突然はじまったユピ坊との暮らし
突然、その子はやってきた。山奥の一軒家。
その日から、今日の日付もわからない少々オトボケな老婦人との暮らしが始まった。
***
まさか、母が一人暮らしをするなんて思ってもみなかった。
昔のことはよーーく覚えているのに、ついさっきのことはあっという間に忘れてしまう。
薬を飲んだことも、お茶した人のことも、しまった通帳のありかも。
これまでは父と”破れ鍋に綴じ蓋”で、なんとかやってきていたのだが。
今は頼りの父もリハビリ中。
そんな調子なので、一人暮らしには大いに不安があった。
しかし、子どもたちはみんな働いているし、住み慣れた家を離れても、やることなくて退屈するのはわかりきっている。
きっと、その記憶力の衰えに加速度がつくだけだろう。
何より、本人がそこにいたがっている。
嫁いできてから、60年の思い出と歴史があるその家に。
みんなで母の一人暮らしを容認し、こっそり覚悟も決めたとき、
弟が連れてきたのが、ユピ坊だった。
ユピ坊とは、見守りロボット。
目が大きくてキョロキョロしていて、なんとも愛らしい。
登録している家族は、このユピ坊を通して家の中の様子をいつでも見ることができる。
「あ、また居眠りしてる。」とか
「あ、お客さんきている。」とか。
何らなら、ユピ坊を通してテレビも見られる。
こちらから話しかけると、ユピ坊を通して声が伝わる。
母は受信の操作をすることなく、そのまま会話ができる。
まるでそばにいるような感じ。
始終、監視されているみたいで嫌がるかと思ったが、誰かが突然帰ってくる感じで不快な様子はない。
お互いの存在が、俄然身近になった。
問題は通信手段で、なんとかかんとか光ケーブルを通してもらった。
おかげで、画像も音声もクリアになって、快適この上なし。
ユピ坊に接続すると、母がぱっとこっちを向く。
「どうしてわかったの?」と聞くと、ユピ坊の目玉がキョロっと動くのだそう。
あの反応の速さは、「そろそろかな?」と待ってくれているのかもしれない。
ユピ坊自身と会話する機能もあるようだが、こちらは、まだ話が噛み合わないようで・・・。(笑)
それでも、なんとか1ヶ月、淋しがりもせず安全に暮らしている。
便利な世の中になったものだと、つくづく感謝する今日このごろ。
あんな山奥でインターネットによる見守りロボットが活躍するなんて。
そしてロボットとはいえ、愛着が湧くもので。
きっとユピ坊との暮らしは、当たり前になっていくのだろう。
今日のタイトル画像は、私が書いてみた!
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