『聴くことから始まるダンス』遊行編vol.11 即興ダンスフィールドワークLOG :
遊行者たち バージョン:
同行者
納屋納屋(なやなや)
山下残(やました ざん)
フィールドワーク同行者、募集しています。
年齢性別ダンス経験不問。
問い合わせなど kakioproject@gmail.com
43.「くまのこ、みていた、かくれんぼ」
出典:TV番組『まんが日本昔ばなし』エンディングテーマ曲1984~1994
作詞/山口あかり 作曲/小林亜星
(補足:ルートPaとルートMが合流し、ルートPaMに。
そこから分岐した、
ルートPaMc(エステサロンclear経由→)
ルートPaMv(神戸ビーナスブリッジ経由→)。
未だ、訪れるタイミングを待っている、
ルートPb(→茨木市、The Farm Universalへ)、
ルート PaMn(→ニューヨークへ)、
ルートPaMm(→東京、三鷹へ)。
それぞれ、こんな風に名づけた。
人間は、なぜ名づけるのか?
それは、忘れたくないからである。
ルートPaMv/
11/24日 遊行者三人、神戸へ。
以前訪れた、神戸相楽園、神戸ビーナスブリッジのルートの続きとして、その帰り道に見つけた、山本通り公園へ向かう。
これはルートPaMvである。
前に来た時、あれはまだ夏だった。
私は、JR神戸元町駅の西口で遊行者達を待った。
程なく、二人は、別々に、静かに、来た。
元町駅西口は、改札を出ると、すぐにコンビニに面していたり、
高架を支えるコンクリの支柱、横には大きな壁面、があったりして、
東口に比べなぜか圧倒的に、狭く暗い。
そんな場所で出会った我々は、しかしとにかく明るい方へ、広く明るい東口へ、わざわざ西で待ち合わせたのに、東へ、
東口の改札を出てすぐにあるカフェへ、向かった。
世界的にみても、遊行者は、基本的にあまり喋らないものである。
当然、我々も、珈琲を飲む、その合間にぽつりぽつりと差し込むように言葉を発する程度で、それぞれはそれぞれに、今日のこれからの歩きに向けて、静かに心と体を整える。
余程、整ったのだろう、一人の遊行者は、まだ午前中というのにパスタを食べだした。
ピンクのようなオレンジのような、ほんのり赤いソースのパスタであった。
山手の方へ、坂を登る。
神戸は、北は山、南は海。
京都では忍(しのぶ)と呼ばれ、神戸では渚(なぎさ)と名乗った。
こんな歌もある。神戸は、天然の良港である。
多分二十人くらいの人とすれ違い、ジグザグと坂を登って、
山本通り公園に着いた。
坂と住宅の間に隠れるようにある公園。
元は大きな邸宅であったようで、公園の土地の形は少し角ばって独特。
この夏、冷たい石の地面の一角を裸足で踊って以来ここが好きである。
公園にある、ピンクとブルーの鉄のジャングルジム。
ここにバスケットボールを持った少年が二人いた。
ニックネーム、特になしくんと、ハンバーグ炒飯大王くんである。
威圧感などを与えないよう、細心の注意を払いながら話しかけようと思ったのだが、例えばビジネスの商談などで使われる具体的な交渉技術などとして、相手と正対せず、横向きに、低い位置などに座るといったものがあるが、ハンバーグ炒飯大王は、私の背より高いジャングルジムの上で、気だるく座り、こちらを見下ろしているし、名前なんでもいいくんは、平地に立っていて、また違う角度から、小学生のピュアで鋭い視線で、私を見上げている。
現実は複雑で、技術は、いつも限定的である。
それでも、二人ともちょっと興味を持ってくれたようで、私は踊った。
ダンスを観て彼らがつけてくれたタイトルは、
名前なんでもいいくんは「伝統芸」、ハンバーグ炒飯大王くんは「サンバ」であった。
女性は、ホットヨガの帰りだった。
小学生二人が公園をあとにし、帰ってから、
我々は、私のダンスの何が伝統芸を、どうしてサンバを、想起させたのか?などと議論したり、(私は公園の中程にあった、一メーターほどの高さの岩の上で、さらに、誰かが忘れてそのままそこにおいてあった、サーモンピンクの上着を高く掲げながら、踊ったのだが、
