追惜の30首
過去のnote、結社誌などから、父(2017年9月没)に関連するものを集めました。(途中までは口語です)
1. 傾けたベッドで日々の無為を詠むにわか歌人の父の生き甲斐
2. 大丈夫?ではなく摘んだ花の名を父に聞くのが見舞いの言葉
3.「切り花はかわいそうだ」と説く父に贈る根のないエアプランツを
4. にわか雨のような病と疑りもせず手を振ったターミナル前
5. 父さんかワシの自称が転院の日のメールからおれに変わった
6. 毎朝をすごした浜の風遠く父は個室に海苔をあつめる
7. 無理押してロビーに呼ぶも祖父を見ず液晶に目をやる孫娘
8. 風船は当てるわベッドには乗るわ孫の奇襲にたまらん患者
9. 食い物はいらんテレビや本も駄目ペンと紙だけくれと言う父
10 疼痛を手帳に秘する人の前わたしはリュックに持病をしまう
11. 兄姉の見舞いに感涙うたう父 伯母の歌には「泣けばいいのに」
12. バンキングの話だけして「もう時間」急かす患者を庭から見舞う
13. デイルームのすすき画像を自賛する父のピントは右の団子に
14.「もじもえもうまくなったねありがとう」臥しても祖父は定型メール
15. 残量が赤のひとにも余力あって眠る幼子撮り大笑い
16 .「存分に飯が食えた」と父語る あれは退院前の錯覚
17. 入梅のビルを降りたい雲の歌どこぞの人が未完成のまま
18. 花立てに一輪残し捨てる朝ひとりでも咲く緑の小菊
19. 園芸のエも知らずして継ぐ庭は河津桜が咲き競うのみ
20.「冬の内はベゴニア中に入れること」父の言いつけ手帳で気づく
21. 父の知る花の数だけ積み上げて園芸雑誌を資源に返す
22. 枯れるのは嫌と一年活けっぱなし遺影の前のフェイクフラワー
23. 引き継ぎし父のスマホもリペア不可チャージ不能の診断を受く
24. 蘭は枯れ小バラも咲かぬ父の庭南天のみが植えし日のまま
25. 御影石の三つの椅子に座ったね今日は二人でなき人と居る
26. 蘇るいつかの父の子守唄 ゆりかごならぬカコ太郎の唄
27. 「コロラドの月」聞きたがる長男の目にもう父が棲みついており
28. ハンバーグのコツ聞けないままでした父さん何が隠し味だっけ
29. お祖父ちゃんお手製ケースのピアニカ吹けばあちらの雲まで響く
30. わずか五首わずか百五十五音の歌遺しし父もわが師匠なり
<出典:塔(2018.06~2019.06/2021.04~05) 投稿 など>
※家庭的背景はプロフィールや↓に少し書きました。
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