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【読書録】傲慢と善良


・傲慢と善良
著者:辻村 深月 朝日新聞出版 2022/9/7

https://publications.asahi.com/feature/gouman/


「傲慢」と「善良」は同居する。
タイトルが頭の中でリフレインした作品。

読後すぐですが、どこを切り出していいか分からない程厚みのある作品でした。

感情が揺さぶられた。というより
読みながら眉間に皺が寄っていることをこれほどまでに自覚した作品はなかなかないかもしれない。

ネタバレは避けます(具体的な部分を書くのが苦手なだけです)が、
印象に残っている部分を記録します。


構成

本書は大きく二部構成になっており
前半と後半でお話の軸がだいぶ変わっております。

二部が始まったときはそうくるかーといった印象。
驚きつつも先の展開が気になりどんどん読み進めました。


眉間に皺が寄る(ほめ言葉)文学作品

文学作品でした。いや、そりゃろうだろうって話なんですけど
心理描写と情景描写が細かいのです。その場にいるかのような、
自身が主人公の中にいるような感覚になることもままありました。

あれこの話…って思い立ったところで主人公が全く同じ回想したり
するんですよ。結構多かった気がする。


好きなポイント

私の好きなポイントは
言葉を尽くして「傲慢」と「善良」の嫌すぎる部分を表現してくれているところです。

何度も何度も出てきます。めちゃくちゃ良い。

主人公が多くの人と出会う中で、様々な人間のそれぞれの傲慢さ、善良さに含まれる嫌な部分を時に隠しながら、時に露骨に書いてくれています。


あとは主に第一部ですけど、主人公と向き合って
登場人物が一対一で会話をしているシーンが好きです。
目的があるとはいえ、誰かと言葉のやりとりをするって大変だと思う。
そして人は立場や考え方の違いから無意識に相手を傷つけるという
避けられない現実がきちんと書かれていてぐっときました。

本書を通じて自分自身の内にある傲慢さも、善良さからくる残念な部分も、しっかり突き付けられた気がします。
また、人と会話する中で知らずに誰かを傷つけているんだろうなと思い至りました。


語りたい作品(ただし、他人と)

本書には登場人物が多くて主人公の周囲のいろんな人が出てきます。
育ってきた環境や生きていく中で身につけた考えによって人間は出来ています。
読者やその周りにも本書に出てくるような人がいるかもしれません。

印象に残ったシーンや、各登場人物の考え方への共感や不満について語りたいですね。
ただし、自分と利害関係がなく、身近過ぎないくらいの距離感の読者と!

なぜならそれぞれの登場人物に傲慢さと善良さがあるから。
本音で話すと自身の内面の嫌な部分がより浮き彫りになりそう。

深堀りし過ぎないから成り立っている関係性というのがあると思うんです。
特に身近な人ほどどうしても見えてしまう嫌な部分からは目を逸らしていたりする。

本書について語るのであれば、他人であればこそより深く話せる気がします。”あなたは”そういう考え方なのねって割り切れるから。

そういう読書会したいなあ。


好きな文章


真面目でいい子の価値観は家で教えられても、
生きて行くために必要な悪意や打算の方は誰も教えてくれない(略)
悪意とかそういうのは、人に教えられるものじゃない。
巻き込まれて、どうしようもなく悟るものじゃない
 P152

この作品、名言たくさんあるんですけどね。ズドンときましたね。
その通りだと思う。「巻き込まれて、どうしようもなく悟るもの」が特に好き。
成長の過程で「巻き込まれて、どうしようもなく悟って」しまった瞬間のおぼろげな記憶が、この文章を読んだときに頭の隅で小さく弾けてチクッと胸を刺しました。


好きな登場人物


はい。小野里さんです。
結構共感してくれる人もいるのではないでしょうか。

強キャラ感すごかったですね。この方。
私の脳内ではビジュアルや声がほぼ銭天堂の紅子さんでした。

最後に

結構文量ありましたがあっという間でした。
これだけの長さの小説を読むと好きなシーンとかの他に、読みやすく、考慮の余地はありつつ、矛盾なく整合性が取れた物語であることに素直に感心したりします。素晴らしいです。

自身の感想を書いたので
ようやく他の人のレビューや感想、考察なんかを心置きなく読めます。
それも読書後の楽しみです。わーい。
え?映画化してるのか。今知りました。

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