ある遊行者は、その少し見上げてダンス観るような状況や、その様が、小学生の彼らにリオのカーニバルを想起させたのではないか、と弁舌した。)
しばらく、それぞれ思い思いに何かを聴いたりしつつ、
そのまま公園で、何かを待っていた。
そんな中、南、海側の入り口から公園に入ってくる、一人の女性。
ニックネーム、アコさんである。
アコさんに、ダンスを観て浮かぶ記憶や言葉を伺う。
彼女が踊りを観て浮かんだ言葉は、
飛沫(しぶき)、湖、優しい飛沫が海、波に。手で石を繊細に触るときなど、一瞬、山も浮かぶのだが、でもなぜか海に戻る、波がだんだん大きくなり、海のうねりになる。である。
「ホットヨガした帰りだから、海に戻るのかな(笑)」と。
つけていただいたこの時の即興ダンスのタイトルは、「波、風」。
少し喜んでもらえたような時間になったのが、嬉しかった。
突然声をかけられ、踊りを急に観ることになったのに、彼女は、すごく自然でオープンで、堂々としていた。カッコ良かったし、すごい人だと思った。
アコさんに、この辺のおすすめの場所、好きな場所を尋ねる。
色々考えてくれ、示してくれたのは、
「北野異人クラブ パートII 」であった。
パートⅡ?なんですかそれは?どんな場所なのですか?、パートⅡ?
そこは以前アコさんが勤めていた場所ということで、もう店舗などは変わってしまったが幾つかの事務所などが入っている、中庭などもある建物、
であるらしい。
面白そうなところを、ありがとうございます、これから向かいます!と、
お礼を言って、公園を後にした。
なんでこんな所に?という場所に、猫、がいる時がある。
遊行者の一人が指差した先は、公園から見下ろす更地、
全面にブルーシートが敷かれ、その上には、風で飛ばないようにそうしているのだろう、重しのための茶色いレンガが、
どう?なんとなく等間隔になってるでしょ?、と、いうふうに、なんとなく並んで置かれていた。
この更地がどうしたのだ、指差すこの遊行者は何を言いたいのだと一瞬思ったが、よく見ると、やや適当に並ぶレンガに紛れて、レンガと同じような色の、茶色の猫が寝転んでいた。
ワタシがここに居らへんと、おハナシにならんでしょ、でも、こっちも忙しんやからね、勘弁してや、ほんまに。
と、猫は、そんな風情であったが、
きっとあそこが、ただ心地良いだけなのだと思う。
北野異人クラブ パートII 。地図で見ると、そんなに遠くない場所である。
されど、やはりパートⅡ、面白そうな名前だけのことはあった、
ここに辿り着くのがこれほど困難だとは、
この時の我々には、知る由が無かったのである。
44.「おしりをだしたこ、一等賞」
出典:TV番組『まんが日本昔ばなし』エンディングテーマ曲1984~1994
作詞/山口あかり 作曲/小林亜星
ルートPaMv/
パートⅡ、があるからにはパートⅠがあるだろう。
そして北野異人クラブはパートⅢまであったのである。
公園を出て、我々は、神戸の山側の指折りの観光地である、
北野(きたの)と呼ばれる方面へ向かう。近畿地方で育った方などは、学校の社会見学などの催しでここに来たことがあるという人も多いと思う。
北野町は、異人館と呼ばれる、神戸港開港後にやってきた外国人達の旧宅、美術館、博物館、ホテル、などが立ち並ぶ地域で、さらにヨーロッパ中東アジアなどの、色んな国の飲食店や食材店、また、キリスト教会、イスラム礼拝所、ヒンズー寺院なども所在する。
そんなに広い地域という訳ではないが、まさに異国情緒を感じる街並みである。向かうほど歩くほどに、観光客も多くなってきた、外国の方も多い。
北野異人クラブ、パートⅢは、北野に向かう途中、
歩いてすぐの道沿いにあった。
おしゃれなビルの、その半地下にはおしゃれな美容院があって、
道から見下ろし覗くことができる。
この4メートルほど下方の半地下の空間には、
大理石だろうか、つやつやの黒い石材で囲った四角い池があって、
池中では、体長20センチほどの朱色で小型の鯉が、10匹位うねうねと泳いでいた。
綺麗ね、しかしここⅢだよね、Ⅱはどこかな?
