傍若無人のこと

傍若無人、傍らに人がいないかの若(ごと)く振る舞うこと。

15歳のある日まで、この「若」をごとし、ではなく、若者のことだと、何となく思っていた。若者はワガママで勝手だから、と。その頃、私は若者で、かつワガママなのは大人だと思っていたので、マチガった言葉だと思った。

15歳の冬、ちょっとした事件が学校であり、その対応で、教師が生徒を教室に閉じ込め、ひどく粗暴な振る舞いで威圧した。私はその事件にはまるで無関係かつ無関心だったが、ただ教師の振る舞いにおいてのみ気に食わず、腹も減っていたのでつい食ってかかった。結果、そのまま視聴覚室へ連行されたのだった。親へ連絡がいったが、わが両親の返答は「そんなバカバカしい内容でいちいち引き取りになど行けるか。家には一人で帰らせろ」というものだった。両親は共働きで、とても忙しかった。サッサと帰宅して、私は意見書を執筆した。その巻頭言に「傍『老』無人」と充てた。登校すると、教室へは行かず、職員室へ直行し、お茶を飲んでいたスキンヘッドの副校長にその手紙を渡した。副校長は手紙にサッと目を通し、こう言った。

「アンタねえ。傍若無人、の若、はねえ。ごとしという意味で、若いとか老いとかとは関係ないのよ」

はあ、そうなんですかー。と納得してしまって、なんか気勢が削がれた。その後特に、何か呼び出しとかあった覚えもなく、お咎めもなく、その件は消滅してしまった。私はひとつ知識を得た。それが確か、12月10日のことであった。そんな些細なことだけを、何故かいくつか憶えている。

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