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利己主義や虚栄心など抽象的で主語が大きいものが敵となっている問題|【ネタバレ】『ワンダーウーマン1984』感想

※この感想はネタバレを含みます

遡ること2016年。
『バットマンvsスーパーマン』を観た僕は「10点満点!」と叫びたくなる衝動に駆られていた。
本作の評価10点中、9点を占めるのは開始2時間4分後からの約10分間に集約される。
そう、ワンダーウーマン登場シーンなのです。
今ではワンダーウーマンのメインテーマとなった♫デンデンデデデンとアガる“Wonder Woman’s Wrath”という曲ですが、元は本作でスーパーマンがバットマンに「君の連れ?(Is she with you?)」と聞いたセリフがタイトルの曲でした。(曲調は変わってます)

この世に現代版ワンダーウーマン様(とガル・ガドット様)がご降臨賜った記念すべきシーンであり、あっという間に『バットマン vsスーパーマン』を観た人の心を鷲掴みしたのでした。

そして2017年に単独作品『ワンダーウーマン』が公開され、女性主人公のヒーロー映画として初の大ヒットを飛ばしたのは記憶に新しく、女性が主人公のヒーロー映画はヒットしないというハリウッドのオッサンたちを蹴散らすエポックメイキングな作品として大役を果たした訳ですね。もちろん製作側にも業界の思い込みを打ち破る心意気があったワケです。

というわけで『ワンダーウーマン1984』です。
前作と比べて男性社会と女性(ワンダーウーマン)という構図は本作では酔っ払いのオヤジをボコるくらいで本筋ではなく、本作では孤独や疎外感、コンプレックス、そして虚飾、虚妄といった個々人の内面にフォーカスが移っている感じです。

オープニングから子供時代のダイアナ(ワンダーウーマン)が大人に混じってSASUKEライクな競技に参加するも(youtubeで公開されてます)ズルをしたことでアンティオペ将軍(ロビン・ライト)に「嘘を重ねては英雄にはなれない」と怒られてしまいます。
ここで「本作の映画はこれがテーマだよ」と教えてくれる親切設計。

そして舞台は1984年、ショッピングモールでの強盗とダイアナのバトルが展開されます。この辺りの演出、カット割りや絵作り(ダイアナが走ってる際の正面のバストショットなど)がかなりオールドスクールで、それこそ昔のヒーローテレビドラマ的な”特撮感”、悪くいえばチープなシーンなんですね。子供を救うダイアナ、子供もダイアナに笑顔でアイコンタクト、懲らしめられる強盗、とかなり楽観的でコミックブック的。監督は前作と同じパティ・ジェンキンスなんですが、これはこれで何か意図がある演出なのだろうとは思いますが、そこで頭に浮かんだのがこの記事の写真。

映画を観ながらワンダーウーマンのコスプレをする女の子の写真を思い出し、ああ、この映画はまずは小さな女の子に向けた映画なんだなと思いました。
 真面目でシリアスに傾きがちで子どもを置き去りにしていたDCエクステンデッドユニバース(DCEU)ですが、近年『シャザム!』や『アクアマン』といった“子供の”鑑賞に耐えうるDC作品の中に本作も含まれていると言えます。
といってもこの演出が意図したものとして、成功しているとは思えないけど。

 映画は前作で愛したトレバーを失い喪失感と孤独感が(70年経ってるものの)癒えぬダイアナと、勉強一筋で誰からも好かれず社交的ではないことにコンプレックスを抱いているバーバラ(クリステン・ウィグ)、自称石油王マックス・ロード(ペドロ・パスカル)の3人を軸に物語は進むのですが、どんな願い事でも叶う石を見つけてしまったのでさあ大変、なんせ世界に散らばった7つを集めなくてもいいし、願いは一人一つとはいえ人数は無制限の大放出。ダイアナの元にトレバーが復活するわバーバラはダイアナみたいになりたいと願ったものだから皆から好かれてイケてるスーパーパワー持ちの女性になっちゃうし、マックス・ロードは自称石油王から本物の石油王になっちゃったりして、しかも世界中の人々の願いを聞いてあげちゃうから大混乱になり、時はレーガン政権というホットな米ソ冷戦下、お互いが戦争おっ始めちゃう寸前まで行っちゃいます。

