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会員様寄稿【連続小説】『スナッククリミア』(5)ルシファーズ・ハンマー

【登場人物】

宇久成浩(宇蘭組組長): 先代の父の影響で露熊組との結びつきを強く持っていたが、今は亜墨陽三の支援を受ける。米鷹組の鉄砲玉。

小泉幸太(大和組舎弟): 米鷹組のパシリ。


【第五章 ルシファーズ・ハンマー】



「いてて…亜墨の野郎、思い切り蹴り入れやがって…」

チュンセは痛みをこらえながらスナッククリミアに向かおうと歩いていた。
その時、男から声をかけられる。

「どげんしたんじゃ、その傷は。」

振り向くと、宇久成浩組長が立っていた。

「いや、ちょっと…大したことないけえ、大丈夫です。」

「そうか、そがいなもんじゃったらええんじゃが。ちょうどええ、話があってのう。飯でも食いに行こうや。」

宇久組長の提案に、チュンセは寿司屋か焼肉屋を想像した。
しかし、連れて行かれたのは意外にも宇久組長のアパートだった。


「乾杯!」

グラスを合わせ、ビールを一気に飲み干す二人。
宇久組長の妻が、少し申し訳なさそうに微笑んだ。

「ごめんね、こんなんしか用意できんのじゃけど…」

少し見た目は派手だが、優しそうな奥さんだ。


「こっちこそすんません、急に押しかけてしもうて。」

座卓の上には、心尽くしの家庭料理が並んでいた。

「大事なトモダチを呼んだんじゃけえ、広島一安うて旨い店にしたんじゃ。」

トモダチと言えば大和組の人間はイチコロだというのは広島ではよく知られている。

宇久は、ビール瓶を手にチュンセのグラスに注いでくれる。 

チュンセは心の中で
「元お笑い芸人じゃけぇ、演技に気ぃつけろと姉ちゃん言うとったけど…宇久の兄貴、ええ人じゃんか。」

酒はビールから焼酎に変わった。すっかりいい気分になって、手酌で一升瓶からグラスに焼酎を注ぐ。


「ほいじゃあ露熊組、カタギのもんにまで…」

「ほうじゃ、やつら女や子どもでも容赦ないんじゃ。」

チュンセは言葉を失った。


宇久の妻がご飯茶碗をお盆に載せて運んできた。

「はい、蛸飯。」

炊き立てのご飯から潮と生姜の香りが漂い、食欲をそそる。


「仁義もクソもあったもんではないですのぉ。」

「アホ、仁義なんかあるかい。まあ、米鷹組に比べりゃ、露熊組なんざ可愛いもんじゃ。」

「えぇ?」

「露熊組は、周りから悪人じゃ言われて悪さしとるんじゃけえ、まあわかりやすいわい。米鷹組は正義面して悪さしよる。己は正しいと思い込んでしもうとるけえ、まー始末に追えんわい。」

宇久の妻が顔をしかめてみせる。
「あんま気にせんで。酔うといつもこの調子じゃけえ。」

チュンセは苦笑してうなずき、ようやく蛸飯に箸をつけた。

「美味いですわ!」

「おかわりしんさいや。」
チュンセが蛸飯を掻き込む姿を見て、宇久の妻は嬉しそうに目を細めた。


その後、宇久が少し恥ずかしそうに切り出した。

「恥を忍んで頼みがあるんじゃ。なんとか資金援助を頼めんもんやろか。
ワシら、トモダチじゃないの。
みんな抗争でシマの者まで腹空かせとるんじゃ。」


宇蘭組は米鷹組から受け取った武器を横流しし、その利益で宇久組長は別荘を購入したりしている。
しかし、そんなことは知らないチュンセは真剣に答えた。

「わかりました!ワシがマグロ漁船に乗って援助しますけえ。心配せんといてください。」

煮物の味見をしていた宇久の妻は「必勝」と書かれたしゃもじを手に、そっとふたりを見て、ニンマリと笑う。

テレビから「ルシファーズハンマー」が流れてくる。

蛸飯をおかわりし、笑顔で掻き込むチュンセであった。

続く…


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