笑顔を浮かべて、想いに応えた。
「先生も、みんながだーい好きよ」
5作目は、うさぎのしっぽ さんの作品です。
平等に愛を分け与えてくれる《先生》が、時に残酷な存在へと変化することを子供目線で綴った物語でした。
微笑ましさ、そして全く相手にされない切なさもありながら、どこか男の子がこれから逞しくなっていく成長譚の序章のようにも感じられ、期待も膨らみます。
さまざまな要素が1作にギュッと詰め込まれた作品でありながら、しっかりとまとめあげられているところに、うさぎのしっぽさんの確かな技術力が窺えました。
・・・
まだまだ素敵な作品がたくさんあります! 全応募作はこちら!
こちらでご紹介させていただいたのは、ほんの一部で、このほかにも魅力溢れる作品はたくさんあります!
今大会の応募作品は以下のリンクからすべて読むことができますので、ぜひ読んで、お気に入りの作品にリアクションされてみてください!
・・・
第9回大会連動「私の大賞」企画はこちらから!
応募期間終了後、「第9回書くを楽しむ140字小説コンテスト」応募作の中から、読み手の皆さんのイチオシ作品を選んでもらい「私の大賞」として推薦していただく企画も行っています!
今回は22の推薦があり、大いに企画を盛り上げていただきました。
誠にありがとうございました。
・・・
最後に
以上、結果発表と講評でした。
今回もたくさんのご応募をいただき、誠にありがとうございます。
そして次大会も、引き続き皆さんのご参加をお待ちしております。
第10回大会は、大会概要2021年11月14日(日)19:00ごろ発表。
そして作品の募集期間は2021年11月20日(土)19:00〜11月28日(日)19:00です。
これからも引き続き「#書くを楽しむ小説コンテスト」をよろしくお願いいたします。
いいなと思ったら応援しよう!
