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「#第4回書くを楽しむ140字小説コンテスト」結果発表+講評!
こんにちは。カクタノコン主催のmimi(@mimi_00_coco)です。
第4回大会は、115作の力作が集まりました。
全体の講評として、すべての大会を通して「死」をテーマにした作品は多いのですが、今大会はそれが特に多かったように感じます。
コロナによる外出自粛に加えて、梅雨の季節を迎えたこともあり、どこか皆さんの中で鬱屈とした気持ちを抱えやすくなっているのかなと推察いたします。
その中でも今回は、その気持ちを晴らすような「生命の不思議・親子の絆」をテーマにした作品、そしてもう1作は「死」の描写がありながらも、ほんのり温かみが感じられる作品を、それぞれ大賞と優秀賞に選ばせていただきました。
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【大賞】 うさぎのしっぽ さん (Amazonギフト券3000円分贈呈!)
文字を覚えたばかりの息子が、肩たたき券をくれた。折り紙にクレヨンで「かたたたたきけん」と書いてある。
— うさぎのしっぽ (@sippo_usagino) May 24, 2021
その話を電話で母にすると、母はおかしそうに「親子ねぇ」と笑った。
後日、母から写真が送られてきた。少しよれた折り紙がうつっている。書かれていた文字を見て、私も思わずクスリと笑った。
大賞は、うさぎのしっぽさんの作品です。
前作に続き、今作も親子3代をテーマにした作品をご応募いただきました。
覚えたての文字を使ってみたいという好奇心、そしていつも頑張る母親に何かしてあげたい気持ちから《肩たたき券》をプレゼントする子供。
その行為に息子の成長を感じるとともに、嬉しさのあまり母親は自身の母に電話をかけたのでしょう。そこで彼女自身も過去に息子と同じ行動をとっていた事実を知ります。
そして彼女の母(祖母)も折り紙をずっと大切にとっていたことから、今の彼女と同じように娘の成長を噛み締めていたことが読み取れ、ここにも「親子」であることを強く窺わせる演出のうまさが光り、感動せずにはいられません。
「子は親に似る」とはよく言いますが、それを親子3代で如実に感じさせる大作となっていました。
また、本作は過去大会含め、屈指の人気を集められた作品でもあり、多くの方に心にその温かな物語が響いたものと思われます。
演出のうまさ、ドラマに対するカタルシス、人気の高さ、それらを総合して、今大会の大賞に選ばせていただきました。
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【優秀賞】 泥からす さん (Amazonギフト券1000円分贈呈!)
忘れられた古井戸に綿毛が舞い降りた。井戸の底には年老いた蛙。蛙は綿毛についた種を大切に育て始めた。種は芽吹き、そして花が咲く。初めて見る外の世界の美しさが蛙には嬉しかった。やがて悪戯な風が新たな綿毛を井戸の外に運ぶ頃、蛙も満足気にその命を閉じた。その時、もう蛙は孤独ではなかった。
— 泥からす@少しずつ活動再開します (@mudness_crows) May 22, 2021
優秀賞は、泥からすさんの作品です。
「井の中の蛙大海を知らず」という故事から着想を得て、この物語を書かれたのではないかと推察しますが、ネガティブな意味がつきまとう「蛙」のイメージを覆す心温かな物語になっていたのがよく感じました。
種は違えど、大切に子を育て命を繋いでいくさま、それによって孤独だった蛙の生が豊かに色づいていくさまが圧巻で、深いカタルシスを与えてくれます。
大河ドラマ「新撰組!!」の脚本を手がけた三谷幸喜さんが、劇中の近藤のセリフで先に挙げた故事に「されど空の深さを知る」と付け足したのは有名ですが、この物語でも泥からすさん流の解釈を加えて、さらにポジティブで感動あふれる物語に仕立て上げられていたのが素晴らしいです。
その発想の豊かさと、浮かび上がる情景の美しさ、寂しくもどこか温かな読後感から、優秀賞に選ばせていただきました。
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【審査員特別賞①】 霧島辰巳 さん
君の様子がおかしいことはすぐ気付いた。お洒落になって態度がぎこちなくなって、毎年はしゃぐ交際記念日の話題も上の空。潮時かな、と記念日前夜を宅飲みデートにした。早々に酔い潰れた君のポケットから転がり出た指輪の小箱とカンペは日付が変わるまで待ってるよ。二人きりならじっくり聞けるから。
