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「#第3回書くを楽しむ140字小説コンテスト」結果発表+講評!
こんにちは。カクタノコン主催のmimi(@mimi_00_coco)です。
第3回大会は、138作の力作が集まりました。
全体の講評として、今大会は幅広いジャンルの作品が満遍なく集まった印象を受けます。それだけに各々のジャンルでキラリと光る作品がひしめき合っていたのも事実で、選考にはかなり時間をかけて悩ませていただきました。
ただ、それだけ多くの良作に恵まれ、感情を揺さぶられる読書体験をさせていただけたことは主催者としても、幸福の一言に尽きます。
本当にどの作品も甲乙つけがたい、魅力あふれる作品ばかりでした。
今回選ばせていた2作については、失礼ながら、数十・百数といいねがついた作品ではありません。
しかし、作品の完成度の高さと稀有なカタルシス演出から「光るもの」を確かに感じ、期待を込めて大賞・優秀賞に選ばせていただきました。
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【大賞】 はごろもとびこ さん (Amazonギフト券3000円分贈呈!)
レポートのため僕は古い資料を探しに図書館へ行った。聞けば端っこの高い本棚にあるという。梯子を登って資料を抜けば、空いた隙間から向かいの女性と目が合った。「わっ」と驚いたのはお互い様。こんな古い棚を同時に触るなんて運命だ。「あの」と声をかけて気がついた。この本棚は壁際にあることを。
— はごろもとびこ (@peeUsausa) April 25, 2021
大賞は、はごろもとびこさんの作品です。
実はこれまでの大賞・優秀賞は「人情もの(ヒューマンドラマ)」ジャンルが大半を占めていたのですが、今回は「ホラー」を選ばせていただきました。
図書館に行った主人公が本を抜き出すと、”向こう側”にいた女性と目が合います。普通であればあまり行きつかない本棚だったこともあり、嬉しくなって声をかけたのでしょう。序盤はどこか爽やかで、初々しい印象さえも受ける物語です。
しかし、クライマックスで状況が一変。《この本棚は壁際にあること(行き止まり)》に気づき、声をかけた"向こう側の女性"は一体……と、終わりの一文で急速に肝が冷えるような、「意味が分かると怖い」作品に仕上がっていました。
前後半の内容に大きなギャップをつけることで、ゾワゾワ感がさらに膨れ上がるような工夫もされており、構成や演出に長けた作品だったように感じます。
真実に気づいた主人公はどうなってしまうのか、その後の展開やオチに含みを持たせ、読者にその先の解釈を委ねたところにもホラーの醍醐味が詰まっており、その完成度の高さが決め手となり、大賞に選ばせていただきました。
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【優秀賞】 朔良 さん (Amazonギフト券1000円分贈呈!)
「嘘だろ…」
— 朔良 (@tsukikomor) April 24, 2021
その光景を目の当たりにし、その場から逃げ出した。勘違いなんかじゃない。俺と目が合った瞬間ヤバッって顔をした。友人二人がキスをしていた。
何でだよ、友達だろ、親友だろ、お前ら男同士だろ!!
何でだよ、何でだよ!俺は、俺だって!俺だってお前と!!
――お前と?何を?
