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トランプにトドメ? 映画「アプレンティス」公開へ

ドナルド・トランプとロイ・コーンの親密な関係を描く映画が公開される。

若き日のドナルド・トランプと悪名高い弁護士ロイ・コーンの師弟関係を描くアリ・アッバシ監督×セバスチャン・スタン主演作『THE APPRENTICE』が大統領選前の10/11に北米公開決定。公開中止を求めるトランプ陣営の圧力を跳ね除けたようで良かった。ポスターも凄い。
(ISO 2024/8/31 7:59)


「アプレンティス」非公式予告編
(ファンメイド 英語)


ロイ・コーンは、冷戦時代の代表的な反共主義者。

マンハッタンの連邦地方検察局時代、核物理学者のローゼンバーグ夫妻をスパイ容疑で死刑にした若き検事として有名になった(死刑判決1951年、死刑執行1953年)。判決時、コーンはまだ24歳。

その後、ジョセフ・マッカーシーの右腕となって赤狩りの急先鋒として活躍する。

徴兵逃れの嫌疑で検事失脚後は、ニューヨークの弁護士に転身し、ドナルド・トランプやマフィアのボス、ジョン・ゴッティらを顧客に持って、大成功した。

同性愛者で、1986年、エイズで59歳で死ぬ。

*なお、ローゼンバーグ事件は冤罪とされ、ジャン・ポール・サルトルら世界の知識人が判決を批判したが、冷戦後に流出したソ連側の資料で、ローゼンバーグ夫妻のスパイ行為は裏付けられている。ロイ・コーンは生涯、ローゼンバーグの死刑判決を誇りにしたという。


今度の映画は、若き日のトランプがコーンから権謀術数を学ぶような話らしい。

「アプレンティス(徒弟)」は、もちろん「You're fired!」のセリフでトランプを有名にしたリアリティ・ショーの名前を掛けている。

今年のカンヌ映画祭で公開されたあと、トランプの弁護士から訴訟の脅しを受けて一般公開が危ぶまれていた。

トランプとコーンの関係は以前から有名で、とくに目新しい素材はなさそうだが、映画の出来がよいらしく、ヒットしそうだ。トランプの最初の妻イヴァナとの離婚のゴタゴタも描かれているらしい。(日本でも公開予定)

映画「アプレンティス」で、ロイ・コーン役のジェレミー・ストロング(左)と、ドナルド・トランプ役のセバスチャン・スタン


ロイ・コーンは、映画やドキュメンタリーでたくさん取り上げられてきた。

アル・パチーノがコーンを演じたテレビ映画の「エンジェルズ・イン・アメリカ」(2003)が有名だが、ジェームズ・ウッズがコーンを演じた「虚偽 シチズン・コーン」(1992)も忘れ難い。

ジェームズ・ウッズが、現在熱烈なトランプ支持者であることを考えると、皮肉である。
(ウッズはXで、毎日のようにトランプ支持のポストをしているが、今度の映画についての言及はまだないようだ)


「虚偽 シチズン・コーン」は、日本ではビデオだけで発売されたと思う。

わたしは、約25年前にそれをTSUTAYAで借りて見て、レビューを書いた。

でも、どこにも発表されず、埋もれておった。

この機会に、そのレビューがやっと公開できるのでうれしい。

以下が、その没レビューです。



虚偽 シチズン・コーン(Citizen Cohn, 1992)

 1990年代に入っても赤狩りを描いた映画はいくつかつくられた。副島隆彦は『アメリカの秘密』でロバート・デニーロ主演の「真実の瞬間 Guilty By Suspicion」(1991)を挙げているが、私は、この映画はあまりに駄作だと思う。テレビ映画だが、この「シチズン・コーン」のほうがはるかにいい。
 ここに描かれる弁護士ロイ・コーン Roy M. Cohnは、弱冠25歳でマッカーシーの右腕(主席顧問)となり、赤狩りの急先鋒として悪名をとどろかせた人物。マッカーシーは悪役としても凡庸だったと現在では思われていると思うが、コーンのほうは、その剃刀のように切れる頭と冷酷非情なパーソナリティーでアメリカ人に強い印象を残したようだ。たとえば最近の「Xファイル」でも、コーンはアメリカ戦後史のなかの不気味な黒幕の一人として登場していた。
 ユダヤ人で同性愛者。マッカーシーの死後も一弁護士として生き延びたが、その後半生はまさに「狩る者が狩られる」事例の典型で、最後は弁護士資格を剥奪されるなど社会的に追い詰められている。1986年にエイズで死去。
 これは明らかに赤狩りの被害者たちの立場から(そしておそらくユダヤ人の資本によって)つくられた映画で、彼らの怨念の深さをよく示し、この「ユダヤ人を裏切ったユダヤ人」の一生を、いかにも憎々しげに描いていく(実際に赤狩りの犠牲となって映画界から一時追放された女優リー・グラントなども出演している)。
 同じ民主党員でありながら敵対しあうロバート・ケネディやFBI長官フーヴァーとの関係、陸軍と衝突してマッカーシーが失脚する次第など、赤狩り前後の裏面史を見事な脚本で面白く見せてくれる。弁護士役が得意なジェームズ・ウッズがここでも熱演、「政治的人間」の悪魔的側面、その強烈なエゴイズムを表現し、見応えがある。
 この作品の監督フランク・ピアソンは、むしろ社会派の名脚本家として知られる。代表作は「狼たちの午後」「推定無罪」だろう。
(1999年執筆)

「シチズン・コーン」予告編(英語)


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