猫に会うなら日暮れ時
私の住む地域の漁港には猫がいる。
ネズミに対する用心棒として住み着く事を許されている野良猫たちだ。
サクラ猫としての処置を受けて人馴れして寄ってくる者もいれば、あっしは生粋の野良猫でござんすと一定の間合いから近づかない猫もいる。
猫が好きだが家では飼えない私は、この港猫を見にしばしば漁港付近に散歩に出かける。
主に日暮れ時の薄暗い時間に散歩に出かけると港猫に出会える確率が高い。
猫と言えば夜行性の動物のイメージがあるけれど、実際は薄明薄暮性の動物で早朝や夕暮れに活発に行動する。
これは狩りをする際に獲物となる動物に合わせている為で、朝方は鳥たち夕方はネズミたちが活発に行動しだす時間と重なるからと言う理由らしい。
港猫もこの時間帯に則って動いている様だ。
当然ではあるが、雨や風の強い日冷え込む日等は全く遭遇できない。
さて港へと続く海岸線には防潮堤があり、そこを歩いて行くと運が良ければ会える。
複数匹いる港猫の中にはごろごろと喉を鳴らしながらすり寄ってくる猫もいる。
もしその猫に出会えれば幸運で、双方満足するまでなでる事ができる。
しかし野良猫と遭遇するのはとても難しく、日暮れ時の漁港から見つけ出すのも大変だ。
私は自分がなでる人間である事を猫にアピールする方法を考えた。
犬笛を使って猫へとアピールする方法。
猫は犬よりも聴覚に優れる動物で犬が聴こえる周波数の音は猫も聴く事ができる。
今までなでられ猫に出会えた時は、犬笛を吹きその後でなでまわす事を何度も続けた。
そんな事を何度も繰り返すうちに、その猫と遭遇する場所で犬笛を吹くと自分から姿を現わす様になってきた。
ある程度まで近付いて来たらこちらの様子を伺いながら座る。
私が更に合図としてチチチと舌打ちをすると猫は足元に絡みついてくる。
こうしてなんとかアピールをして認識してもらう事に成功したのだった。
もちろん港に居る猫だが縄張りはそこだけではないので、常に出会える訳ではない。けれど暗い中で探し周るよりはとても楽だ。
この様に港猫とコミュニケーションを取る事に成功した中で、残念な事が一つ。
薄暗い中で猫をなでていると人間の視覚の限界で、一体どんな模様のどんな顔の猫なのかがわからない。
僅かな光を効率よく伝えて視認しているなでられ猫とは違い、私はなでられ猫がどの様な猫なのか未だに知る術が無いのである。