引っ越しの思い出
春はなんだか落ち着きません。なんか薄ら寒い雨が降ったりするし、卒業や転勤はあるし・・・・・。
28年前の春、私は育児休業明けと同時に転勤の辞令を受けました。
新しい町に引っ越して、初めての職場に行って、生まれて初めて子どもを保育園に預け、久しぶりの仕事に復帰するというわけです。
かなり過酷。仕事バリバリ人間でもなかった私は「大丈夫かなあ・・・」と不安でいっぱいでした。
見つけた家は、時期も悪く、時間もなかったので今ひとつ。スレート葺きというのでしょうか?とにかく雨が降ると、屋根をうつ雨音でテレビの音が聞こえない。そんなうちでした。
でも、ま、とにかく荷物を運び入れ、荷ほどきをし・・・。
お手伝いの皆さんが帰ったあと、さあ、ご近所にご挨拶まわりに行こうかと。
こんな家族でーすと、わかってもらえるように、ムスメをだっこし、オットと3人で出かけました。
3月も末、春とはいえ、冷え込んだ夕暮れ、夕闇に木蓮の花が白く浮かんでいたのを覚えています。
両隣と、お向かい2軒を順番に訪ねた、最後のお宅でのこと。
チャイムを鳴らしたら、朗らかな声の奥さんが出てきてくれました。
そうしたら、この奥さんが、「ちょっと待っていてくださいね」とご家族全員を呼び寄せてくれたのです。
やさしそうなお顔のご主人は50代後半でしょうか。
笑顔のかわいいお嬢さんは20代。奥さんが、簡単な家族紹介をしてくれました。
奥に、介護の必要なおばあちゃまがいらっしゃるとのこと。
予想もしなかった温かな対応に、不安でキュッとしていた心がほどけていくようでした。
そのあとそこには1年と少ししかいませんでしたが、そのお宅の皆さんには本当にやさしくしていただきました。
バタバタと帰宅した頃合いを見て、ムスメを預かりに来てくれたり・・・。
「ちょっと一息ついてから、夕ご飯の支度をしたら」という配慮からでした。
日曜日の朝など、家族で買い出しに行くのにムスメも連れて行ってくれました。オットは休日出勤が多く、私はパワフルでもなさそうというので、ムスメを連れ出してくれたわけです。
風邪など引いて、保育園にやれないとき預かっていただいたこともありました。
本当にどれだけ助かったか。
そこを引っ越したあと、今の地に越してきて27年たちますが、その間に何度か引っ越しのご挨拶を受けることがありました。
その際にはわが家も必ず、家族全員で玄関に出て、自己紹介するようにしてきました。めんどくさがりやのオットも、あの時の恩が胸にあるので、これにはいやがらずに参加していました。
今の地でも、ありがたいことにムスメをかわいがってくれる方々に恵まれました。
人生、案外、捨てたもんじゃない。
でも、受けた恩、返しきれていないなあ。
↑写真はお向かいのご主人に遊んでもらっているムスメ(1歳)