「マジかよ…」
優秀賞は、朔良さんの作品です。
同性の友人2人がキスしているところを偶然見てしまい、衝撃を受ける主人公。最初は「2人の関係」に驚いていたものの、その気持ちが徐々に変化して《俺だって!俺だってお前と!!》と密かに育んでいた恋心に気づき、最後は「自分自身」に驚く。
最初と最後で「驚き」の意味が変化していく構成が素晴らしいですし、さまざまな思いが去来する中、やがて1つの真実を見いだしていく感情の見せ方が秀逸で、読者の気持ちが乗りやすい物語構造になっているところに好感が持てました。
あえて《お前と?何を?》の先を具体的に言及せず、言葉の先を読者に想像させたのもよく、その臨場感あふれる巧みな感情描写に惹かれ、優秀賞に選ばせていただきました。
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【審査員特別賞①】 七海天聖 テン さん
目の前で二人の女性が、買うかどうか悩んでいる。売人はこう言う「親父にバレないようにな」若い方の女が「大丈夫よ一瞬で吸い込むから」と笑う。すかさずもう1人の女が「何?前は足元に白い粉落ちたまんま残して直ぐバレた」売人が選択を迫る「どっちにする?」若い女は決めた「豆大福2パック粒餡で」
— 七海天聖 テン (@tenshow_10) April 18, 2021
審査員特別賞1作目は、七海天聖 テンさんの作品です。
《売人は〜「バレないようにな」》、《一瞬で吸い込む》、《前は足元に白い粉落ちたまんま残して直ぐバレた》と、「怪しげなブツ」のやりとりをにおわせながらも、最後にこれらすべてが「豆大福」に関わる描写だと分かり、思わず笑みがこぼれてしまう物語でした。
おそらく豆大福を食べたことのある人なら、誰でも共感できる内容になっているのではないでしょうか。笑
女性が2人で一方は《若い女》とされていることから、2人は母親とその娘であり、無駄遣いなどと責められることを恐れ、父親に隠れて豆大福を楽しんでいるのかもしれません。
2つではなく2パックと、おそらく4つ以上は大福があるはずなので、次はぜひ父親とも仲良く食べてもらいたいと、期待を込めつつ読んだ物語でした。
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【審査員特別賞②】 市川 摂 さん
ネモフィラの花が見頃らしいよ、そんな彼女の一言をきっかけに訪れた森林公園。そこで僕達を出迎えたのは、一面に広がる瑠璃色の花の絨毯だった。まるで空みたい、そう言って君は白いワンピースの裾を揺らして回ってみせる。その姿は春を謳歌するモンシロチョウのように綺麗で、文字通り目を奪われた。
— 市川 摂 (@setu_itikawa) April 21, 2021
審査員特別賞2作目は、市川 摂さんの作品です。
前作同様、情景描写・視線誘導のしかたが巧みで、その鮮やかな描写の数々に引き込まれました。
透明感ある青のネモフィラがいっぱいに広がっているのを空に、そしてその中で白いワンピースを着た彼女が舞うのをモンシロチョウに見立てる。
二重の情景描写がとてもユニークでしたし、丁寧な描写が読み手の想像を掻き立て青と白のコントラストが眼前に浮かぶようで、一読者としても心を奪われました。
また、その情景に見合う青々しい恋愛模様も魅力で、ひとえに「美しい」作品だと感じました。
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【Pick Up①】 あまぐり さん
「母さん」
— あまぐり (@amaguribouya) April 21, 2021
俺の声に瞼がゆっくり持ち上がる。
どこを見てるのかわからないけど、母が見せてくれる唯一の意思。
寝たきりになったら延命はいいからね。そう言っていた母。
わかったよ。その時はそう答えたけれど。
神様、俺は親不孝ものになります。
そして、ここからはピックアップとして、気になった作品をいくつか挙げさせていただきます。
まず1作目は、あまぐりさんの作品です。
すでに寝たきりの状態となり命を留めるので精いっぱいの母親ですが、主人公が呼びかければ、それに呼応してゆっくりとまぶたを持ち上げる。
その反応を見るたびに主人公は母の「生」を再確認し、僅かな希望を見出していくのでしょう。
愛する人と少しでも長く時を共にしたい主人公の「エゴ」と、母親の思いを尊重し最後の「孝行」をしてあげたい気持ち。その狭間で大きく揺れる主人公の葛藤が痛いほど伝わってきて、胸にじんと迫るものがあります。
すべてを文字に起こさずとも読み取れる、その複雑な心境に字数以上の深みが感じられる重厚な作品でした。
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【Pick Up②】 香狩優雨 さん
解体する実家を整理していると、元彼から借りたままのCDが出てきた。まだ連絡先が残っていたなぁ、と連絡してみたら、もう何年も前に聴かなくなったから処分しておいて、と。
— 香狩優雨 (@Kagari_yuu_s2) April 23, 2021
ついでにもう一言、
「幸せになったかい?」なんて。
どーかなぁー、なんて返すけど、私は、君と幸せになりたかったよ。
2作目は、香狩優雨さんの作品です。
1度読んだだけでも「切なさ」が込み上げてくる作品ではあるのですが、こちらは2度読んだほうが、より強いカタルシスが得られるように感じます。
