⏰たった一人の宿泊客
23歳の冬、北海道・支笏湖畔で一人バスを降りた。
空港に近いことと『不凍湖』であることに惹かれて来たのだ。
ところがなんと、宿舎の客は私一人。迎えたのも一人。
物静かな奥さんは淡々と手続きを進めた。人見知りな私は挨拶がやっとだった。
夕食は長いテーブルに一膳。小さな鍋もあり美味しかった。
奥さんが「今の時期は氷涛まつりの後で観光客が少ない」と教えてくれたが、話はそれほど弾まなかった。
夜は暖炉のある大広間で過ごした。気を遣ったのか、奥さんが来てしばらく居てくれた。静かで暖かな時間だった。
翌朝お礼を言って宿を発ち、雪の積もる湖畔を歩いた。
厳寒にもめったに凍らない湖。湖面には薄く霧がわく。人とはたまにしかすれ違わない。
普通なら寂しいと感じるだろうか。だけど私はあの静寂が好きだった。歳を重ねるとそんな経験もできなくなってくる。
支笏湖で癒しを得た後、私は友人と会う札幌へ向かうべく、再びバスに乗った。
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※支笏湖の写真は『足成』さんからお借りしました。