 唯一この混乱を解決するには叶った願いを取り下げること。
しかしトレバーが復活してダイアナは浮かれ、バーバラは闇堕ちしてチーターになっちゃう訳です。
それにしても、それまでコンプレックスの塊であったバーバラは“持てる者”ダイアナに憧れたわけで、せっかく願いが叶ったそんなバーバラに対してダイアナが「願いを取り下げなさい」と言ったところで「そりゃアナタ様にはバーバラの気持ちは分かりますまい」と思っちゃうくらいにはバーバラ寄りになってましたよ僕は。
とはいえ映画『ジャスティス・リーグ』に登場した時の聖母のような円熟したヒーローになる前であるダイアナもまた精神的な弱さがまだ残っており、トレバーと再び別れることによって得る“力”と“成長”のシークエンスはかなりエモい。

 またマックス・ロードという砂上の楼閣に住むキャラは最早お約束と言ってもいいトランプというリアルトリックスターを連想せずにはいられないのですが、元々コミックスのマックス・ロードが実業家時代のトランプがモデルになっていたということで、まあトランプとレーガンという二人を描くための舞台として1984年だったのか?と思わなくもないですが、正直1984年である理由がイマイチ理解できなかったです。
 それにしても今回のヴィランとしてのマックス・ロードの描き方で露呈したのはワンダーウーマンにとっての敵がヴィランではなく、前作なら男性社会であり、本作では利己主義や虚栄心などといった抽象的で主語が大きいものが敵となっている点が問題ですね。ここをヴィランにうまくまとめることができればよかったのに・・・と思わずにはいられません。

『ワンダーウーマン1984』はツッコミどころが満載で、鑑賞前に自分のフィクションラインを高めに設定してしまうと「いやいやそれでエジプト行っちゃうのは無理あるでしょ!しかも戻ってくるの早!」とか映画の無理矢理展開を看過できなくなり鑑賞どころでなくなってしまいますので、ある程度の忖度が必要になってくる作品ではあります。まあ、『マン・オブ・スティール』や『バットマンvsスーパーマン』の世界観の構築がそのフィクションラインの狭間で苦悩していたわけですが。
 とはいえ、映画はクライマックスまでにかなり大きい風呂敷を広げてしまい、もう夢オチくらいしか風呂敷畳む方法ないんじゃないか?と心配になってしまうのですが、案の定結構雑な畳み方をしてしまい変なシワが残って今後のDCエクステンデッドユニバースに支障をきたさなければよいなぁと要らぬ心配をしてしまいました。

 思っていたほどアクションシーンは少なめでカタルシスを得ることはできず、前作と比べて映画としての満足度には疑問符が付く作品でしたが、争いよりも諭すことで諸問題を一挙解決してしまうワンダーウーマンの慈愛を鼻で笑うような世の中にはなって欲しくないなとぼくはおもいました(小学生並みのまとめ)。

鑑賞日:2020年12月23日

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DCコミックスが生んだ女性ヒーロー、ワンダーウーマンの誕生と活躍を描き、全世界で大ヒットを記録したアクションエンタテインメント「ワンダーウーマン」の続編。スミソニアン博物館で働く考古学者のダイアナには、幼い頃から厳しい戦闘訓練を受け、ヒーロー界最強とも言われるスーパーパワーを秘めた戦士ワンダーウーマンという、もうひとつの顔があった。1984年、人々の欲望をかなえると声高にうたう実業家マックスの巨大な陰謀と、正体不明の敵チーターの出現により、最強といわれるワンダーウーマンが絶体絶命の危機に陥る。前作でもメガホンをとったパティ・ジェンキンス監督のもと、主人公ダイアナ=ワンダーウーマンを演じるガル・ギャドットが続投し、前作でダイアナと惹かれあった、クリス・パイン演じるスティーブも再び登場する。

劇場公開日 2020年12月18日
2020年製作/151分/G/アメリカ
原題:Wonder Woman 1984
配給:ワーナー・ブラザース映画


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