スコープとなる『市場規模』を3つの観点でとらえる!?TAM・SAM・SOMについて
よくマーケティングや新規事業を計画する際など「TAM・SAM・SOM」という言葉を用いることがあります。
将来の「市場規模」をどのように推測するかや、ターゲットとなる市場規模を計る為によく用いられます。
実際に自分で手を動かして調べたり推察したりするとよく理解できますが、「市場」を知ることが自社の新規サービス・プロダクトの可能性を広げるアイデアにつながります。
新規事業の経営戦略において「市場が小さすぎる」と短絡的に判断するのではなく、その先の拡張可能性を含めて意思決定するためのツールとして重宝すべきフレームワークです。
TAM・SAM・SOMとは?
今回の経営戦略シリーズで扱うフレームワークは、新規事業領域への事業検討でよく使われる「TAM・SAM・SOM(タム・サム・ソム)」です。
新規事業の種類にもよりますが、意思決定者が「未知の市場」の市場性を把握・理解をするのは簡単ではありません。特にスタートアップでは「ニッチな市場」からユーザーを取り込み、徐々にサービス範囲を拡大していく戦略を取るのが一般的で、狙う市場規模に応じて投資額も変わります。
小さく限定されたユーザーへのサービス提供で小さな失敗を重ねた後に、どのような“大きな市場”を狙うのか。これを意思決定者に伝えなければなりません。
このようなときに、市場の全体像を誰にでも分かりやすく整理するのが「TAM・SAM・SOM」という考え方です。このフレームワークでは、「いかに市場を俯瞰できているか」「いかに市場を絞ってスタートするか」をきちんと思考することに価値や重要性があります。
TAM(Total Addressable Market)
日本語に訳すと「獲得できる(実現可能性のある)全体の市場規模」です。一般的に統計で使われる「市場規模」になってきます。
SAM(Serviceable Available Market)
SAMは、TAMの中の「サービスを提供し得る最大の市場規模」のことです。その市場の中で、どこをターゲットにサービスを提供していくかを絞ったものとなります。
SOM(Serviceable Obtainable Market)
SOMは、SAMの中の実際にそのサービスが「アプローチできる顧客の市場規模」のことです。「Share of Market」と呼ばれることもあり、すでに市場を獲得している場合は現時点のシェアをSOMとすることもあります。
TAM・SAM・SOMの目的
TAM・SAM・SOMの目的は、新規事業においてあたらしい市場に投資する際、どれだけのリターンが期待できるのかを想定することです。
スタートアップ企業が投資家に事業説明を行う際は、この3つをセットにして「市場の魅力」を説明するのが一般的です。
投資を行う際は、当然ながら大きなリターンが得られるかどうかを判断材料にします。もちろん市場規模が大きいことは魅力の一つですが、単に市場が大きいだけでは大きなリターンを得られるとは限りません。そのようなときに、提供可能な(Serviceable Available)範囲を限定することで「市場性」をイメージしやすくなります。ただし、その市場で100%のシェアを取れる訳ではないので、その中で自社がアプローチをできる範囲をさらに絞り込む訳です。
上記のように3つの視点から「市場規模」を推定します。
実はこれらのどれが欠けても新規事業の計画には説得力がなくなってしまうため、通常の事業計画の中で大なり小なり使われている方法です。3つの市場規模を一つにまとめて伝えることで理解を促すツールと考えるとよいでしょう。
TAMにはトップダウン、SAM・SOMにはボトムアップ
市場規模の算出は、調査機関でもない私たちが計算できる訳ではありません。推定値にしかならないとはいえ、なるべく根拠を持って算出するようにしてください。推定の方法には、「トップダウン」と「ボトムアップ」があります。
トップダウン
市場全体から広く見ていく方法です。一般的に工業統計や調査機関などが算出した産業調査データ、いわゆる「市場規模」にあたります。
TAMの推計には、トップダウン方式がよく使われます。TAMをダイレクトに表す統計がない場合に「○○市場の30%」といった推計で算出するのもトップダウン方式です。個々の顧客に分解せず、調査結果の合計から市場規模を見積もる方法と言えます。
ボトムアップ
限定された顧客セグメントを積み上げた数字で市場を推計する方法です。SAMやSOMは、この方法で推計するのがよいとされています。
「どのようなユーザー」が「何人くらいいるのか」が具体化させることが市場規模の信憑性を高めるからです。そのサービスや製品のペルソナを考えることに極めて近いとも言えます。
新規事業のサービスやプロダクトを検証する
概念を説明されても分かり難いので、本コラム「経営戦略シリーズ」で例示してきたマラソンシューズ業界でTAM・SAM・SOMを算出してみましょう。
