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耳毛の問題

DNAは、精緻な設計図だ。

その設計図に従って、われわれの細胞は日々新たに複製されている。

そのはずなのだが、実際はうまくいっていない。

常に正確な複製であれば、われわれは永遠に若いはずであろう。

年をとると、複製ミスが目立ってくる。

おい、おい。そこに、そんなもん作っちゃ、ダメだろう。

設計図にあったもんだから・・あれ、見間違いか。すんません、親方。

もう、タカちゃんには困ったもんだ。疲れたからメシにするか。

みたいな工事現場の風景が増えてくる。

その結果、耳から毛が生えてくる。


お客さん、耳の毛も剃っておきますね。

と理髪店で言われたのは、50代の半ばだったろうか。

え? 耳に毛?

と聞き返した。それまで気づかなかったのだ。

工事の狂いだ! と思った。

耳からボウボウと毛を生やした老人が、昔はいたものだ。

ああいう風になるのか、とゾッとした。

子供の頃、耳から毛が出ている友達がいて、「やーい、耳毛」と囃し立てた。

その報いだろうか。

私も耳毛ジジイになってしまった。


耳毛は、ご承知のとおり、自分では取りにくい。

手で触って、切るようにはしているが、目で確認できない部分である場合、不安が残る。

そこで、理髪店の顔剃りのとき、ちょっと恥ずかしいが、

すみません、耳もお願いします。

と言う。

ああ、耳の毛ね。

とか言われると、ちょっと傷つく。

なかには慈悲深い理髪師もいて、こちらが言う前に、

耳の毛も切っときました。

と、ソッと言ってくれる。

だいたい初老のご同輩である。


今朝、鏡の前でヒゲを剃っていると、アゴからずっと下、ほとんど喉仏近くに毛が生えているを発見した。

おいおい、場所が違いすぎる。ひどい手抜き工事だ。

この調子では、今度どこに毛を生やされるか、わかったものではない。

見える部分ならまだ処理できるが、そうでない場合、こちらが気づかずに人に見られる機会が増えてきそうだ。

もう少し真剣にやってくれ、と現場に文句を言いたい。

すいやせんね、と頭を掻く親方の顔が目に浮かぶ。

この現場とともに老いていくしかない、と思うと、心底情けない。









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