北海道ツーリング7日目|2022.7.19
映画『マッドマックス 怒りのデスロード』が白眉なのは、主人公たちの行動がリニアではなく回帰する事である。来た道を「戻る」という行動は得てして「負け」という価値観に支配されがちだ。しかし本作は回帰することで開ける未来を描いている点で素晴らしい。ちなみに『マッドマックス2』のクライマックスでもマックスの運転するタンクローリーはUターンする。来た道を戻るのは勇気ある決断なのだ。
7日目。別海ふれあいキャンプ場で目覚めた朝、空は曇天だった。昨晩、僕は「戻る」事を決意した。
ひとつは朝イチで昨日断念した根室の残された灯台二基をめぐる。ふたつめは礼文島上陸のために再度北上するということ。
しかし天気予報を見る限り今日と明日の雲行きは全道にわたって怪しい。
しかーし。「戻る」ことは未来が開けることでもあるのだ。
再び根室に向かってバイクを走らせた。
雨こそ降ってないが霧が立ち込め、ヘルメットのシールドが濡れる。撥水スプレーをしているが、大きな雨粒ではないので視界に不自由する。
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まずは花咲灯台
寂しさがハンパない。
防波堤のカモメ(白いの)が翼を休めているが、霞の中に消えていく堤防もまたゾクゾクするではないか。
岩礁に打ち付ける波も荒々しい。ちなみにここには花咲車石というサークル状の奇岩があり国の天然記念物に指定されているらしい。らしいというのはどれが車石だかよくわからないのと、寒いので早々に退散したからなのだが。
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次に向かったのが落石岬灯台。車止めから徒歩25分。木道を歩き、草原の果てに落石岬灯台はある。
実は1月にこの灯台を訪れようとも思っていたのだが、これ冬は遭難の危険があるくらい果てにある。
灯台への途中には落石無線電信局跡があり、現在は根室の芸術家のアトリエになっているそうな。
まるで京極夏彦の『魍魎の匣』に出てくる建物のようだ。
また周辺にはシカがたくさんいて、ずっとこっちを見られていて独りぼっちではない。
落石岬灯台は崖上にあり、特になにも柵はないので、その景色は壮観である。
昨日の雨のため草原を歩くと足はびしょ濡れになった。鹿たちに見守れながらトボトボと車止めまで歩いていると突然目の前にキツネが現れた。ほんの5mほどの距離だったがキツネは臆することもなく僕の前をトコトコ歩いて行った。
時折こちらを振り返り、またトコトコと歩いていく。まるで僕がしっかりついてきているのかと確認しているかのようだ。ゲーム『ゴースト・オブ・ツシマ』で祠に導くキツネと同じヤツである。
結局、キツネは僕のバイクまでトコトコと歩いて行った。祠に案内はされなかった。
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さあ、根室の南から一気に稚内まで北上しよう。2日ほどかかるが、ひたすら走ることにする。が、2日もあるので急がずに「楽しそうな道を選べ」をモットーに糠平からタウシュベツ、三国峠を越え、層雲峡経由で名寄あたりでキャンプできれば。というプランだ。
空模様はもちろん曇り。走れど走れど雲ばかり。別海から来た道をまた戻る。昨日から数えて二往復している。昨日はあんなに青空であった道も暗くどんよりとしている。
しかし時折雲が薄く青空が見える。すぐにまた曇り空になるから恨めしい。
ひたすら走り続けていると左の空き地に鳥が二羽いた。大きいサギだなぁと思ったら鶴だった。鶴って冬のイメージだが夏でもいるのね。
バイクを停め、望遠レンズを取り出して静かにカメラ構えて近づく。
もうバッチリ鶴を撮れたので今日はもう大満足である(まだ9:00だけど)。
そうこうして走行しているとGoProが傾いていたので戻そうとしたらまたもげた。
980円の格安のマウントキットはバイクの振動には耐えられない事を知った。
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その後もどんよりとした阿寒道路をワインディング。
パーキングエリアでレンタカーの夫婦から「茨城からきたの?私たちも(ニッコリ)」と声をかけられる。最近めったに旅先で同郷人に話しかけられることは少なくなったので珍しい。