— 霧島辰巳@原稿 (@ttm_krsm) May 26, 2021
審査員特別賞1作目は、霧島辰巳さんの作品です。
交際記念日間近だというのに、どこかよそよそしい態度の交際相手。
序盤を読むと、もしかしてこのあと悲しい結末が待ち受けているのでは…と主人公同様、読者も身構えます。
しかし、最後の2文で状況が一変。予想外の展開にほっとすると同時に、読者の気持ちが一気に祝福モードへと切り替わり、感情をたかぶらせます。
物語のミスリードのさせ方、ギャップの付け方がうまく、交際相手のかわいらしい失敗にもニヤリとさせられる、素敵な物語でした。
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【審査員特別賞②】 朱 さん
海を見張る。
— 朱 (@akm_762x39) May 28, 2021
もし船影があれば、狼煙を焚けるよう薪も組んである。
孤島での十年。その出番はなかったが。
流れ着いた新たなビンに手を伸ばす。
漂着したての頃は、こういう物に手紙を入れて流したりもした…
と…俺は目を疑い、崩れ落ちた。
中の俺の手紙に
がんばて、と
子供が字を書きたしていた。
審査員特別賞2作目は、朱さんの作品です。
ほっこりするような、悲しいような、絶妙な読後感が味わえる物語で、とても印象に残りました。
漂流後たどりついた孤島で、救いを求めて手紙を流した主人公。そして、いまだ孤島で暮らす彼のもとに、数年の時を経て戻ってきた手紙。
もし見つけたのが、大人であれば結果は違うものになっていたかもしれませんし、当時書いた子供も成長しているはずですが、届いた手紙の内容はすっかり忘れてしまっていることでしょう。
訪れる二重の絶望と、10年ぶりに触れた他者の温かみ。
この手紙が今後の主人公にどう影響するのか、そこを想像する楽しみもあり、読み応えある作品となっていました。
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【Pick Up①】 綴木 しおり さん
1日で人生がめちゃくちゃになった。大人たちは皆殺され、僕たちの生活を支えていた宝物も全て奪われてしまった。子供しか残されていないこの島で僕らは一体どうしたらよいのだろうか。だが僕は諦めない、いつの日か復讐を果たすために。僕の島を襲った者、いや、鬼は自らを『桃太郎』と名乗っていた。
— 綴木 しおり@140字小説 (@GNhoqNlZuMbznJD) May 23, 2021
そして、ここからはピックアップとして、気になった作品をいくつか挙げさせていただきます。
1作目は、綴木 しおりさんの作品です。
鬼を退治する桃太郎の童話を鬼視点から書いた物語というのは割とよくお見かけしますが、この作品はそこで終わりません。
人生をめちゃくちゃにされた鬼は、みずからを《桃太郎》と名乗り、人間への復讐を誓います。
悲しみの連鎖を匂わせる虚しさがあり、それが断ち切れる日はいつくるのか。
途方のなさに胸をえぐられつつも、新解釈のまったく新しい物語に仕上がっており、誰もが「鬼」にも「桃太郎」にもなりうる可能性を示唆した、非常に深い内容となっていました。
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【Pick Up②】 ゆえ さん
「ご飯食べに行くだけなのにね」
— ゆえ🦔🌸 (@loveinyue) May 23, 2021
昼休みの更衣室。同期とマスクでよれたファンデを直し、口紅を塗った。
「ほんと女って面倒くさい」
話しながら食堂の席に着く。向かいのテーブルには珍しく営業の彼がいる。不意に目が合った。
いつもはできないのに、色を乗せた私の唇は、自然と微笑み返していた。
2作目は、ゆえさんの作品です。
女性ならではの視点で書かれた物語がリアルで、一際目を引きました。
よれた化粧を直すのは面倒だけども、マスクを外す一瞬だとしても美しく見られたいと願う気持ちは共感できますし、そのあとに意中の相手と食事の場でばったり遭遇するも、手間を省かなかったことが功を奏して、彼女の自信につながっていくのがとてもいいです。
唇を彩る紅が、彼女の魅惑的な微笑みをさらに際立たせてくることも想像ができ、艶かしさすら感じる物語でもあったのが印象的でした。
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【Pick Up③】 草壁航 さん
彼女は幽霊を信じ、よく僕を連れて心霊スポットで写真を撮った。心霊写真で幽霊を証明したいらしい。結果は全て空振り。でも僕はそんな日々に幸せを感じていた。
