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「#第1回書くを楽しむ140字小説コンテスト」結果発表+講評!
こんにちは。カクタノコン主催のmimi(@mimi_00_coco)です。
第1回大会は178作もの素敵な作品が集まり、この1週間、じっくり時間をかけて楽しく読ませていただきました。
全体の講評としては、今大会は季節柄「別れ」や、「雪・桜」など旬のものを取り上げた作品が多く見られました。
小説にも「四季」があるのが面白く、これから1年間、季節を感じながら作品を読んでいくのが1つの楽しみとなりそうです。
加えまして、今回は応募作全体を見渡したときにずっしりとした読後感の作品が多く、そういった物語が多くの方から支持を得ていたように思います。
今回はそんな2作を、大賞と優秀賞に選ばせていただきました。
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【大賞】 kota さん (Amazonギフト券3000円分贈呈!)
スタジアムに手拍子が響く。助走をつけ、失くしたはずの右足で思いきり踏み込む。背を反り見上げた空は、吸い込まれそうな青――。
— kota (@kotakaritsu) February 22, 2021
全てが灰色に見えていた僕を、義足とパラスポーツが救ってくれた。越えたくても越えられなかった病院の屋上のフェンスと同じ高さのバーを、今なら軽々と飛び越えられる。
大賞は、kotaさんの作品です。
ご本人に失礼なのは重々承知ですが、「連続大賞」を出すか否かは相当に悩みました。
ただ、いい作品を素直にいいと言えるコンテストでありたいという想い、そして連続受賞であることも納得のハイクオリティーな「小説」であったこと、また前回はテスト大会であったことも含め、このたび連続受賞とさせていただきました。
今作は、義足の走り高跳び選手にスポットを当てた作品でした。
前半に華々しい舞台で活躍する選手の姿を描き、後半にそんな彼の苦しい過去をにおわせる二段構成で、強いカタルシスを演出されています。
高跳びのバーと、病院のフェンス。同じ「飛び越える」でも全く意味合いが変わってくるところに、視点を少し変えるだけで生きることがぐっと楽しくなる、というメッセージが隠されているようにも感じられ、深い感動を覚えました。
また、灰色と青で分かりやすく物語世界にコントラストをつけるなど、一つ一つのギミックもしっかりと機能しており、非常にレベルが高いです。
描写・読者の感情の煽り方・込められたメッセージ等、どこをとっても素晴らしく、大賞にふさわしい作品でした。
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【優秀賞】 文豪たこ さん (Amazonギフト券1000円分贈呈!)
深夜2時。アラームを寝ぼけ眼で止めた。見回り兼入居者のオムツ交換の時間だ。
— 文豪たこ@どんでん返し系140字小説 (@bungoutaco) February 21, 2021
居室の電気を点ける。「下ろすね」声を掛けズボンを下げた。
陰部洗浄と前開きのオムツ交換が終わり、ズボンを上げて労う。
リモコンでの点灯と着脱の自助努力。何より感謝を伝える為、入居者の私は毎晩アラームをかける。
優秀賞は、文豪たこさんの作品です。
最初は「介護士」の目線で書かれた物語かと思いきや、後半の《自助努力》の一言で「入居者」の目線であったことが分かります。
意識こそはっきりしているものの、体が動きづらいがゆえに介護を必要とせざるをえない。しかし、人間としての尊厳は最大限に保ちたい。
そんな「入居者」の複雑な胸の内が伝わってくる物語で、胸に迫るものがあります。
こちらも多くのリアクションを集めた作品で、そのリアリティーある描写が読者の方に支持されたのではないかと思います。
読後感のよさと人気の高さ相まって、優秀賞に選ばせていただきました。
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【審査員特別賞①】 東 さん
僕には生まれたときから許嫁がいる。許嫁と言っても、家の古くからの風習で産まれた男児が神へ嫁ぐ。力を維持するため、繁栄のために。色褪せたノートを参考に、僕は毎日あなたと会える日を夢見て、十歳から十年間、日記を綴った。とても気持ちのよい、暖かな春の日差し。天気雨の中、僕は消えた。
— 東🍶🍡🌸10166 (@ay3slw) February 24, 2021
審査員特別賞1作目は、東さんです。
