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日常をシネマにするピアノの音

市川準監督作品『トニー滝谷』がめちゃくちゃよかった〜!ナレーションが訥々とトニー滝谷の半生を語り、映像とリンクして登場人物にナレーションが移り変わるの、カッコよすぎ。わたしの人生にも採用したい。洋服を着るために生まれてきた宮沢りえが美しすぎる。生まれてからの時間経過とともに彼を形作るエピソードもさらさらと流れていく無常さ。そして印象的なピアノの音色!素晴らしい!

ギターとピアノ、楽器の中で単体でも音楽を奏でることができるのはこの二つだけ!というのは、色んなところで誰かが教えてくれる話だけど、映画とピアノって相性がとてもいい、てことを改めて感じた。ある人はピアノが奏でる音楽を単調でつまらないと言って、ギターの深い音色をほめていたけど、『トニー滝谷』には絶対ピアノだ。ポーンとひとつひとつが独立してまっすぐ音階を打ち出して、それが規則的に、それでも確実に胸に響く音色を奏でる。無機質なものを描き、孤独を生きて孤独に怯えて、愛を見つめる、トニー滝谷にぴったりの音。ひとりきりであることを強く意識しながら深呼吸する瞬間に聞きたいのは、ギターじゃなくピアノだと思う。

市川準監督作品、3本みたなかではトニー滝谷が好みだったけど、ほか2本も面白かった。リアルな会話がすごい。お芝居って、町にいる人をそのままうつし出すように演じるんじゃなく、演技であることがある程度わかるような、わかりやすいものが大半だけど、カメラを隠されたら、カフェで隣に座っていても違和感ないようなテンションと解像度の会話だった。

小さい映画館で映画見て、帰りに横切った坂道の隙間から富士山を綺麗に見られることに気づいたり、どのご飯を食べるか街を歩いたり、川沿いで人懐こい犬を連続で触らせてもらったり、ドラマの撮影場所を探したり、乗り換え駅がこないだライブを観にきたところだと気づいて、その時食べられなかったたい焼きを食べられたり、イルミネーションを見に行って、六本木にもぜんぜん気取ってないイオンみたいなやつあるんだな、と思ったりした。それまでは楽しいお休みの日で、最寄りの駅から帰る時に、トニー滝谷のサウンドトラック聴いたら、夜道が切ないような気がした。たまに、またそういう気持ちになりたいなと思った。

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