しかし僕は住んでいるところこそ茨城だが、栃木生まれの栃木人なので複雑な心境である。
上士幌に差し掛かりナイタイ高原牧場を思い出す。過去ここで天気の良かった試しがなく、未だ行ったことがない。今回も曇天なのでパスする。初体験はベストコンディションで望みたい。
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糠平湖に向かい、1987年に廃線になった旧国鉄士幌線の鉄橋を眺める。特に鉄でもないのだが。そして北海道ツーリングの定番スポットになっている、ダム湖に沈みたまに姿を現すタウシュベツ川橋梁も撮影。持ってきた3キロもある600mm望遠レンズがようやく火を噴いた。いや火は噴かないが、バッチリとその姿を収めた。しかし展望台からなので観光ガイドと同じような構図になりがちです。
人は観光地に訪れた際、観光ガイドやテレビの旅番組で紹介されたスポットに訪れ、紹介されたの同じ構図の記念写真を撮ろうとする。エッセイストの酒井順子はこれを「確認」と呼んだ。まさに「どうぞどうぞこちらでご覧ください」と指定された展望台で皆スマホで同じ構図で写真を撮るのである。そこに望遠を持ってくるのは僕のささやかな嫌味と抵抗なのである。
と言っておきながら三国峠で写真を撮る。
この構図も「北海道 三国峠」と検索すれば同じ構図の写真がたくさん出てくる。
まあ、撮影ポイントが上の橋からしかないので無理もないのだが、実際に訪れるとこの景色の雄大さに橋の上を運転中に目を奪われるの危ないくらいなのだ。
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層雲峡に入ると、雲行きが「100%雨降らします」というエグい暗さになったのでバイクを停めカッパに着替えてるとポツリと落ちてきた。と思ったら一気にドー!!っと大雨になり、ここで名寄か士別でキャンプというプランは諦め、プランB、つまりホテル泊に切り替えた。雨に打たれながら(と言ってもヘルメットも被っているので体がびしょ濡れにはなっていない。雨のなかスマホのアプリで旭川のホテルを検索する。観光ホテルにはようはない。5000円台のビジホで良いのだ。そして5800円のビジホで空室ありを見つけそのまま予約確定ボタンを押して予約した。こういうアプリは旅では便利である。
上川に入ると雨が止み、青空も見えたが、行き先の方角の雲は怪しい。
カッパそのままで走り続けると旭川に入り、ホテルまで20分の距離でまた土砂降りになる。
実はバイクツーリングの雨は田舎道はそれほど辛くない。1番きついのは都市部の時だ。繰り返される信号のストップ&ゴー、四輪車からは視認されにくくなるので事故のリスクも高い。ましてや旅先の慣れない道である。まさにデスロード。怒ってないけど。
ホテルまでの20分がとても長く感じた。
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ホテルにつき、フロントに行くと先客が受付をしている。係はおじさんがひとり。どうやら領収書を書いているらしいのだが5分待っても受付が進展する気配がない。ようやく領収書が出てきたところでお客さんが「前株がない」と指摘。どうやら恐ろしく段取りのできないフロントらしく、「マージーかーよー」と僕は心の中で呟いた。僕の時も後ろに3人がチェックアウトで並んでいるにもかかわらず「バイクでどの辺回ってんですか?」なんて聞いてくる。「いや、今の状況わかってますか?」と再び心の中で呟いた。結局ホテルに到着してからチェックインが済んだのは20分後である。
僕は寝ることができればどんな設備でも構わないのだが、雨に打たれて精神的にも疲れてるので早く部屋に入りたかったのだ。なかなかに難しいものである。
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もはや今日の楽しみは暴食しかない。
と夜に街に繰り出そうとホテルの外に出たら豪雨。そりゃそうだ。
歩道は雨水が川のように流れている…。
とりあえずズワイガニを1kg。
そしてジンギスカン。
大変満足して店を出たら雨が止んでいた。
明日は再び稚内へ。
予報は曇りだがほとんど信じていない。
本日のルート
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