— 草壁航@140字の小噺 (@w_kusakabe0000) May 24, 2021
彼女は亡くなった。葬儀会場で自撮りを試みる。写るのは目を腫らした僕だけ。
なんだよ、幽霊がいるなら写ってくれてもいいじゃないか。
3作目は、草壁航さんの作品です。
幽霊の存在を証明をしたい彼女の好奇心に振り回されながらも、それが彼の幸せとなっていた掛け替えのない日々。
しかし、その幸せが突如終わりを迎える絶望。そして、皮肉にも彼女の死によって、幽霊の有無の証明が果たされてしまう虚しさ(しかも彼女はその結果を知ることはない)。
その複雑な悲しみが主人公に一気に押し寄せるさま、それを表した描写が痛々しく、胸にずんと重いものが残る作品でした。
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【Pick Up④】 市川 摂 さん
天気予報によると今日は午後から雨が降るらしい。早速先週買った折り畳み傘の出番だ。なんて考えながら少し耳の焦げたトーストを齧り、野菜ジュースを一口。天気予報が終わったと同時にあることに気がついて思わず苦笑した。あぁ、いつまで経っても貴方の住む街の天気まで確認してしまう癖は治らない。
— 市川 摂 (@setu_itikawa) May 26, 2021
4作目は、市川 摂さんの作品です。
何気ない日常の風景を切り取った作品ではあるのですが、最後に描かれるちょっとした切なさが、物語のいいスパイスになっています。
きっと2人は、離れたところに住んでいたのでしょう。
付き合っていたころは、天気予報で得た情報から相手のことを想像し、会話を弾ませたり、気遣ったりしていたのかもしれません。
同じ日常でも、それはあくまで「以前の彼の日常」だったことが匂わせられている、この絶妙な空気感を巧みに描き出されているところに、市川さんの手腕の高さが窺えます。
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【Pick Up⑤】 さつき さん
『描きます。誰も知らないあなたの素顔』
— さつき@読む温泉 (@satsukispa) May 23, 2021
評判の画家に肖像画を注文した。見た目ではなく、オーラや心の姿を描くという。
わたしなら大丈夫。いつも笑顔だから。
しかし描かれた絵には、憤怒の鬼の姿。
そんなはずは。わたしは今まで怒ったことはない。
修正してもらおう。わたしが「納得」いくまで。
5作目は、さつきさんの作品です。
人間の本質を見抜く画家と、自身の本質に無自覚な主人公のやりとりが、ユーモラスかつ皮肉たっぷりに表現されており、エッヂがきいています。
スピリチュアルな雰囲気を醸した物語の設定がとてもユニークでしたし、それを生かして主人公の内に秘められた狂気を暴いていく演出のよさも光ります。
この体験で発露した憤怒の情は、これから主人公の人生にどう影響していくのか、そこを想像する楽しさもある作品でした。
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まだまだ素敵な作品がたくさんあります! 全応募作はこちら!
こちらでご紹介させていただいたのは、ほんの一部で、このほかにも魅力溢れる作品はたくさんあります!
今大会の応募作品は以下のリンクからすべて読むことができますので、ぜひ読んで、お気に入りの作品にリアクションされてみてください!
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第4回大会連動「私の大賞」企画はこちらから!
応募期間終了後、「第4回書くを楽しむ140字小説コンテスト」応募作の中から、読み手の皆さんのイチオシ作品を選んでもらい「私の大賞」として推薦していただく企画も行っています!
今回は17作の推薦があり、大いに企画を盛り上げていただきました。
誠にありがとうございました。
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最後に
以上、結果発表と講評でした。
今回もたくさんのご応募をいただき、誠にありがとうございます。
そして次大会でも、引き続き皆さんのご参加をお待ちしております。
大会概要は2021年6月13日(日)19:00ごろ発表。
そして作品の募集期間は2021年6月19日(土)19:00〜6月27日(日)19:00となっています。
これからも引き続き「#書くを楽しむ小説コンテスト」をよろしくお願いいたします。
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