まず、新規事業の市場を考えるにあたってサービスとプロダクトを設定します。ここでは「シューズにセンサーをつけてデータを収集するサービス」とします。
TAM
「獲得できる(実現可能性のある)全体の市場規模」を考えましょう。
ランニングシューズの開発者がイメージしているセンサー付きシューズですから、全体市場は「スポーツシューズ」と考えられます。
スポーツシューズ国内市場規模(2019年): 約4,300億円
※参考:スポーツシューズ市場に関する調査(2020年)株式会社矢野経済研究所
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2496
しかし、スポーツだけでなく日々の歩行や室内の運動にまでサービスを広げる可能性を考慮すると、
「靴」の市場規模(2018年): 1億3680億円
※参考:履物産業を巡る最近の動向(2020年)経済産業省製造産業局生活製品課
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/seikatsuseihin/hikaku/downloadfiles/footwear2020.pdf
も加算してTAMを考えるべきでしょう。
これはどちらが正解という訳ではなく、そのサービスのビジョンによります。
SAM
続いて、「サービスを提供し得る最大の市場規模」を考えます。
まずは統計から推計する「トップダウン」方式です。TAMに設定した「スポーツシューズ」はさまざまなスポーツが対象になりますが、その中でデータを収集して解析するものとして
ジョギングシューズの市場規模(2019年): 830億円
ウォーキングシューズの市場規模(2019年): 340億円
※参考:スポーツシューズ市場に関する調査(2020年)株式会社矢野経済研究所
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2496
をSAMとします(合計1,170憶円)。
積み上げて推計する「ボトムアップ」方式も試してみましょう。
ジョギング人口は約950万人、ウォーキング人口は3,400万人(2018年)
※参考:ジョギングランニング/ウォーキング実施率の推移(2018年) 笹川スポーツ財団
・https://www.ssf.or.jp/thinktank/sports_life/data/jogrun_9818.html
・https://www.ssf.or.jp/thinktank/sports_life/data/walking_9608.html
と推計されます。3〜4年に1回、1足1万円以下のシューズを購入すると仮定すると、市場規模は約1,100億円。「トップダウン」方式と「ボトムアップ」方式、いずれも同じくらいの規模となったので、確かな数字と言えるでしょう。
SOM
最後に「実際にそのサービスがアプローチできる顧客の市場規模」を考えましょう。
実際にセンサーをつけて走ってくれる選手、それに影響を受けて購入してくれる初期の顧客などのセグメントを想定します。
国内の陸上競技人口(2018年): 約42万人
※参考:中央競技団体現況調査・調査報告書(2018年度)笹川スポーツ財団
https://www.ssf.or.jp/Portals/0/resources/research/report/pdf/NF2018_report44_full.pdf
のうち上位10%のアスリート(約4.2万人)と、ジョギング人口の上位10%(約95万人)の合計約100万人を対象に、年間1万円程度の課金サービスを立ち上げると、約100億円の市場規模が見込まれます。
TAM:4,300億円、SAM:1,100億円、SOM:100億円と試算できました。
このスライドは、空き家シェアリングサービス「Airbnb(エアビーアンドビー)」のベンチャー時代のプレゼンテーションの一部です。
TAM: 世界中の宿泊市場規模(予約による宿泊)
SAM: 格安ホテルかつオンライン予約の市場規模
SOM: Airbnbの市場シェア
SAMを見ると、「格安ホテル」を「オンライン予約」で利用しているユーザーをターゲットとしていることが分かります。プレゼンテーションから「このサービスが普及すると、巨大な宿泊予約市場をひっくり返すくらいの成長が見込める」と投資家に思わせた訳です。
5. 実現可能性と夢を測る指標
TAM・SAM・SOMは定義だけ見れば簡単に算出できそうな気がしますが、自社の新規サービスやプロダクトに応じて数値は変わってくるため、算出は意外に難しいと言えます。「どのくらい実現可能なプランなのか(SOM・SAM)」「どのくらい夢のある事業なのか(TAM)」を測る指標として、投資家やベンチャー経営者が利用していることを覚えておきましょう。
新規事業を推進していくにあたり絶対に把握しておくべき「市場規模」。
うまく伝えたいときにはぜひ活用してみてください!!