パートⅡも、この近くかと、うろつくが見つからない。
昔、空港で、僧侶の衣服である黄色い袈裟を着て、もちろん剃髪の、
タイの若いお坊さんの団体に会った。彼らは床にへたり込み、みんな、スマホをいじっていたので、そのことに少し驚いたが、今は、遊行者達もスマホを持っている、私のスマホは訳あって地図アプリを使うことは叶わないのだが、今日は同行者がいるので心強い、スマホのマップに従ってⅡへ向かう。
のだが、なんとも、辿り着けない、
私は私のできることを、というわけで、道ゆく地元の方だと思われる人に、声をかけパートⅡの場所を尋ねる、
そういったアナログなアプローチも打つのだが、
ここだという場所に辿り着けない。あっちかこっちかと右往左往し探す我々にとって、
Ⅱは、まるで夢であった。霞、鰻であった。
掴んだと思ったら、すり抜ける。
そもそも存在するの?とそんな迷いも生まれ、翻弄された。
試行錯誤、これは体力の問題である。
もうここだ、ここでいい、この工事中の建物と庭、住所的にも、
ほとんどここやろ、もうここでいい、と、工事中で入れないし、パートⅡだと決定づけるような確かなものも何もないし、なんとなくちょっと違うかも、とそんな気持ちも残したまま、
にぎやかな通りの、脇の小径にある工事中の建物の、バリケードの前を、
パートⅡ(があったと思われる場所)として、
とにかく、立ち止まった。
そんな、観光地でもなんでもない、ここ(推定パートⅡ)を、
しばらく聴いた。
この人たち、なぜ、なんでもないこんな場所に、いるの?
と、通り過ぎる多くの観光客の方の不思議を、我々はさらった。
ダンスメモ:
しばらく、聴くことも踊ることも忘れ、
無我夢中であった。
ゴール、目的、それは素晴らしいし、また恐ろしい。
45.「にんげんって、いいな」
出典:TV番組『まんが日本昔ばなし』エンディングテーマ曲1984~1994
作詞/山口あかり 作曲/小林亜星
ルートPaMv/
どうにも煮え切らないような気持ちで、しばらく、ここ(推定パートⅡ)にいたのだが、同行すべきは遊行者である。
遊行者の一人が、閉ざしているこの工事中の、ここ(推定パートⅡ)、
この中に、少し入れるかもしれない、そんな場所を見つけた、と、どこからか戻ってきた。
さすがだなあと、我々は、彼の先導でそこに向かった。
その場所は、ここ(推定パートⅡ)のすぐ裏手にある建物だった。
そこは、壁面がレンガでできた洋風建築であり、
いくつかの店舗が入っていて、中庭もある建物だった。
パートⅡって、ここだよ!アコさんに、聞いた条件通りだ、きっとここだ。
と、遊行者達は、ようやっと、喜び合い、中庭にある階段を転がって落ちる、そんなことなどをしていた。
通路や階段が入り組んでいる、面白い建物で、どこからともなくやって来た小学生くらいの姉妹も、建物内を駆け、遊びまわっている。
階段を転がり落ちる私たちを見て、姉妹はケラケラ笑って、楽しそうにかぶりつきで見物してたので、
君も階段転がってみる?と呼びかけたが、
「死んでまうわっ!」、
と、言い放って、きゃっきゃっ笑ってどこかに去った。
さあ、これからどうしようかと、私、このビルの管理人と思われる、
ゴミ置き場などを片付けておられた男性に、
ここって、北野異人クラブパートⅡですよね?と、
まあまあ絶対ここやけど、一応確認しましょかあ、みたいな態度で、
指も2本立てて、ピースサインのようにして、尋ねたら、
ここちゃうで、と言われびっくりして、え、Ⅱですよ、Ⅱ。
