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それまで抑えた、いや我慢していた抑制された演出がスコーン!と大暴発 /『初恋』【ネタバレなし】

『無限の住人』以降の三池崇監督作品は観ていなかったので久しぶりです。
三池監督作品では『殺し屋1』と『十三人の刺客』という傑作に異論はないと思うのですが、この作品たちと比べるとその他の作品との出来不出来の波がめっちゃデカイんです。
『無限の住人』と『十三人の刺客』がとても同じ監督だとは思えないんですよね。まあ、その『十三人の刺客』の翌年には実写版『忍たま乱太郎』を撮るくらい仕事を選ばない監督なんですが、それでも傑作を見せてくれた記憶はとても強く、新しい作品にはいつも期待を持たせてくれる監督ではあります。『テラフォーマーズ』だってミジンコくらいは期待しましたよ。すみません嘘つきました。予告編からやばいと思ってました。『ジョジョ』は見てませんが、僕の中での三池監督とはそういったイメージです。
 
 さて『初恋』です。
三池崇初の恋愛映画という宣伝文句。
ぜんぜんラブストーリーじゃねえし・・・・。
ヤクザ映画でした!
しかしヤクザの登場はある意味嬉しい誤算。だって『殺し屋1』の素晴らしい思い出が。
主人公だと思っていた窪田正孝、小西桜子の二人はヤクザと中国マフィアの抗争に巻き込まれるのですが、物語のメインはヤクザの染谷将太のグダグダなドタバタなのでした。
 ベッキーの暴力性はある意味インパクトが大で、「勝手に死んでんじゃねーよ!」と死体に蹴りを入れるなどジム・トンプソンの小説のような狂気は必見。
 笑いと狂気のコントラストが徐々に強まってくる流れはゾクゾクして、良い意味で抑制の効いた演出はとてもよかったです。
 しかしクラマックスではそれまで抑えた、いや我慢していた抑制された演出がスコーン!と大暴発してしまいました。
ポッカーンですよ。
ここで賛否がかなり分かれそうですねぇ。
 僕はもっと抑制した狂気をじっとり描いて、レオとモニカの地獄からの逃走劇を見たかったなぁ。
あとボクサーとして主人公の立ち回りももっと見たかった。

三池監督の個性を知っている人にとっては「三池さんまたやってるわ〜」とニヤニヤと楽しめる映画となってますが、登場人物の焦点がぼやけ、全体的に散漫とした印象は否めませんでした。

キャストでは主人公レオを演じる窪田正孝の朴訥な雰囲気とボクサーしかない天涯孤独の男の哀愁がとても良かった。彼が新宿で一人佇むだけで絵になりますね。なぜ彼をもっと活躍させなかったのか・・・・。
 
実はアメリカなど海外で先に上映された『初恋』。
いわば逆輸入映画なんです。
だから牛久が舞台だけど下関の角島大橋のような場所が登場しても、茨城県に存在しないホームセンター「ユニディ」が登場してもなんらおかしくないのです!
海外では名の知れた三池監督の作品である本作は海外展開がまずあっての作品であるようで、海外版のポスターを見るわかる通り、海外でのマーケティングでは“ヤクザ映画”としての売り込みのようです。まあ、三池映画のイメージですね。片や国内では“三池監督初の恋愛映画”と宣伝している。案の定恋愛映画ではないんですが笑
 もしかすると海外バージョンはもっとヤクザ映画に振り切っているのかもしれませんが、とりあえず国内での三池恋愛映画としてはもうすこし編集でどうにかなったのじゃないのかと。

あと山中アラタのモニカの父でスピンオフ作って欲しい。

鑑賞日:2020年3月1日

※上:海外版ポスター、下:国内版ポスター

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三池崇史監督が窪田正孝を主演にメガホンを取った自身初の恋愛映画。天涯孤独の身で類まれな才能を持つ天才ボクサーの葛城レオは、試合でまさかのKO負けを喫し病院へとかつぎこまれた。医師から自分の余命がわずかであるという事実を突きつけられ、自暴自棄になりながら歌舞伎町の街を歩くレオの目に男に追われる少女モニカの姿が飛び込んでくる。ただごとではない様子からレオが反射的にパンチを食らわせた男は、ヤクザと裏で手を組む悪徳刑事・大伴だった。モニカは親の虐待から逃れるため歌舞伎町に流れ着き、ヤクザにとらわれていたという。レオは彼女を救うことを決意するが、その選択はレオがヤクザと大伴から追われる身となることを意味していた。レオ役を窪田、大伴役を大森南朋、モニカ役をオーディションで選ばれた新人の小西桜子がそれぞれ演じるほか、内野聖陽、染谷将太、ベッキー、村上淳、滝藤賢一、ベンガル、塩見三省らが顔をそろえる。
公開日:2020年2月28日
2019年製作/115分/PG12/日本
配給:東映


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