夏川翔
短編集
「ドラゴンボールかよ」その噂を聞いた時、俺はツッコまずにはいられなかった。七不思議を全て知ってしまうと不幸になる、というのが定番である。しかしこの大学の七不思議では、なんと願いが叶ってしまうらしい。でも七つってちょっと多い。暇を持て余している大学生とはいえ、七つ全部を探そうとする奴はいない。この男を除いては。 その噂を知った太津朗は、深夜の学校に忍び込んで調査するようになった。一人じゃ怖いから、というなんともストレートな理由で、いつも俺を連れて行く。彼とは付き合いも長いし、俺
「こんだけ暇だと、アホなこともするわな」 掃除と品出しを終えた俺と下田は、深夜のコンビニで暇を持て余していた。全くの無の時間。客もいないしやることもない。こういう時なんだろうか。アイスケースに入ってSNSに投稿してしまうのは。人の目がない店。そんな特殊な空間は非日常への入り口のようで色鮮やかにみえた。 下田は店内をぐるっと一周すると、レジに立っている俺の方へと歩いてきた。 「俺とお前の二人だけ。強盗に来てくれって言っているようなもんだよなー」下田はおどけたようなポーズをとっ
サークル作りました↓ 各々が公開している小説に対して、感想を気軽に言い合えるようなところがあればいいなと思って作りました。 (先ほど審査が通ったばかりなので、まだ何もありません) 書いてみたものの、疑問があったり困っていることもあるとは思います。私自身たくさんあります。そういったものを作品と一緒に提示してもらうことでお互いに言い合えるような環境にしたいと考えています。 私が書いたものをマガジンにまとめました。 プロでもないし、長く書いてきたわけでもありません。そんな者
まずは10本書くことを目標にしていました。 一旦キリも良く、それに小説投稿しかしていなかったので、書いた感想などを記してみようかと思います。 まずは読んでいただいた皆様、本当にありがとうございます。 小説のようなものを書いたのは初めてですし、noteも初めて使ったので、どのくらい反応があるかも未知数でした。全く読まれないかもしれないけど、それでもいいやくらいの感じで書き始めたので、反応を頂けたこと自体がとても嬉しいです。 当初の想定では、ネタ・文章作成・校正をそれぞれ1日
「お返し? あの、私、あげてないんだけど」そんな反応が返ってくるなんて想像もしてなかったのだろう。佐々木は固まってしまった。突き出された手には、ラッピングされた箱。それは私がプレゼントしていない、バレンタインデーのお返し。 「で、でもさ。英夫が見たっていうんだ。朝、涼川さんが僕の席で何かしてたっぽいのを」 こっそり入れるために少しだけ早く登校したんだけど、ダメだったか。でも見られていたこと自体は問題じゃない。一体なぜ、お返しの相手が私なのか、それが疑問だった。 「うーん、
浮気をしているのかもしれない。私は居ても立っても居られず、駅のホームから改札へと戻った。 「いちおう、はじめまして、だね」彼の顔をまじまじと見る。少し照れた様子の彼の顔は、画面越しで見るのとあまり変わらなかった。遠距離恋愛ってことになるのかな。知り合ったのはネットでだし、告白は電話だった。もちろん返事はOK。細かいことは言ってられない、お互いもう二十台後半だもん。でも岡山と東京は遠かった。告白から半年経って、やっと彼の住む東京まで来れた。一応、一泊の旅行ということになって
「なんで後ろを歩くのよ?」 彼女は立ち止まって振り返る。その顔は不満で溢れていた。幅のない歩道では、僕は無意識のうちに彼女の後ろについてしまう。どうやらそれが気にくわないようだ。 「前を歩いてよ」 「いいけど」そう言って彼女の前に出る。 僕は背が高い、なんなら歩くのも速い。前を歩くといつも困ってしまう。一体どのくらいの速度で歩けばいいのだろうかと。速すぎると彼女を置いて行ってしまう。それが気になって、何度も何度も後ろを振り返っては彼女を見てしまう。それはそれでなんだか
