ストーリーが1分21秒の予告編に全部入ってる|『小説の神様 君としか描けない物語』(ネタバレ)
※映画の核心に触れています
『シグナル100』以来、今年二度目の橋本環奈との出会い。
今回も学園もの。
デビュー作以来スランプで筆が進まず悩んでる現役高校生作家千谷一也(佐藤大樹)に担当編集者(山本未來)が他作家との合作を持ちかけ、その作家が同級生の小余綾詩凪(橋本環奈)だったためにさあ大変。という話(雑)
文芸部員で現役作家の千谷くんは次作が書けず、ネットで(読書メーターみたいなやつ)自分のデビュー作の酷評を見て落ち込みまくり(ガラスのハートすぎる)「小説で人の心なんて動かせないんだよ!」と偉そうな口叩いて、なに10代でわかった風な口を!と僕が思ったところで代わりに橋本環奈が「はあ?あんた小説なめてんの!?」と千谷くんをビンタ(しかも往復)してくれてとてもスッキリしました。この映画の一番良いところです。冒頭だけど。
で、冒頭から映画がカラーでなく白黒なんですね。これが結構な長さで白黒で劇場の機器設定のミスなんじゃないかとずっと思ってました。
で、「第1章千谷一也」とサブタイトルがでます(白黒でよく見えない!)。
ハイハイハイハイ、小説のように章立てで物語が進むわけですね。ハイハイ。
で、物語が書けない千谷くんに、別の作家にプロット(ストーリーの要点みたいなもの)を任せて共作したらどうかと山本未來担当編集が持ちかけます。
はあ、なんでまた……てな感じで生意気に渋々承諾した千谷くんの前に現れる橋本環奈。
「えー!お前(あんた)なの!?」と驚く二人。
……もうこういうの僕の人生のなかで何回見ただろう…もう残りの人生折り返したのでこういう茶番劇に付き合う余裕はないんですよワタシ。
同じ高校でクラスメイトだよ?担当編集者曰く「え、同じ学校だから知ってると思ってた」とか、いやいやそういうの普通に考えれば共作の作家が誰か千谷くんに伝えないと。プロなんだから。創作には大事なことだよ。すでに観客は橋本環奈がベストセラー作家小余綾詩凪(読み方忘れた)ってわかってるんだから主人公同士が「あー!」って驚く意味って映画的に不要。
そんな感じで精神的に弱い千谷くんと高圧的な橋本環奈の犬猿の仲というワザとらしいキャラ設定で小説の共作に挑むわけですよ。
でもって橋本環奈の口からプロットが発せられノートPCでメモを取る千谷くんが橋本環奈のプロットの素晴らしさに聞き惚れてホァ〜となってキラキラと二人が宙に浮き上がり(ホントに)、緑の草原と眩しい日の光に包まれ
♫描いた未来はすぐそこ〜 言葉は翼また飛べるわ〜と主題歌が流れてようやく映画はカラーになります。特に意味はないんですけど。
ですが、橋本環奈のプロットがどれだけ凄いかは最後までわかりません。「凄いや。僕には絶対思いつかないや」(千谷談)で済まされます。
その凄さを知りたいんだよ!
で、文芸部の新人のためにテニス部の取材とかキラキラした高校生活が適当に描かかれたり、橋本環奈が歩くと周りの生徒がホァ〜と見惚れたりして(『シグナル100』から続く“みんな橋本環奈が好き設定”)、そんなどうでもいい部分をハナクソほじりながら見ていると、書くことが楽しくなってきた千谷くんは橋本環奈に唆されてデビュー作の続編を書き上げることができたのでした。達成感に咽び泣く千谷くん。その原稿を出版社に持ち込みます。山本未來の版元ではないところに。なんでやねん。自分を一番評価してくれ親身になってくれる担当編集者になんで持っていかない。一番先に読ませなきゃいけない人なんじゃないか千谷よ。
で、別の版元の編集者は千谷くんの新作をいたく気に入ったみたいで(打ち合わせの席で原稿って読み終わるもんですか?読み終わるまで向かいの席でずっと待ってなきゃいけないんですか?)、「上司に掛け合い必ず出版社して見せます!」と啖呵を切る編集者。ああ〜フラグ。
で喜ぶ千谷くん。
実は千谷くんのお父さんは既に亡くなっており、妹は心臓病?で長期入院。お母さん一人に負担をかけまいと小説で稼ぐために必死なんです。
色々と大変な千谷くんであったが、結局持ち込んだ新作の出版は見送られることに。落ち込んだ千谷くんは傘もささず雨の中を肩を落としトボトボ濡れ歩く。悲しいシーンですよというわかりやすいアレです。あまりにショックだったので筆を折ることを担当編集者の山本未來に告げる。いや、新作ゲラを山本未來に渡せばいいじゃん。お前の目は節穴か千谷。
