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雄猫の話 の巻

野良猫が活発に活動する時間帯は日暮れ時、野良猫たちは薄明薄暮性の動物なのである。
私が港に散歩をする時間帯は茶白の雌猫とその仔猫が三匹、三毛の雌猫、三毛のさくら猫、キジトラの雄と出会う事が出来る。
茶白一家と三毛の雌猫は同じ時間の同じ場所に居ることが多い。
三毛猫は仔猫たちの行動を見守る様子があり、また茶白とアログルーミングをしているのでもしかしたら血縁関係が有るのかもしれない。

三毛のさくら猫は茶白一家が活動している時間よりも遅い時間にやってくる。
野良猫の縄張りが重複している場合、活動する時間帯をずらして他の猫と出会わない様にする。無駄な争いを避けるの猫の習性である。
猫のマーキングは例えるなら、自分の名刺を縄張りに貼りつけて回る行為で、
「この辺りを縄張りにしておりますA猫と申します。〇〇社に5年勤務しており年収は〇〇万円です。何日の何時にこちらを巡回いたしましたので、どうぞよろしくお願いいたします。」
といった具合にどんな猫か、血統、年齢、強さ、活動時間などがわかるらしい。
猫たちはマーキングを読み取って他の猫と出会わない工夫をしている、なんて平和な生き物なのだろう。
実際に鉢合わせになってしまった場合、本来なら相手に気が付かないフリをしてやりすごす。
目を合わせる=戦意有り、となってしまうので絶対にお互いを見ないで気が付いてませんアピールをするのが、猫流なのです。
話は戻り、さくら猫も時間をずらす努力をしているが、いかんせん仔猫が相手では上手くいかない。
他の猫に出会うと興味津々で近づいていくから、さくら猫が気づかぬフリをしても何の意味もなく、声を出してこれ以上近づいてくるなと威嚇の声を上げるしか方法はありません。
人に撫でられるのが大好きなさくら猫ですが、仔猫が近づくと撫でられながら威嚇の声を上げ、しかし仔猫が応じない場合は自分のほうが離れて行ってしまう。
無駄な争いは避けるのが猫流、とは言え、懐っこいさくら猫をずっと撫でていたい私としては少々残念な事ではあります。
猫を無駄に追回さないの信条で、また寄って来てくれるのをじっと待つしかないのでした。

そして、いよいよ雄猫の話

まるまる大きな体の雄猫

出会う猫の中で唯一の雄猫であるキジトラ猫。他の猫と比べて身体がとても大きい。そして顔がものすごく大きい。
はじめて会った時は知らなかったが、雄猫は顔が横に大きくなる特徴がある。
生物の世界では見た目が大きい=強いとなる事が多い。
猫が横向きで背を丸めて毛を逆立てる、所謂「やんのかステップ」の体勢も自分の身体を大きく見せる手法の一つ。
大きい顔を見せる事で自分の強さアピールになる。
実戦でも暑い皮膚や大きな頬の肉によって、他の猫の攻撃が致命傷にならない様に防ぐ効果もある様だ。

そんな知識もない頃に出会った。
薄暗い防潮堤の上を音もなく現れ、近すぎず遠すぎない距離でじっと座っている。
目的は餌なのだろうが、こちらはそんなものを持っていない。
取り敢えずこちらも動かずじっとしていた。十分程経ったらすっといなくなってしまった。
この時は雌猫が出産前(体が大きかったから)に危険を承知で餌を貰いに来たと考えていました。
その後も同じ時間帯に防潮堤に居ると度々の猫は現れ、十分程じっと座ってこちらを見ては去って行く。
この謎の行動をする猫、縄張りに近づく不審者を監視していたのかもしれません。
この体験が面白かったので、その後度々散歩に出かける様になり、他の猫と出会う事が出来た。印象深い雄猫である。

そんな彼も今では、薄暗い中を音もたてずにやってきた猫とは思えない程、愛のささやき声をあげながら雌猫たちを追いかけまわしている。

気になるのが、仔猫たちが全然この雄猫を怖がらずに近づいて行きお尻の匂いを嗅いでいたりする。
雄猫の方も特に気にする様子もなく普通に接している。
もしかすると、お父上なのかしら?と睨んでおります。


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