千葉県某所|見知らぬ人との会話の記録
2018年9月。当時千葉で仕事をしていた僕は休日に台風一過の晴れた房総半島を独りでドライブしていた。内房から外房へ。右手に海を眺めながら観光地として浮ついた景色の内房に目を細めながら運転していると、いつしか静けさ漂う外房に近づいていた。しかし陽が傾きあたりが暗くなり始めたので手近な漁村にある旅館に飛び込みで入った。スマホで調べるとどうやら旅館から近くに温泉があるということで夜にとぼとぼと真っ暗な路地を歩いて温泉についた。
以下は当日にFBに投稿した記事である。固有名詞は念のためイニシャルとさせていただいた。
さて、宿泊先のY旅館から歩いて1分のところに「K荘」という民宿の日帰り湯「F温泉」があったのでこれ幸いと入りに。
旅館から真っ暗な夜道をトボトボと歩いてK荘に着き、声をかけると奥からご主人が登場。
お風呂いただけますか?と伺うと
「いま女性が入っているから座って待ってて」と休憩スペースを指差し、「じゃ、待たせてもらいます」と腰掛けるとご主人もポケットからタバコを取り出して僕の目の前に座った。
「どっか泊まってるの?」と聞かれたので「はい、そこのY旅館というところに」と言うと、「Yのところか〜、なんでそこ泊まるかなぁ」
「いやぁ、素泊まりのやすいところ探してたまたま見つけたので」
「あそこでるよ」
「はい?」
「出るよ」
“出るよ”
どう聞いてもDELLではなさそうだ。
「子ども見た?」
「いえ」
「あそこ子どもいないからね」
「はい?」
「ぼーっとしたあんちゃん出て来たろ?」
「はい。無言ででてきました」
「あれ三人兄弟の真ん中なんだけど、親父さんとお袋さん亡くなって、今一人であそこやってんだよ。アニキも亡くして、一番下の弟とは仲悪くてなぁ」
「はあ、そうなんですか…」
「あと、あ、泊まってる人に言うもんじゃないなぁ」
「ええーもう遅いですよ!」
「あ、じゃあ、あれだけど、このF(地名)ってところは心霊スポットばかりでさ、この先の道の合流付近で結構見てる人いるんだよ」
「…はい…」
「あとその先にグループホームがあるんだけど、俺介護士の資格持っててたまに手伝いに行ってたんだけど、夜勤のときに二階をパタパタパタパタパタってはしゃぐ子どもの声と駆け回る足音が聞こえてさあ、あれは気持ち悪かったなぁ」
「えええええ…」
「あそこは戦争のときにアメリカの戦闘機が貨物列車狙って(すぐそばを内房線が走ってる)機関銃撃ってさ、家にいた妊婦と子ども二人が死んでるんだよなぁ。で、その跡地で色々商売始めた人いたけど、みんな長く続かなかったな。で、なんでグループホームなんて造るかなぁ、なあ?」
「いや、僕に聞いたって知りませんよ!」
「で、Yのとこ幾らで泊まったの?」
「4000円です」
「バカだなぁ、ウチなら素泊まり3000円だよ?お風呂もあってさ」
「…次来た時はお世話になります!」
でお風呂から女性が出て来たのでお風呂をいただいてきた。
こちらもまた鄙びた感じで素晴らしいお湯。
帰り際にご主人が
「きょう、よく眠れるといいね」
と言ってニヤニヤしていた。
先日、この時の旅館の近くを通りがかったが、あの幽霊話をしてくれた温泉旅館は廃業していた。
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