と、さらにピースピースとアピールしたが、パートⅡはこの通りの向こうの下側や、と言われ愕然として、急いで遊行者達に伝達して、集まって、その言われた場所へ、また向かった。
しかししかし、言われた場所、そこも、結局Ⅱではない、何でもないような場所や建物があるばかりで、なんやねん、どうしたらええねん、と半ばキレ、ガラも悪く心も暗くなり、さっきの管理人は偽物なんじゃないかと思っているそんな時、
またもや、遊行者の一人が、すぐそこに、北野異人クラブ パートⅠ、
があることを発見した。
おおっ!パートⅠ!けど、Ⅱやないんかい、Ⅱはどこや、いやしかし待てよ、パートⅠのビルに入っている店舗の人に聞いたら、Ⅱの場所が確実にわかるかも。
だってこの、ⅠとⅡは、きっと兄弟みたいなものだから。
知らないはずがない。
これは王手を決める前の手、Ⅱに繋がる重大な発見かもしれない、
これはすごいぞと、パートⅠの建物の一階にあった、
ペット用品を扱うドッグショップに私は訪ね入った。
なんでこんなに親切なのだ、とこちらが訝(いぶか)しくなるくらい、
お店の方は親切な方で、呪文のようにパートⅡ、パートⅡと繰り返す私に、地図やらスマホやら、思い出やらをひっぱり出して、示したり探したりしてくれて、
おまけに、地元の方なのだろう、犬を連れ来店中のお客である女性も、途中から会話に参加してきてくれて、
「Ⅱだけは、謎やわあ。」
と、なんか不安になるコメントとかもしてもらった。
この辺やと思うけど、そうやそこにある交番で聞いたら?
そしたら完璧やわ。と結果そういうことになり、お礼を言って外に出て、
交番に向かう。本当に感じが良い親切な方だった。
予定など全くないが、犬、飼ったらこの店来る。
しかし、こうも辿り着けないとなると、Ⅱには何か重大な秘密があって、
街ぐるみで隠したいんじゃないか、神戸北野のアンタッチャブルな部分なんじゃないか、とか、そんな妄想を広げる前に、すぐに交番についた。
交番は、北野地区らしくなんとなく洋風で古く趣があり、扉は、押し扉であった。
一瞬、喫茶店に入るような気持ちになったが、本物の交番である。
駐在していた年配のお巡りさんと一緒に地図を見て、
彼がここやねえと指差す所、あー、やはり、そこですか、
ここらへん散々通ったんですけど、Ⅱ、ないんですよ、
と心の中で訴えたが、ここなんだろう、
とにかく警察署で揉めるのは良くない、
とにかく信じて、最後にもう一回行ってみよう、と行った先は、
ちょっと前にいて途方に暮れた場所、ここ(推定パートⅡ)だった。
ここって、
やっぱり、ここ(推定パートⅡ)やないかいっ!。
46.「ぼくも、帰ろう」
出典:TV番組『まんが日本昔ばなし』エンディングテーマ曲1984年~1994
作詞/山口あかり 作曲/小林亜星
ルートPaMv/
ここ、ここ(推定パートⅡ)やないか!と、私、
いわゆる、つっこむような勢いで、バリーケードの方へ、
そんな時、目に飛び込んで来たのは女性二人。
ここ(推定パートⅡ)の、植え込みの段差に座っていたのは、
インド系の女性二人組だった。
突っ込むような勢いから、ハロー、と自分でびっくりするくらい自然に一転、いつの間にか挨拶して、彼女達に話しかけていた。
この、イングランド出身の二人に、私が今何をしているのかを説明して、
踊りを見てもらうことになった、しかし、
時間があまりないからテンセカンドで踊れ、と彼女達は言う。
テンセカンドって10秒?!、彼女らが無茶振りして、くすくす面白がっているのが少しわかったから、
こちらも、10秒?!おっけい、ええですよええですよ、