このカツラには毛がない。それは数センチほどの小さな小さな謎の機械。僕はそれを頭頂部よりやや手前に載せると、専用のタブレットを手に取る。 画面にはあらゆるタイプの髪型が映っている。ホストみたいな髪型や中にはモヒカンまである。僕はその中から一つ選ぶ、すると頭の上にある機械から毛が生えてきた。正確には生えてきているように、見えている。 これはホログラムで作られたカツラ。色や質感、長さや髪型までも自由に設定できる夢の機械。センサーが頭の形や残っている髪を検知し、フィットするよう
車両には、僕独りが取り残されている。電車はとっくに終点に着いていたようで静かだった。開いたままのドアからは、生暖かい風が吹き込んでくる。僕は慌てて立ちあがる、すると視界の隅に白い物が見えた。振り返ると隣の座席にスマートフォンが落ちていた。ギラギラしたカバーからして、それが女性の物であるということは容易に想像がつく。ふと、隣に女性が座っていたことを思い出した。駅員に届けないと――僕は落とし物を手に取り電車を降りる。 案内表示に従い改札に向かっていると、手にしていたスマートフ
男ってさ、ラーメン好きだよね。ラーメン好きな彼氏に連れられて、わたし達は、色んな店を巡った。わたしには、彼には伝えきれずにいたことがある。それは父がラーメンを営んでいること。 父は数年前に脱サラして、念願のラーメン屋を始めた。わたしが大学生になった今も続けているようだった。 なんとなく恥ずかしくて、彼には言えなかった。 彼からLINEがきた。 『明日ラーメン食べ行こうよ。おいしそうな店見つけたんだ』 はあ、またラーメン。嫌いじゃないんだけれど、たまには女子が喜びそ
『他店より高い商品がございましたら、ご遠慮なく販売員にお申し付けください』そう書かれた広告が、自動ドア横のガラスに何枚も貼られている。僕と上司の工藤さんは、家電量販店の前に立っていた。その謳い文句は、僕達の足を止めるには充分すぎるほどの存在感があった。 「ここ、入ったことないんですよね」僕は建物を見上げる。 「俺もないな。ポイントカードがあるから、いつも同じ店使うしな」 「ですよね。まあでも時間あるし、行ってみましょうか」 自動ドアを通り店内に入る。案内表示を一瞥すると近
俺の胸には“夏休み“という言葉の響きからくるトキメキと、暇を持て余してしまいそうな不安さが入り乱れていた。終業式が終わり、午前中で解放された俺達4人はマクドナルドで昼食をとっていた。 「よっしゃー! そこ振るかね?」 また、裕二にやられた。最近の俺達のブームはスマートフォンの野球ゲームで、暇さえあれば対戦をして遊んでいる。 裕二の興奮を横目に、健太郎がぼやく。 「明日から休みっていってもさ、なんか特別やることないよな。いいよなあ、彼女いるやつらは」 「たしかにな。俺達
「月島ってさ、除霊師なんだってさ」 視線の先には、月島奈々子がいた。休み時間だというのに、窓際の席で独り憂鬱そうに外を眺めている。彼女の一家は有名な霊媒師らしい。それがいつの間にか除霊ができる女子高生として、クラスに広まっていた。スラっとした長い黒髪に切れ長で冷たい眼をしている彼女は、噂と相まって神秘的に見えた。 今年の夏休みは、肝試し大会をやることになっている。僕がオカルト好きだとバレてしまったが最後、肝試し大会の場所探しを押し付けられていた。 僕は月島の方へ向
Tシャツとハーフパンツで充分だろう、シャワーを浴びた僕は薄着で座る。電源ボタンを押し、ノートパソコンを立ち上げた。SNSを一通り確認し終えた僕は、旅行代理店のホームページを開いた。 ゴールデンウィークは亜希と一緒にどこか旅行に行って、羽を伸ばしたいと考えていた。目的地、宿泊日、人数を入れて検索。いくつか適当なホテルを選んで料金を確認すると、僕は彼女にLINEを送った。 『沖縄はどう? 二人で二泊十数万円くらい』 『うーん、沖縄ってもう海に入れるのかな?』と亜希からすぐ