【Netflix】「デリヴァランス 悪霊の家」グレン・クローズにアカデミー賞を!
【概要】
デリヴァランス -悪霊の家-
the deliverance
2024 | 年齢制限:16+ | 1時間 52分 | ホラー
心機一転、家族とともに新居に引っ越したシングルマザーのエボニー・ジャクソン。だが、そこにはすでに邪悪な何かが住み着いていた...。実際にあった恐ろしい出来事に着想を得たドラマ。
出演:アンドラ・デイ、グレン・クローズ、モニーク
予告編(英語)
【評価】
8月30日にNetflixで公開。
2011年にインディアナ州で起こったとされる「悪魔憑き」事件をもとにしている(Ammons haunting case)。
まあ、黒人版の「エクソシスト」。
元祖「エクソシスト」は、富裕な白人の家で起こるが、それが貧しい黒人の家で起こるとどうなるでしょう、みたいな映画。
貧しいシングルマザーの奮闘、という描写が続くで、同情してしまうが、映像的には、言うほど貧乏という感じがしない。家もでかいし。
そのシングルマザーの3人いる子供のうち、末の息子に悪霊が取り憑く。
「デリヴァランス」は、「救済の儀」と字幕で訳される。
「エクソシズム」とは別で、仲介者なし、神の助けだけで悪魔祓いをすることだという。
つまり、元祖「エクソシスト」でマックス・フォン・シドーが演じたような学識高いエクソシストは登場せず、黒人教会の女牧師が「愛の力」で悪魔祓いを試みる。
まあ、下町のナポレオン、みたいな感じの、下町のエクソシズムだ。
そんな感じで、無数につくられた「エクソシスト」模倣品の中では、割に正面から新味を出そうと頑張っている映画である。
監督は、「プレシャス」(2009)でアカデミー監督賞にノミネートされたリー・ダニエルズ。
いくつかの「エクソシスト」続編よりは、原点回帰的な中身があると思う。
欠点は、なかなか怖くならないことだろうか。
映画全体としては、100点満点で65点くらい。
怖いのは、シングルマザー(アンドラ・デイ)と同居する母親役を演じるグレン・クローズの怪演で、これは衆目の一致するところだろう。
英語圏のXでも「Glenn Close」が連日トレンドワードになるほど話題になっている。「映画はもひとつだけど、グレン・クローズがすごい」が多数派だ。
高齢のがん患者で、家族で唯一信心深いが、にもかかわらず黒人好きの白人女、というキャラクター。
グレン・クローズがウィッグをかぶって、胸元を見せながら、若い黒人の男(オマー・エップスが久々の登場)を誘惑するシーンがいちばん怖い。
(そして、ネタバレになるから詳しくは言えないが、グレン・クローズは死んでも、安心してはいけない)
「ヒルビリー・エレジー」の時と同じで、グレン・クローズの演技はとにかく目立つ。彼女が全部持っていってしまう。他の共演者がちょっと気の毒なくらい。
グレン・クローズは現在77歳。
長いキャリアの中で、8回アカデミー賞候補となったが、まだ一度も取れていない。
1982年、「ガープの世界」で助演女優賞候補。
1983年、「再会の時(The Big Chill)」で助演女優賞候補。
1984年、「ナチュラル」で助演女優賞候補。
1987年、「危険な情事」で主演女優賞候補。
1988年、「危険な関係」で主演女優賞候補。
2013年、「アルバート氏の人生」で主演女優賞候補。
2017年、「天才作家の妻 40年目の真実」で主演女優賞候補。
2020年、「ヒルビリー・エレジー」で助演女優賞候補。
同世代のメリル・ストリープが3回受賞しているのに対して、不公平ではなかろうか(もっとも、メリル・ストリープは、オスカーに22回ーー史上最多ーーノミネートされているが)。
わたしは、1990年の「運命の逆転」でオスカーを取るべきだったと思うが、なぜかノミネートもされなかった。(「運命の逆転」でジェレミー・アイアンズは主演男優賞を取った。この年の主演女優賞は「ミザリー」のキャシー・ベイツ)
思うにグレン・クローズは、「危険な」役を好んで選ぶ。今回の「黒人好きの白人女」も、人種問題の機微に触れる役だと思う。役者として挑戦的なのだ。それでわりを食っている。
アカデミーの委員も、グレン・クローズに賞をあげたいのだが、「こんな役ではなあ・・」といつも躊躇するのでは。
7回目のノミネートの時、彼女は「哀れみのオスカーは欲しくない」と言っている。
でも、この映画でグレン・クローズにオスカーをあげてもいいのではなかろうか。
「ガープの世界」や「白と黒のナイフ」あたりから、40年以上彼女を見てきた古株の映画ファンとして、そう思ってしまう。
お互い、もうすぐ死ぬ身であれば・・
<参考>