ポーズ、オンリィでいきましょか、1ポーズ、2ポーズ、そんなふうにいけますよ、おっけい、じゃあ、でもプリーズ、カウントダウンしてください、
大きな声だしてね、カウントダウン、プリーズね、
行きますよ、セーのっ!テン!ナイン!、と、掛け声と共に、
大体10ポーズ、激しく10秒踊った。
ニックネーム、ジョンさんが付けてくれたタイトルは、
「クイックとフレキシブル」、スーザンさんは「Bーboy style」と。
この辺で、どこが気に入った場所ありましたか?と、
おすすめの場所を聞くと、
彼女達は港、メリケンパークを勧めてくれた。
47.「でんでん、でんぐりがえって、ばいばいばい」
出典:TV番組『まんが日本昔ばなし』エンディングテーマ曲1984~1994
作詞/山口あかり 作曲/小林亜星
ルートPaMv/
山から海へ、南へ南へ、歩く。
メリケンパークは港である。
船着場、広場、海洋博物館、レストラン、ホテルなどがあり広い。
神戸のシンボルとして有名な、ポートタワーという展望タワーもある。
夕方近くになり、冷え込んできて少し雨も降ったりした。
今日のメリケンパークは、小さなミニチュア機関車にまたがって広場をまわる、ミニチュア機関車祭り、のような催しをしていたようで、だだっ広い敷地には大量のミニ線路が敷かれていた。
我々が着いた頃、ちょうど催しは終わったようで、
もう片付けが始まりだしていたが、
規模の大きなものだったようで、様々な種類のミニ車両や沢山の車掌さん多くの見物客が、まだ、ざわざわと残っていた。
それでも、そのうち、そろそろ、
皆がそれぞれの夕方に向けて、いそいそと行き交い始める。
そんな中で、我々は、疲れと寒さもあり呆然と、しばらくはただ立っていたのだが、私は無性に船に乗りたくなった。
隣接する船着場で、遊覧船の時刻表を見てみると、
15:45発の便がある。今15:30。丁度いい時間である。
今日は、最後に船に乗って、フィールドワークを締める。
それが、なんだか正しいような気がして、
遊行者三人は、遊覧船、ロイヤルプリンセス号に乗船した。
遊覧時間40分である。
我々の船旅は、なんとも素晴らしかった。
正しかった、と思ったし、虹も出た。
船中、遊行者の一人は言った、「海は全てに繋がっている」。
船に乗り、海に出たこのルートPaMvは、
海に出て全てに繋がったということで、ここに大団円とする。
(ルートPaMv、終了。)
vol.12へ続く→
「遊行者たちの記憶」
2024.11/24 同行
納屋納屋(なやなや)
24日に想起した記憶のようなもの、について書いてみます。
まず歩き始めたときから、フィクションの空気を感じていました。
繁華街と坂がいっしょにあるつくりはどこか騙し絵めいているように見えました。
坂を登っていく、大きな道路と信号と横断歩道があるし飲み屋もあるからまだ繁華街らしい、でも見上げると山がある、ふりかえると急な下り坂がある。登っていくとだんだん住宅地らしくなってくる。
途中で侵入した更地は、入ってみると浮いているような、べつの時空間に入り込んだような、透明になったような感じがしました。
「隙間」ということを思いました。
それこそ中上健次が書いた「路地」が『地の果て 至上の時』では消えていく様子が書かれる、その段階を駅から歩く流れに感じました。
公園に向かう途中にある小さな道も、どれも印象的な隙間/路地でした。
公園のつくりは、すぐに前田司郎「濡れた太陽」に出てくる、福島県の高校生たちがたむろしている公園を思い出しました。
急に開けた感じ、坂の途中にあるつくり、住宅地の中にある立地、あとは子供たちがいたことからの連想かもしれません。
