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【Netflix】「やがて、霞立ち込めて」ボルネオ島の首狩り殺人を描く デイヴィッド・リンチ的スリラー

【概要】

やがて、霞立ち込めて
KABUT BERDURI
Borderless Fog

2024 | 年齢制限:16+ | 1時間 51分 | サスペンス

インドネシアとマレーシアとの国境に沿って発生する、おぞましい連続殺人事件。大都市から派遣されて捜査に乗り出した刑事はやがて、自身の忌まわしい過去と向き合ってゆく。

出演:プトリ・マリノ、ヨガ・プラタマ、ルクマン・サルディ
(Netflix公式サイトより)

予告編


【評価】


8月1日に公開されたNetflixオリジナルのインドネシア映画。

見始めて、「この監督は才能あるな」とすぐ気づく。インドネシア映画ということで、失礼ながらもっと泥臭い映画を想像していたが、センスが洗練されている。

「エドウィン」という名の監督。知らなかったけど、アジアの映画祭で賞を獲りまくっているインドネシアの有名監督らしい。1978年生まれの48歳。

監督のEdwin。履いてるジーンズのことではない(Wikipediaより)


わたしが見始めたのは、ボルネオ島のインドネシア・マレーシア国境が舞台、というのに興味を惹かれたからだ。

ボルネオ島は面積で世界3位のでかい島で、日本の国土の約1.9倍ある。インドネシアが面積の78%だが、マレーシア、ブルネイの領土もあり、「世界で最も多くの国の領地がある島」(Wiki「ボルネオ島」)だという。戦争中は日本の領土にもなった。

ボルネオ島(カリマンタン) Wikipedia「カリマンタン」より


8月17日はインドネシア独立記念日。インドネシア最大の祝日で、この映画も、それに合わせて公開されたのでは、という説がある。劇中でも独立記念日への言及がある。

1945年8月17日に、インドネシアがどこから独立したかといえば、日本からだ(それ以前はオランダ領)。こちらの終戦があちらの独立。


ボルネオ島の国境付近は、アジアでも、最もディープな場所。共産ゲリラや犯罪者が潜むという、その場所の危険な魅力が、この映画の半分以上と言ってよい。

この映画は、インドネシア・マレーシア国境付近の文化人類学者たちのリサーチをもとに発想されたそうだ。ボルネオ島のインドネシア領は「カリマンタン」と呼ばれるが、この映画の多くは、実際に西カリマンタンの国境付近で撮られている(残りはジャワ島で撮られた)。

この場所を映像に残すことが、映画の目的の一つだというのが伝わる。


この映画では、いわゆる「土地カン」がまったく働かない。

観客は、普段は当たり前の地理感覚が、狂ってしまう環境に放り込まれる。

密林の中から、何が飛び出してきても不思議ではない、という。

それ自体がスリルになっている。

監督は、そういうロケーションの魅力を、非常に感覚的にうまく切り取っていく。


国境で、首と胴体が別人の死体が発見される、という発端から、2013年の北欧ミステリー「ブリッジ」を思い出す人は多いだろう。

パクっているかもしれないが、似ているのはそこだけで、両国の警察が協力するような展開にはならない。

戦争中、ボルネオ島には「首狩り族」がいると日本軍に恐れられたそうだ。まあ確かに、この映画でも、鮮やかに首を狩る。文化的には、首狩りにはたぶん「抵抗」の意味がある。


過去の失敗を引きずる主人公の女警官の人間ドラマも、よく描かれている。

だが、この監督はアクションを撮るのはあまりうまくない。

そして、肝心の連続殺人の話がわかりにくく、もう少し脚本を整理して欲しかった。

でも、デイヴィッド・リンチ的に、わざとわかりにくくしている、という評も見た。

そうかもしれない。とくに最後の場面は・・・


映画の採点としては、100点満点で65点くらいだろうか。

でも、監督の才気と、ロケーションの唯一無比の魅力で、見る価値のある映画になっています。



<参考>


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