「作家はやめて大学行って就職して稼いだ方がいいと思います」と泣きながら話す千谷くん。いや作家は続けてもできるよねそれ。まだ高校で作家か会社員かの二者択一は考えすぎでしょうよ。そして山本未來もなんか言ってやれ。
この映画は現実的な大人の意見やアドバイスがまるで存在しない世界なんですよ。そりゃ千谷くんもああなるわ。
片やベストセラー作家の橋本環奈も実は小説が書けなくなっていた。
読書メーターで(またかよ)自作を他作家のパクリと誹謗中傷され、脅迫までされ、そのショックで文章が書けなくなったのだ。
だからプロット頭の中にしかなく、千谷くんと共作という形をとったらしい。
で、なんだかんだあって「は?!」と千谷くんが思い出したかのように駆け出し、公園の高台まで走るとそこになぜか白いワンピースを着た橋本環奈が待っていて「書こう!僕たちの小説を!」(ハナクソほじってたのでうろ覚え)といって再び小説を書き始める。
千谷くんのいきなりのモチベーションアップのきっかけはよくわからんかった。知っている人がいたら別に興味がないのでアナタの心にそっとしまっておいてください。
そしてまた主題歌が流れる。
この映画しつこいくらいことあるごとにソロプロジェクトとかで伶という人の主題歌がインサートされて鼻白む。もちろん製作委員会にはポニーキャニオン。
そして驚くべきことにここまで書いた映画のストーリーが1分21秒の予告編に全部入ってるのです。
他にも文芸部新入部員の杏花、部長の九ノ里の章もあるのですがたいして映画のツイストにもなってない。部長が『華氏451度』を読んでる姿が映ったのにそれを膨らまさないし。というか劇中で唯一実在したタイトルってこれだけか。
ということで、まあ特に見るべきところは橋本環奈のキラキラ感くらいしかない映画なんですが、そもそもで言わせて貰えば映画においてメインである「小説」の存在があまりに希薄。千谷くんが書いていた小説は純文学風なのはわかるし、橋本環奈の書いている小説が阿部 智里の八咫烏シリーズがモデルかなとぼんやりとしてわかるんですが、作家の苦悩は小説で発露すると思うので、それが共作で紡がれる小説で昇華しないといけないと思うんですよ。それがそれが二人で作り上げている小説が
♫描いた未来はすぐそこ〜 と歌と共にキラキラな映像だけでどんな物語がまるでわからないし、二人がそれで救われた、成長したと言った落とし所にされても見ている方は「はあ」としか言いようがないんですよね。
例えば二人で共作した小説が映画の最後、劇中小説かドラマでもいいんですが、それまでの二人の苦悩や経験が消化されているように映画を見ている観客にもわかるようになれば、彼らの苦悩や努力が形になる感動も得られたと思うんですけど。というか「小説」じゃなくて「舞台脚本」にして最後劇中劇にするというのもいいですよね。翻案になりますけど。
で、問題の「小説」の扱いですが、劇中での「心を動かす小説」とはどうやら「泣ける」小説のことらしく、真に小説の持つ力を信じている人たちにとってはあまりに浅く、小説自体にあまりに失礼ではあるまいか。
それこそ小説には千谷くんの作風を押し拡げる「感動」しないが素晴らしい小説というものがたくさんあるわけなので。
また作家というプロの世界、大人の世界に若くして立っている主人公二人なのに大人との関係性が希薄で、小説を書くことのプロセスに勝手に悩む拗らせた高校生の作家ごっこにしか見えず、タイトルにまでなっている「小説」がただの小道具でしかない映画でした。
で、「小説の神様」ってなんだったのでしょうか。
知っている人がいたら僕は別に興味がないのでアナタの心にそっとしまっておいてください。
2020年10月2日鑑賞
関連リンク
相沢沙呼による小説「小説の神様」を、佐藤大樹(EXILE/FANTASTICS)と橋本環奈のダブル主演で映画化。中学生で作家デビューしたものの、発表した作品を酷評され売上も伸びないナイーブな高校生作家・千谷一也。一方、同じクラスの人気者であるドSな性格の小余綾詩凪は、高校生作家としてヒット作を連発していた。性格もクラスでの立ち位置も作家としての注目度も正反対の彼らだったが、編集者に勧められ、小説を共作してベストセラーを目指すことに。反発しあいながらも物語を一緒に生み出していくうちに、一也は詩凪が抱える意外な秘密を知る。監督は「HiGH&LOW」シリーズの久保茂昭。
公開日 2020年10月2日
2020年製作/106分/G/日本
配給:HIGH BROW CINEMA