節約老人
老人の節約志向が強まっている、という日経記事。
老後に備えてためた金融資産が、80歳を過ぎても平均で1〜2割しか減っていないことが分かった。長生きする可能性を意識して節約志向が強まっているようだ。
(日経 7月28日)
貯金には手をつけず、年金などの収入だけで生活しているのだろう。
老後を迎えるにあたって何千万の貯金が必要だ、という議論も、結局使わないなら意味がない。
同じ老人として、この気持ちはよくわかる。
「お金を残して死んでしまうリスク」より、「お金がなくて長生きしてしまうリスク(老後破綻)」のほうが怖くなる。
その結果、節約ばかりがうまい老人になる。
かつて出版界にいたとき、
「団塊世代が引退したら、シルバー消費ブームが来る」
みたいなことが言われていた。
高度成長期に生きた団塊世代は消費の喜びを知っており、人口の多い彼らが引退することで、「老後消費」に火がつく、みたいな話だった。
老人向けの雑誌や、老人向けのアパレル、老人向けレジャー、老人向けスポーツクラブ、などなどが流行るだろう、と。
でも、空振りだった。
わたしも「老人向け」出版企画やサービスをいくつか考えたが、ひとつも実現しなかった。
「シルバーマーケット」なるものが存在しないことがすぐ分かったからだ。
金持ち層では、老後に夫婦で世界一周クルーズみたいなのが一時流行ったが、その後聞かなくなった。
いま、「シルバーマーケット」があるとすれば、紙の新聞や紙の雑誌などの需要だけかもしれない(「80歳」だの「90歳」だのがタイトルに入った本がよく売れる)。
でも、それらは新たな消費ではなく、ただの習慣的消費で、細っていくだけである。
いま自分が老人になれば、その理由もわかる。
老人になれば、見栄も欲もなくなり、「消費の喜び」なるものの虚しさを知るばかりである。
旅行だって美食だって、その喜びは収穫逓減の法則に従う。
それに、今は「長生きのリスク」だけではない。
現在、物価上昇で年金が目減りしており、今後は支給額が減らされ、医療負担その他は増加していく恐れが強い。
消費どころではない。
節約あるのみである。
(最近、老人の万引きが増えているが、それも、お金がないのではなく、お金を使いたくないからだそうだ。節約のための万引きである)
こんなに老人がカネを使わないと、日経記事の指摘するごとく、「国内消費を下押し」してしまうから、政府と金融業界は、やれNISAだ金融リテラシーだと、なんとか貯金を切り崩そうとあの手この手を打ってくるだろう。
でも、日本人は、投資より貯金が得意ですから。消費より節約が性に合ってますから。無駄ですね。
もし老人に資産を吐き出させる奥の手があるとすれば、それは「安楽死」ではなかろうか。
貯めたお金を全部使えば、その金額に応じて、「最高の死」が迎えられる。そんな「サービス」を売ればよい。
それによって老人は、「長生きのリスク」からも、「カネを残して死ぬリスク」からも、同時に解放される。
老人は、「最高の死」を迎えるためだけに、せっせと節約するようになり、最後にそのカネを使い切って死んでくれるだろう。
・・・いいことを思いついたな。政府はこのアイデアを買ってくれないだろうか。
<参考>
節約老人の蔓延は、政府とマスコミが「老後破綻の恐怖」を煽り、脅しすぎた結果でもある↓