ビリー・ジョエルとジョン・アダムズ アメリカ「団塊世代」の音楽家たち
74歳、ビリー・ジョエルの「最後の」来日公演(1月24日)が大成功で、大きな話題になっていた。
全世界でCD、レコード総売り上げ1億6000万枚以上を誇る米歌手のビリー・ジョエルが24日、東京ドームで一夜限りのライブ「ONE NIGHT ONLY IN JAPAN」を開催した。来日公演は、2008年の同所でのライブ以来、16年ぶり。音楽関係者によると、今回のライブが最後の日本公演になる可能性が高いという。
ライブ終盤、ビリーがハーモニカを装着した瞬間、歓声、拍手、指笛などあらゆる音が会場を包み込んだ。
(スポーツ報知 1月24日)
残念ながらそれに行けなかったが、わたしが先日行った、76歳のジョン・アダムズ指揮のコンサート(1月18、19日)のことを思わずにいられなかった。
同世代の、米クラシック界とポピュラー界を代表する2人、作曲家でもありパフォーマーでもある2人が、相次いで日本で公演したことになる。
ジョン・アダムズは1947年2月15日生まれ、ビリー・ジョエルは1949年5月9日生まれ。
いわゆるベビー・ブーマー、日本式にいえば団塊世代だ。
「戦争を知らない」第一世代。1960年代に青春を送った。日本で全共闘世代、欧米では「68ers(シックスティーエイターズ)」ともいわれる。
ジョン・アダムズはマサチューセッツ州、ビリー・ジョエルはニューヨーク州、いずれもアメリカ東部で生まれている。
ハーヴァード大卒のジョン・アダムズと、ブルーカラー的なイメージがあるビリー・ジョエルは、社会階層がちがうように思えるが、どちらも中流家庭で、生い立ちにそれほど差があったとは思えない。
共通しているのは、どちらの親も音楽好き、しかもクラシック音楽好きだったこと。幼いころから、両親の影響で、本格的な音楽に触れていた。
そして、どちらも青春期に、ジミ・ヘンドリックスに象徴される1960年代の音楽を浴びている。権威を疑い、自由を欲する価値観を共通にもっている。
同じ音楽家、作曲家といっても、ジャンルがかけ離れているので、お互い意識するということはないだろう。
だけど、2人の音楽は、こじつけめくが、似てなくもない。
どちらも、1960年代で「荒廃」した音楽状況のあとに出現した。
クラシック音楽界は、無調と実験にあけくれた「前衛音楽」で聴衆を失っていた。
ポピュラー音楽界は、ビートルズの解散後、「パンク」「プログレ」で混乱していた。
ジョン・アダムズも、ビリー・ジョエルも、60年代までに獲得された「ビート感」を前提に、「歌(調性、歌謡性)」をよみがえらせた。
ジョン・アダムズの音楽は「ネオ・ロマンチシズム」と呼ばれることがある。
ビリー・ジョエルは、知られるようにクラシック調のソロピアノ曲を作曲・出版しており、それはシューマン風のロマン的楽曲だ。
Billy Joel, Opus 1. Soliloquy ('On a Separation')
日本の同世代の文化人としては、なんといっても村上春樹(1949年1月12日生まれ)がいるが、ジョン・アダムズやビリー・ジョエルに匹敵する人が音楽界にいるかは難しい。
亡くなったサディスティック・ミカ・バンドの加藤和彦(1947年3月21日生まれ)などがそれに当たるだろうか。
日本の音楽界では、むしろもう少し下の1953年生まれ前後の人材が豊富だ。
クラシック界では西村朗、吉松隆など。ポピュラー界では、中島みゆき、さだまさし、松任谷由実、坂本龍一・・。
なぜこの世代に才能が集中しているのか、わたしにはわからない。
ともあれ、ビリー・ジョエルも、まだ引退せず、また来日してほしい。
ジョン・アダムズも元気いっぱいだった。
ジョン・アダムズ来日インタビュー動画
日本では「後期高齢者」などと言われるが、アーティストにとって70代はまだ引退する歳ではない。
ダニエル・バレンボイムやポール・マッカートニー(いずれも1942年生まれ、81歳)など、少し上の世代には、さすがにそろそろ引退の時期が近づいているかもしれない。
でも、それより年上のテノールのプラシド・ドミンゴ(1941年生まれ、83歳)は、5月に来日して、また歌うのである。
<参考>