光の戦士たち(23)サンクコスト【小説】
夕暮れのカフェ。窓際の席で、祭あつしはコーヒーカップを手に取りながら、目の前で悩ましげな表情を浮かべる武田徳太郎をじっと見つめていた。
「武ちゃん、最近元気ないじゃないか。」
祭が静かに声をかけると、武田は少し俯きながら重い口を開いた。
「祭さん、オーストリア学派の理論にのめり込んで、ずっとそれを信じてやってきた。でも、最近になって蒼さんや祭さんの話を聞いて、自分の考えが偏ってたことに気づいたんだ。」
「だけどさ、今さら全部間違ってたって認めるのが怖いんだよ。これまで時間をかけて勉強してきたことが、全部無駄だったってことになるんじゃないかって…。」
武田の声は徐々に弱まり、目には後悔の色が浮かんでいた。
「それは辛いよな。」祭は同情するように言いながら、軽くため息をついた。
「でも、そうやって自分を見つめ直せるのは、立派なことだよ。」
それ以上の言葉が見つからず、祭は視線を落とした。
その時、カフェのドアが開き、風谷蒼が現れた。彼女はテーブルに向かいながら、明るい笑顔を浮かべて言った。
「なんだか深刻そうね。何かあったの?」
祭が簡単に武田の悩みを説明すると、蒼は少しだけ考え込み、それから微笑んだ。
「なるほどね。武ちゃん、それは『サンクコスト』の話に似てるわね。」
「サンクコスト?」武田が首をかしげた。
「そう。サンクコストっていうのは、もう取り戻せない過去の投資のことよ。例えば、政府が何かの事業に大きなお金をつぎ込んだとするわね。でも、その事業が失敗だと分かっても、なぜかやめられない。『ここまでお金を使ったんだから、続けないと無駄になる』なんて言い訳をしてね。」
武田は思わず笑みを漏らした。「ああ、それ分かるな。やめればいいのに、税金がどんどん無駄になっていく…。」
「その通りよ。」蒼は笑顔を浮かべながら続けた。「武ちゃんも同じよ。過去にオーストリア学派を学んできた時間や労力はもう戻らない。でも、それを理由に今後の考え方を縛られる必要はないの。」
祭も口を開いた。「それなら、自分も似た経験があるな。面白くない映画でも最後まで観ちゃう。ほんとは時間の無駄だから観るのをやめればいいんだけど、お金を払ってるから帰れないんだよな。」
武田は祭の話に思わず苦笑した。
「それ、めっちゃ分かる。僕もそうなる(笑)。」
蒼は軽く頷きながら、付け加えた。「それと同じなのよ。お金や時間を費やした過去に縛られるんじゃなくて、今何をするべきかを考えるのが大切なの。」
武田は真剣な表情で頷いた。「つまり、過去を引きずるんじゃなくて、これからどうするかに集中すればいいってことか。」
蒼は軽く頷いた後、付け加えた。「それに、オーストリア学派だって良い部分はたくさんあるわ。例えば、計画経済は上手くいかない、という視点は現代経済学でも否定できないわよね。」
祭も「そうだよ、武ちゃん。だから教育無償化とか給食費無償化は税負担化でうまくいかないって批判できたのは、その知識のおかげじゃないか。」
武田は少し驚いたような顔をし、祭と蒼を交互に見た。
「でも、それって…僕がまだ以前の考えに引っ張られてるからなんじゃないか?」
蒼は首を振り、優しく答えた。「違うわ。学んだことを活かして、現実を見て判断しているの。それが本来あるべき姿よ。むしろ、過去の知識を使って新しい視点を取り入れられるのが、本当の学びの意味じゃないかしら。」
祭はコーヒーを一口飲みながら、笑みを浮かべた。「蒼さんの言う通りだよ、武ちゃん。俺たちも一緒に考えるからさ。」
武田が「よし、気を取り直して減税活動頑張るぞ!」と言うと、
皆で「そうだよ、頑張ろー!」と言って笑い合った。
減税を勝ち取るために、光の戦士たちの戦いに終わりはない。