最後の《私は、君と幸せになりたかったよ》の一言を読んでから、改めて全体を読み返したときに、主人公が何年も前に別れた彼の連絡先をいまだに残していること、そして残しているのを覚えていること、CDの処分をきっかけに連絡することなど、彼女の「元彼への強い未練」が如実に感じられやすくなっており、2度目は少し違った読後感が得られるのが面白い作品でした。
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【Pick Up③】 うさぎのしっぽ さん
愛娘が読んでと持ってきたのは、古い大きな本。物語じゃないと言ったけど、娘はこれがいいと言い張る。
— うさぎのしっぽ (@sippo_usagino) April 23, 2021
私は本をめくり、中にあるものを指差した。
「昔、ママはまだママじゃありませんでした。おばあちゃんもおばあちゃんじゃありませんでした。ママは、生まれたばかりの赤ちゃんだったからです……」
3作目は、うさぎのしっぽさんの作品です。
母親が大切に保管していたアルバムを引っ張り出し、読み聞かせをせがむ娘。
おそらく彼女はページをめくるうちに、その本の”主人公”が成長していく過程・ストーリーに強く興味を持ったのでしょう。
そこで伝え聞いた物語は一生忘れられない一作として、彼女の記憶の中に深く刻まれていくことでしょう。
巡り繋いできた悠久の命、それをゆっくりと伝え聞かせていく穏やかな時の流れ、それらがしっかりと感じられる素敵な作品でした。
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【Pick Up④】 たる亡 さん
悪が10年ぶりに襲来した。破壊される街並。逃げ惑う人々。
— たる亡 (@kitalbou4th) April 24, 2021
だが人類には備えがあった。小麦で造られた長期保存の利くヒーローが。
「助けて!乾パンマン!」
人々はその名を叫んだ。しかし反応は無い。
「た、大変だ!」
博士の顔が青ざめる。
「しょ、賞味期限が……切れてる……」
4作目は、たる亡さんの作品です。
賞味期限が切れて中が腐っていたのか、困る人々を助けることもできず、食べることさえもできない乾パン。
某国民的キャラクターを想起させるファンタジーテイストを醸しつつも、悪=災害と現実に置き換えることも可能な、二重で楽しめる物語世界になっているのがユニークで惹かれます。
備蓄物はきちんと日頃から確認しておきましょうという訓話的な要素もありつつ、思わずくすりと笑ってしまうオチが魅力の作品でした。
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【Pick Up⑤】 黒河けーこ さん
「なあ、ドラゴンの死体探しに行こうぜ!」
— 黒河けーこ🦢⚔ (@chocolad0121) April 25, 2021
君の一言から始まった、夏休みの大冒険。暑さで溶けたチョコレートの味も、下らない口ゲンカから始まったどっちの魔法が強いのか対決も、いい思い出とは言えない。
まあドラゴンの死体は見つからなかったけど、君の「次は何探す?」の一言で、全部チャラだ。
5作目は、黒河けーこさんの作品です。
未知や冒険を楽しむ子どもたちの姿がかわいらしい作品でした。
子どもたちが冒険の中で失敗したり、言い争いをして嫌な気持ちになったりすることがあっても、それらを思い出として昇華し、確かに友情を積み重ねていくさまも微笑ましく、読み終えたあとは温かな読後感に包まれます。
次は一体何を見つけにいくのか、まだまだ続いていくであろう2人の長い冒険をつい見守りたくなってしまう、素敵な友情譚でした。
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まだまだ素敵な作品がたくさんあります! 全応募作はこちら!
こちらでご紹介させていただいたのは、ほんの一部で、このほかにも魅力溢れる作品はたくさんあります!
今大会の応募作品は以下のリンクからすべて読むことができますので、ぜひ読んで、お気に入りの作品にリアクションされてみてください!
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第3回大会連動「私の大賞」企画はこちらから!
応募期間終了後、「第3回書くを楽しむ140字小説コンテスト」応募作の中から、読み手の皆さんのイチオシ作品を選んでもらい「私の大賞」として推薦していただく企画も行っています!
今回は19作の推薦があり、大いに企画を盛り上げていただきました。
誠にありがとうございました。
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最後に
以上、結果発表と講評でした。
今回もたくさんのご応募をいただき、誠にありがとうございます。
そして次大会でも、引き続き皆さんのご参加をお待ちしております。
次回は少し日程に変更がありますので、ご注意ください。
毎度各月2週目が概要発表、3〜4週目が作品募集となっておりますが、第4回大会は1週間遅らせまして、大会概要は2021年5月16日(日)19:00ごろ発表。
そして作品の募集期間は2021年5月23日(土)19:00〜5月30日(日)19:00となっていますので、お気をつけください。
これからも引き続き「#書くを楽しむ小説コンテスト」をよろしくお願いいたします。
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