
灯台守が狂った本当の理由|『ライトハウス』感想【ネタバレ】
1890年代のアメリカ、ニューイングランドの孤島にある灯台に着任した二人の灯台守。互いに衝突するベテランのトーマス(ウィレム・デフォー)と新任のウィンズロー(ロバート・パティンソン)の二人は嵐の中で孤立し、徐々に精神を病んでいく。
1801年に実際に灯台で起きた悲劇をベースに、孤島という極限状況の密室劇を描いた『ライトハウス』は、監督であるロバート・エガースの、ある意味やりたいことを詰め込んだような作品ですね。メルヴィルやスティーヴンソン、H・P・ラヴクラフトの小説、そしてギリシャ神話を物語の底本にしつつ、1.19:1のスクリーンサイズ、モノクロというルックはハロルド・ピンターを想起させる。
ってことはパンフレットに全部書いてあって、作品に散りばめられているレファレンスについて丁寧に解説が載ってます。いまさら感想でこれらをしたり顔で書いていてもあまり意味はありませんね。
ということで、このnoteでは灯台のマガジンを立ち上げたりしてますので、灯台好きの視点から映画『ライトハウス』の考察をひとつ書いておきますね。
映画『ライトハウス』の中で、ウィレム・デフォー演じるトーマス・ウェイクが魅せられている灯台のレンズが登場します。美しくも蠱惑的なこのレンズはフレネルレンズと呼ばれ、フランスの技術者オーギュスタン・ジャン・フレネルが1823年に発明発表した画期的なレンズなんですね。詳しくはテレサ・レヴィットの『灯台の光はなぜ遠くまで届くのか』(講談社ブルーバックス)をお読みいただくとして、本書の中で注目したいのは、この巨大なフレネルレンズを回転させるために水銀の浮力を利用してたということです。ご存知のように現在では水銀の毒性は認識されているものの、19世紀当時はまだ水銀の毒性は認識されておらず、またその逆に治療薬として摂取されていました。
現代では長期的に水銀蒸気にさらされると、記憶喪失、精神錯乱、苦悶、躁うつ症状を引き起こすことが知られており、歴史家によると灯台守における狂気、アルコール依存症、うつ病は、この症候群と合致していると指摘されているそうです。
まあ、この考察をしてしまうと作品すべてが説明できてしまうほど元も子もない考察なので頭の片隅にでも置いておいて欲しいのですが、灯台守における狂気、アルコール依存症、うつ病.......まさに映画『ライトハウス』が描いた全てではないでしょうか。
余談ですが木下惠介監督の1957年の映画『喜びも悲しみも幾年月』は灯台守家族の人生を描いた名作ですが、そのなかで灯台守の嫁になってしまって気がふれてしまった女性が登場しますね。
作品についての感想は、灯台=男根のメタファー、父権の抑圧と、父殺し、エディプスコンプレックスとプロメテウスの磔......と意外とあからさまな引用、参照が見受けられ、シネフィルの自慰行為的な映画だと思いました。映画としてはこれらのネタをもう少し上手く含みを持たせてほしかったですね。
ちなみに映画のレファレンスとされる作家ロバート・ルイス・スティーブンソンの父はスコットランドの灯台技師であり、灯台の建設および建設資材、灯機を製造していたことでも有名。江戸条約によって列強から灯台建設を迫られた明治政府が「お雇い外国人」として雇った土木技師R・H・ブラントンは灯台建設についてスティーブンソンに学び、日本の灯台建設の資材、機器類を取り寄せています。
https://www.youtube.com/watch?v=CV2lgOW5Sy0
「ウィッチ」のロバート・エガース監督が、「TENET テネット」のロバート・パティンソンと名優ウィレム・デフォーを主演に迎え、実話をベースに手がけたスリラー。外界と遮断された灯台を舞台に、登場人物はほぼ2人の灯台守だけで、彼らが徐々に狂気と幻想に侵されていく様を美しいモノクロームの映像で描いた。1890年代、ニューイングランドの孤島。4週間にわたり灯台と島の管理をおこなうため、2人の灯台守が島にやってきた。ベテランのトーマス・ウェイクと未経験の若者イーフレイム・ウィンズローは、初日からそりが合わずに衝突を繰り返す。険悪な雰囲気の中、島を襲った嵐により、2人は島に閉じ込められてしまう。
劇場公開日 2021年7月9日
2019年製作/109分/R15+/アメリカ・ブラジル合作
原題:The Lighthouse
配給:トランスフォーマー

いいなと思ったら応援しよう!