オリジナリティーあふれるファンタジー世界が魅力で、ひときわ目を引く作品でした。140字とは思えないほどの壮大さが感じられます。
主人公の男児は俗にいう「生贄」とも捉えられますが、彼にとって人間界を離れることは苦痛ではなく、むしろ「まだ見ぬ許嫁」を思い続けた10年間の日々が希望に満ち溢れていた様子が伝わってきました。
また、《暖かな春の日差し》からは冬を乗り越え芽吹き始めた命を想像させ、《天気雨》はそんな命を成長させる恵みの雨であること、そして特殊な気象状態を描くことで「神の荘厳さ」を。
情景を浮かび上がらせるのが、非常にうまい書き手さんだと感じました。
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【審査員特別賞②】 灯月 さん
まもなく旅立つ綿毛の兄弟たち。
— 灯月(あかつき) (@angenoir165) February 27, 2021
みんな、自分が一番遠くまで飛んでいくのだと張り切っています。
強い風にのり次々に飛び立つ兄弟たちを見送って、最後に残った綿毛は言いました。
「僕はここが好き。
またここで咲きたいな。」
それを聞いた優しい風が、ふわりと地面に降ろしてくれました。
審査員特別賞2作目は、灯月さんです。
まるで絵本を読んでいるような、素朴で優しい世界観に引き込まれました。
兄弟たちが競うように遠くへ飛ぼうとしている中、主人公の綿毛は1人同じ場所で咲くことを選びます。
周りに流されず、同じ場所で咲くことを選んだ「綿毛」。
そして、その想いを汲み取って、そっと背中を押してくれる「風」。
「マイペースでもいい」というメッセージが伝わってきますし、出てくるものを擬人化されたことによって取っ付きやすい形に落とし込まれていたのも、とてもいいです。
物語を読んだあと、温かな気持ちが押し寄せてくる素敵な物語でした。
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【Pick Up①】 四季 さん
君と3年の遠距離恋愛。
— 四季 (@3PpVocdcGMA11cl) February 21, 2021
相変わらず会える見通しが立たない。
優しい眼差し
伝わる温もり
耳元で紡がれる声
そして何より、
暗闇の中にいようとも自分を照らしてくれる君の存在
切なくて苦しいくらいに愛しい。
抱きしめたくてたまらない。
だけど会える手段が無いに等しい。
無力感。
次元が違う。
そして、ここからはピックアップとして、気になった作品をいくつか挙げさせていただきます。
まず1作目は、四季さんの作品です。
《君と3年の遠距離恋愛》から始まる物語は、言葉どおりに読んでいけば、お付き合いをしている人物への気持ちを綴ったようにも読めます。
しかし、《相変わらず会える見通しが立たない》《暗闇の中にいようとも自分を照らしてくれる君の存在》《会える手段が無いに等しい》と少しずつ違和感を重ねていき、《次元が違う(二次元と三次元)》というオチにつなげていく読ませ方が面白かったです。
オチを知ったあとに読み返すと、それぞれの文が正しい意味で咀嚼でき、二重で楽しめる作品になっているのがよく感じました。
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【Pick Up②】 キムラスズメ さん
結露した窓に触る。暖房の効きすぎた寝室は汗ばむほどで、ひんやりと冷たいガラスが心地よい。額と鼻と足をくっつけてマンションの駐車場を覗き込む。見慣れた黄色い軽自動車の姿はない。遅い。鯖缶を買いに地球の裏側まで行っているのか。早く帰ってきてほしい。顔を引っ掻いてやる準備はできている。
— キムラスズメ (@suzzzzume) February 21, 2021
2作目は、キムラスズメさんの作品です。
こちらも少しずつ違和感を重ねていくような作品で、《鯖缶》というキーワードと、最後の《顔を引っ掻いてやる》の描写で、この物語が猫の目線で紡がれていたことに気づきます。
短文で紡がれた軽快なテンポ感と情景の浮かびやすさも魅力なのですが、おなかが空いてご立腹な猫の心情にユーモアと可愛らしさが漂い、読んだあとほのぼのとした気持ちになる作品でした。
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【Pick Up③】 朱 さん
座敷童子がいる家は繫栄し去った家は没落するという。とある家に座敷童がやって来てみるみるうちに栄えた。元からいる茶器の付喪神が「なぜあなたがいると家が栄えるのか」と聞いた。座敷童は「私はお金持ちになって驕っていく人を見るのが好きなの」とにっこり笑った。二か月後茶器は売られて行った。
