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飛び交い様に乗りきるように

精一杯咲き誇っていた花たちを
ドライフラワーにしようと
濁った水に浸る茎の柔らかさを感じながら
自然にできる眉間のシワを直せずにいた午後。
逆さになった真っ赤な花はどんな色になるんだろうっと頭を埋める
気持ち通りの句澄んだ赤より程遠い暗さでは気分が沈むかもと
考えたそばから、もう気分は明るくなかった

ずっと出来ていなかったお皿洗いをしようと
何を流そうかと携帯を触る
せっかくだからスピーカーに繋いで優雅にね

ラインの通知に気を取られ、重なる食器の前に立ち尽くす

「ねぇ、明日会える?面白い事が浮かんで、話したいから」

微睡む夜を一緒に追いかけた日以来の連絡だった。
同時に、頭の上にはてなマークが浮かんだ。

あした?
面白い話?
すべらない話的な?
ってか突然どうした、面白い話でつろうってか。
この程度の引っ掛かりで、自分は会いに行くべきなのか
え、また相手の家で会うのか?
何時から会うんだろう。
次の日の予定はどうやって組めばいいかな、、、
「面白い話、ききにきたよ~!」
と、好きなお酒たらふく買い込んで聞きに行くのか。
どんなテンションで行ったら正解なのか。

「私」の
予定や考えなどを通り越した相手からの連絡に、
素直に喜べずにいた。
私でなく自分がどうしたいか。彼はいつだってそうだ。

−−−

いつ会ってもマニキュアをしてる。
しかもいつも取れかけ。
今回は黒なんだ、この間は緑だったっけ?
天パなのか、美容院でかけているのか程良いパーマ姿。
ずっと使ってる革の財布と
いつ酔いが覚めるのかと思う、毎度の通常のテンション。
みな彼を「優しいけど、変わってるよね」という。

「医療系ってなあに?もしかしてナースなの?ねえ、ナースってやっぱり彼氏に言われたらナース服着てみせるの?いいな〜」

初めて会った時に言われた、忘れもしない第一声。
キンキンのレモンサワーが美味しい、スカッと暑く、汚い居酒屋だった。

目をキラキラさせながら、まっすぐこちらを見て聞くので
期待通りの答えを浮かばせがら

「いや、事務なのでナース服じゃないです..すみません」

と私は謝っておいた。
相手は見るからに「なぁんだ」という表情をした後、

「まっ乾杯しようか!いつも自分、お疲れ様〜!偉いぞ〜!」

と、肩をバシバシ叩かれた。
いつだって笑顔で声を出して笑う、繊細とは程遠い人物だった。

それから、連絡先を交換して何かあると連絡するようになっていた。

「今日買ったサクランボ、真っ赤で可愛いよ〜(添付)」
「初めてキーマカレー作ったけどどう!(添付)」
「部屋の掃除したら昔の写真出てきた(添付)」
「お土産にどっかのボトルビールもらったんだけど、飲まない?(添付)」

返事はいつも早かった。

こちらもいつものように返事をして、桃色のような夕焼けに心奪われてる頃
今日は家で飲もうと連絡がきた。

一度家に帰って、作ってあったナポリタンをタッパーに詰め
オススメしようと思ってた小説と、借りてたのとをカバンへ。

ふと鏡に映る自分を見る。

何故だか分からないけど、着てた服を着替えて
何色がいいかな〜なんて、考える事などせず、さささとセットアップの下着に履き替えた。
べ、別に 何もないならそれでいいし、べ、別に何もないんだけどね。

力強く閉めたドアの音に体が反応する。
桃色は遠いどこかへ消えていた。

−−−

どうしてこうなったんだろう?
私は彼の問いに答えていたかな?
どんな表情をして見ていたのかな。
こうなると思っていたのかな。
頬を支える仕草で、今日のマニキュアの色が見えた。
それしかもう覚えていない。

私は相手の何を知っていたんだろう。
交友関係、
聴く音楽、
兄弟はいるのかな、
好きなもの先に食べるか後に食べるか、
何歳で自転車に乗れるようになったのか、
いつマニキュア塗ってるの?
彼女はいたの?
誰か好きな人はいたの?
どうして?

不確かな事があまりにも多すぎて、自分の存在を振り返る怖さを経験した。

どこにたどり着いたら言ってくれるの。
私だけ、置き去りなの?


知ってる?
私そんなに、やわじゃないよ。

面白いやつ、聞こうじゃないの。

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