遊具に登って見渡した感触は、ドラえもんの何かの話で、学校の裏山にある大きな木にジャイアンとスネ夫が登って「海が見えるぞー」とか言って下にいるのび太を羨ましがらせていた場面を思い出しました。
海は見えないけど地面にいるときには気づけなかった公園全体のつくり、まわりの住宅地との関係。
視点を変えることで全体像が見えてくる楽しさは伊能忠敬を、そして地図を描くというロマンを想起しました。
また公園のわきに「〜〜邸跡地」という石碑を見つけたイメージから、この公園がかつて家だったことや、その間取りを思いました。
垣尾さんが踊られた辺りは庭の一部で、あの岩場は池があった名残りに思えたり、実際に岩に穴が空いていたことから水のイメージが湧きました。
さらに連想を広げると、ぼくの妻の実家に庭があって岩場でつくられた池に昔は鯉も泳いでいたということですが、誰かが池に落ちたことから水は全部抜かれて今ではただの岩場になっているというエピソードも思い出しました。
そこから異人街に向かってからは、とくに異人館クラブパート3と、なくなってしまった北野ガーデンのつくりからですが、『ルパン三世 カリオストロの城』の最初に出てくる廃墟と、最後に水の中から出てくる城を思い出していました。
最後のクルーズは大団円的に感じ、何かを想起するという感じはあまりありませんでしたが、こうして書いてみて、水のイメージ、それから朽ちていくようなイメージは最初から一貫してあったように思い、あの豪華なようで寂しげなクルーズ船は偶然と必然の重なったあの1日にふさわしい終わり方ができたなあと思いました。
山下残(やました ざん)
公園に二台のジャングルジムがあって、その間に雲梯(うんてい)がありました。あれは物心つくかつかないかの小さいころ、ぶら下がりながら端から端まで行く運動を家の前の公園で父親から何故こんな簡単なことができないのかと無理矢理に練習させられていた記憶があります。
記憶とは違うのですが、垣尾君が踊る前に見物者に場を感じて踊りますと強調して伝えていたのが印象的でした。場を感じる踊りというのは、形として誰にもイメージは出来ないから、見物者からするとかなり怪しく感じられるのではないかなと思います。僕とか他の振付家とかからすると、ワークショップや創作の現場で場(空間)を感じてというのは、ダンサーにアドバイスするうえでは超基本的なことで、ダンサーが場(空間)を感じてと振付家や講師から言われて、どのように動くかは、正解はないにせよ、ある程度のサンプルは浮かびます。垣尾君の動きは、そのどのサンプルにも当てはまらず、通常のダンサーが場を感じて踊る動き方と違う動き方をします。絶対ホームランもヒットも打てないだろうというような弱弱しい構えをした野球の強打者、初めてギターを持つような弾き方をするギターの達人、そんな感じです。場の方から仕掛けて来る身体の「はまり方」をします。
動きについて更に、視点というか期待の逸らし方が秀でていると感じました。見ている側から腕に意識が行くと、急に足が動いたり、回転の動きを感じてると、いつのまにか垂直になったりです。僕は自ずと見物者の反対側から、つまり垣尾君の背後にいましたが、あれだけ厚手の上着を着ながら背中の表現力があるのもすごいなと思いました。
インド人の見物者に踊った10秒の踊りもハードコアでかっこよかったです。Napalm Death の You Sufferは短すぎますが、僕が高校生の時によく聴いていた Nuclear Assault の Hang the Pope (約40秒)を思い出しました。