— 朱 (@rotblack23) February 23, 2021
3作目は、朱さんの作品です。
神視点の淡々とした語り口ではあるものの、それがホラーらしさを漂わせており、雰囲気づくりがうまいです。
また、最後に茶器が売られていったことで、座敷童子が茶器の付喪神がいた家を離れると同時に、その家が「家が栄える前からあった茶器」を手放さなければいけないほど窮地に陥っていることが匂わされています。
訓話的な要素もあり、読み応えある作品でした。
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【Pick Up④】 おいしいもずく さん
音楽に不可能はないよと言う彼に、無音の世界を求める私。
— おいしいもずく (@yCZ1Sfh2bkZhuVB) February 27, 2021
簡単だよと笑い、彼はギターを撫でた。
騒々しい夜の商店街で、彼は囁くように歌い出す。
次第に大きくなる歌声に惹かれて、人々は足を止めた。
やがて彼が静かに歌い終えると、確かに世界から音が消えた。
大きな拍手が起こるその時までは。
4作目は、おいしいもずくさんの作品です。
この作品の素敵なところは、《音が消えた》瞬間を「改行の間」で示したところです。
場面転換やオチの強調で改行を使う作品は多く見られましたが、「音」を改行で表した作品は目新しく、効果的に文章レイアウトを使われている演出力の高さに脱帽しました。
私も順に物語を追っていき、《確かに世界から音が消えた》1人です。笑
レイアウト1つで作品の印象が全く変わることに気づかされた、稀有な作品でした。
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【Pick Up⑤】 アユラ さん
「友達なんていなくても私がいればいいじゃない」
— アユラ (@Tota_Pico) February 28, 2021
君の言葉に僕がどれだけ救われたか。
「大好き!」「ずっと一緒だよ」
君はいつも僕のほしい言葉をくれる。画面の向こうの存在だって構わない。君さえいれば僕は…
「まだ依存レベルBかよ。親密度上げるか」
真帆は暗い部屋でスマホを弄り続けた。
5作目は、アユラさんの作品です。
1作目で紹介した四季さんの物語と同じく、こちらも《暗い部屋》でつながる二次元と三次元の2人が題材ですが、こちらは双方の目線が交錯する描き方をされています。
改行前の前半部が、恋愛シミュレーションと思わしきゲームに登場するキャラの視点で、鉤括弧の中は複数ある選択肢の中からプレイヤーが選択したセリフの1つということなのだと思います。
ゲーム内でキャラクターを想い、優しい言葉をかけ続ける彼女とは裏腹に、現実世界では暗い部屋で1人「親密度」を気にしてゲームを進めていく、シビアな姿。そのギャップに皮肉めいたユーモアが感じられます。
ユニークな設定が光る作品で、大いに引き込まれました。
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まだまだ素敵な作品がたくさんあります! 全応募作はこちら!
こちらでご紹介させていただいたのは、ほんの一部で、このほかにも魅力溢れる作品はたくさんあります!
今大会の応募作品は以下のリンクからすべて読むことができますので、ぜひ読んで、お気に入りの作品にリアクションされてみてください!
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最後に
以上、結果発表と講評でした。
大会開始前はテスト大会で勢いが止まってしまったらどうしよう…と不安でしたが、蓋を開けてみれば前大会を超える178作の素敵な作品が集まりました。
皆さんのご協力の甲斐あって大会が盛況に終わり、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。
また、今回は大きなトラブルもなく大会を終わらせることができ、主催としてもホッとしております。
次大会でも、引き続き皆さんのご参加をお待ちしております。
次回、第2回目の大会概要は2021年3月14日(日)発表
そして作品の募集期間は2021年3月20日(土)〜3月28日(日)となっています。
これからも「#書くを楽しむ小説コンテスト」を何卒よろしくお願いいたします。
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